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金銀童話・王の金糸雀(三部) 5 【R-18】 

いつか王さまに遮られた昔語りを、金糸雀は歌うように語った。

「あの日・・・子どもだったわたくしは狼の遠吠えが怖くてずっと震えていました。」
「抱いてくださった王さまの懐で、やっと眠りにつきました・・・・」
「眠った頬に、涙の筋が残っていたな・・・おまえは、いつも可哀想なくらい聞き分けの良い子どもで、一人静かだった。」

金糸雀の頬に、筋張った武人らしい手を伸ばしそっと止まらない涙を舐めると、王さまはじっとすみれ色の瞳を覗き込んだ。

「余はいつも、後悔していた。あの時、教会で手を取るべきではなかったと・・・。
紅い毛織のローブの下から現れた、そなたの紫水晶(アメジスト)の瞳に、余は一目で魅せられて、どうしても傍に置きたくなったのだ。」
「あの時からずっと、余にとってそなたは紛れもなく癒やしの天使だった。」

王さまは昔と変わらぬ微笑みを浮かべていた。

「歌え、金糸雀・・・余のいなくなった後も。」

たまらず、金糸雀は王さまに縋った。
溢れてくる気持ちを伝える最期の機会だった。

「王さ・・・ま・・・王さま・・・」
「そんなことをおっしゃると・・・悲しくて、胸が潰れてしまいそうです・・・」

王さまのいなくなる世界で、生きてゆくことを思うと離れがたい金糸雀だった。
泣き濡れた金糸雀の小さな顔を、両の手で包むと王さまは優しく語った。

「この世界に余の姿が見えなくなっても、そなたの傍らに常に余は在る・・・」
「そなたが金糸雀(カナリア)なら、余は夜鳴き鶯(ナイチンゲール)となって、おまえの歌う木陰に行こう。」
「歌え、金糸雀、余と后の・・・」

そう言いかけて、ふっと王さまは言い淀んだ。
それまで青ざめていた王さまは一瞬少年のように上気し、顔を向けると、ついに口にした。

「・・・余の、愛するアナスタシオ。」

これから今生の別れをしなければならないときに、初めて王さまは本心を打ち明けたのだった。
アナスタシオと名前を呼ばれた歓喜が、ぶるりと背筋を這い登る。
震える唇が、「王さま・・・」と勇気を振り絞った。

「わたくしは、いつでも王さまのものです。王さまのお傍で歌う小さな金糸雀です。」
「ずっと、王さまのお傍に居たかった・・・。」

万感の思いをこめて、今こそやっと口にした金糸雀だった。
どんと、胸に倒れ込みぎこちなく押し当てた唇は、夜ごと咲き誇る大輪の白薔薇の手慣れたものではなく、あの日王さまに見つけられた湖の国の小さな王子のものだった。
ほんとうに愛する者の前では、どんな手管も鳴りをひそめてしまい、初めて愛される少年のようにカストラートは震えながら身を縮め固くしていた。

長い王さまの指がそっと顎にかかると、額に…頬に…唇にと、優しくついばむ様に唇が落されて行く。
烈しい動悸が王さまに届き、王さまはそっと胸に手を当て慈しむように微笑んだ。
王さまが舌の先でつつくと、金糸雀の舌は慄いて逃げ出そうとし、やがて少し応えては逃げてゆく。
息を詰めたのに堪え切れず、はふっと酸素を求めて喘ぐと王さまは、優しい目を向けた。

「何も知らぬ幼子のようだ。」
「王さまの前に出ると、わたくしはいつも幼いアナスタシオになってしまいます。」
「今は、世界中の誰もが欲しがる、美しい銀色のカストラートだと言うのに。」
「余の金糸雀・・・。」

冷たい石の床に、金糸雀の厚い毛織のローブは広げられて、王さまは金糸雀の身体をそっと倒していった。
胴着に飾られた細いリボンを一つずつ丁寧に解きながら、毛織の下着から現れた滑らかな肢体に王さまは息を呑み・・・やがて触れた。
真っ白な肌に慎ましく薄く紅を刷いた胸の印は、王さまの手が触れるたび、その色を強くしてゆく。
王さまの舌がすくい上げ、なぞり、片方の胸の先端は摘み上げられた。

「あまり、御覧にならないでください。」
「なぜ?」
「・・・カストラートの身体だから・・・。」

カストラートの身体は、長い訓練によって音を共鳴させるため胸が鳩胸になっていた。
薄く涙を浮かべて顔をそむけたら、ふっと小さく声を立てて王さまが笑った。

「アナスタシオ。余が、怖いか?」
「王さま…王さま…いいえ、。」

名前を呼ぶばかりの金糸雀は、必死で首を振った。
残された時間をすべてかけ、王さまは心から金糸雀を愛した。
銀色の髪を乱し、金糸雀は全身全霊で王さまを受け止めた。

「余を憎め、アナスタシオ。無垢なそなたを天使にした、余を呪え。」
「あぁ・・・、王さま・・・。」

金糸雀と呼ばれたアナスタシオは、どれほど王さまを愛していたか、伝えるすべがあったなら・・・と両腕を王さまの首にかけ咽び泣いたのだった。

「わたくしが、本当の天使なら、王さまとご一緒にまっすぐに神の御許に駆け上がり、お傍で・・・天国の花園で歌うのに・・・。」
「たった一人で、黄泉の国へなど行かせはしないのに・・・。」

