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杏樹と蘇芳 1 

BL KANCHORO・春企画参加作品 

【杏樹と蘇芳 1】



平安のころの話である。




広間に引き据えられたまだ幼さの残る兄弟は、人買いにさらわれてここに連れて来られた。
傍で丸くうずくまって震える幼い弟を、半身で庇う麗しい兄は年のころはまだ13,4の少年であった。

「年は?」

人買いの質問に、きりりとまなじりを上げ兄が答えた。

「14歳。これなる弟は、8歳でございます。」
「元服は?」
「筑紫(九州)に流された父の元に参り、そこで仮元服の仕儀となるはずでございました。」
「元服前か、それは良かった。無垢の美童でなくては買い手がつかぬ。」
「え・・・買い手・・・?」

人買いがずいと足を進めて、青ざめた兄の水干に手を掛け引き裂いた。
結び玉がころりと取れて、薄い少年の上半身が露わになる。

「あっ!何をなされますっ!」

思わず胸を掻き寄せた兄に「良い眺めじゃ、そのままにしておけ」と、人買いはいう。

「わが名は、山椒大夫。そなたら兄弟を、砂金一袋で手に入れたのだ。」

目の前にいる男の名は山椒大夫という。
戦で親を亡くした孤児を集め、奴婢として使い田畑を増やし今はたいそうな分限者(金持ち)となっていた。
先の戦で女房子供を無くし、この度の戦で鬼神のごとき働きをし、認められたということだった。

「あそこに見える山のふもとから海までが、わが領地じゃ。」
「この地の国司(役人)に訴えてもよいが、おそらく徒労に終わるだろうよ。わしがその国司じゃからの。」
「そんな・・・!」

兄の握り締めた手が、真っ白になったのを見て人買いの山椒大夫はからからと笑った。

「いとけない弟は寺に預けて、しばらく坊主どもの慰みの稚児とする。汐汲みの役にも立ちそうにないからの。」
「そちは、山で萱を刈れ。屋根の吹き替えが近い。」

言い捨てて退出しようとするのを、兄が止めた。

「お待ちください!山椒大夫様!」
「なんだ。」
「弟と一緒に働かせてください!わたくしが、弟の分まで働きます。」
「おまえが?」
「はい。細腕なれど、懸命に萱を刈ります。ですから、弟を寺にやるのはおやめください。どうか!・・・どうか!」
「ふ・・・む。」

裾に縋り必死に見上げた瞳は、山椒大夫を捉える。
人買いは武骨