双球を抜かれた飴色の胡桃は、つつましくアナスタシオの白く輝く身体に張り付いていた。
それこそが、男でも女でもない天使と言われた禁断のカストラートの証しだった。
王さまの愛撫は迷うことなく残された芯へと向かう。
薄く透明な液体でおおわれて、確かに勃ちあがっていた雄茎はふるりと王さまの愛撫に震え、手のひらに透明な露を吐いたのだった。
狼狽する金糸雀を、抱きかかえると王さまはそっと、膝に手を掛けた。
薄く色の付いた最奥に、アナスタシオの吐いた薄い液体を塗り込めると、王さまはじっと菫色の瞳を見つめた。

「アナスタシオ・・・・。余は、お前が拒むなら、これ以上のことはせぬ。」
「いいえ、王さま。わたくしは、王さまの全てを忘れないで居たいのです。わたくしを、愛おしいとお思いなら・・・どうか・・・。」

王さまを最奥へと誘いながら、カストラートは全身を薔薇色に染め、永久の別れを思い嗚咽を漏らしていた。
深く抱きしめられて、懷かしい王さまの背中に爪を立てた。
最奥に埋められた最愛の人の雄芯を感じながら、あぁ・・・と啼いた。

いつまでそうしていただろう。
別れの時が近づいていた。
処刑を告げる鐘の音に、

「アナスタシオ・・・。」
「余の愛する、世界でただ一羽の金糸雀(カナリア)。」

一番欲しかった言葉を額にそっと残して、王さまは金糸雀をその場に残し、斬首の刑を受けるために立ち上がった。
金糸雀の腕の中には抜け殻のように、王さまのマントだけが残されていた。
腕の良い首切り役人が、少しでも苦痛をなくすために磨かれた斧を手に、部屋に入ってゆく。

斬首の部屋には、高貴な人だけに許される、投げ出した首を載せるためのゴブラン織りのクッションも準備されていた。
飛び散る血を吸わせるための、麦わらが敷き詰められた石の床に王さまは上体を投げ出し、静かに石の台に首を載せた。
今はすっかり憂いも晴れて、処刑人の勧める目隠しも必要ないと断った王さまの瞼の裏には、銀色の幼いアナスタシオ王子と、美しいお后さまが微笑んでいた。
愛しい人たちの面影が王さまに寄り添い、伏せた王さまの耳には美しい音楽が聞こえてきた。

それは、出逢った昔、湖の国の城で耳にした懐かしい歌劇のセルセだった。

拙いボーイソプラノではなく、銀色のカストラートの伸びやかな技巧に彩られた天使の声が、どこまでも澄み切った空へと響いたのだった。



Ombra mai fù
di vegetabile,
cara ed amabile,
soave più

こんな木陰は 今まで決してなかった
緑の木陰
親しく、そして愛らしい、
よりやさしい木陰は・・・・


金糸雀の歌う、風で梢の揺れる透明な世界へと思いを馳せながら王さまは、天国へと旅立っていった。
王さまの忠実な司令官も、その後、王さまの後を追い、教会では全ての終わりを告げる鐘の音が、厳かに鳴り響いた。
悲しい鎮魂歌に送られて、葬送の長い列は続いてゆく。
銀色のカストラートが見上げる濃い青い空に、小鳥が二羽、仲良く高く舞い上がった。

「王さま・・・」
「これからも・・・兄上と、どこまでもご一緒なのですね。」

なぜか、その二羽が王さまと王さまの忠実な司令官のような気がして、金糸雀と王さまに呼ばれた銀色のカストラートは、いつまでも潤んだ目で追っていた。






ハピエン!ね~、ハピエン・・・・? (*⌒▽⌒*)♪←必死。

http://www.youtube.com/watch?v=5v3llijUN6Y
現代のカストラート(実際はカウンターテノール)といわれている、フィリップ・ジャルスキーさんのOmbra mai fです。
金糸雀が歌っている歌です。
もしよかったら、お聞きになってみてください。とっても素敵です。(*⌒▽⌒*)♪

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4 Comments

此花咲耶  

鍵付きコメントRさま

(*⌒▽⌒*)♪ハッピーエンド~!!←ほんとか~

Rも・・・たしかに ・・・・あった・・・かな?
ありましたっ!!
此花渾身の濃厚エチです!(`・ω・´)

・・・頑張ったけど、頑張ったけど・・・・(ノд-。)
まだこんなレベルです。
開くとエチが溢れている、塾長さまのテクには到底及びません。
この次、頑張ります!(*⌒▽⌒*)♪←またかよ~

コメントありがとうございました。うれしかったです。(*⌒▽⌒*)♪

2011/04/16 (Sat) 21:10 | REPLY |   

此花咲耶  

鍵付きコメントBさま

(*⌒▽⌒*)♪やばす~

思いっきりハピエンです!と言い切ってしまったの、最後はどうしようかと思いました。

王様とやっと結ばれたのが、最期の夜だったのは哀しいけれど、とてもキレイで素敵でした・・・って言っていただいて、本当にうれしいです。
こんなに長いお話なのに、まともな愛の場面はたった一度だけでした。
入れるのむつかしかったです。

誰も呼ぶことのない本当の名前「アナスタシオ」と王さまに呼ばれて、とても幸せだったと思います。
なので、一応ハピエンということで。(*⌒▽⌒*)♪

コメントありがとうございました。うれしかったです~(*⌒▽⌒*)♪

2011/04/16 (Sat) 21:06 | REPLY |   

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2011/04/16 (Sat) 10:46 | REPLY |   

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2011/04/16 (Sat) 07:25 | REPLY |   

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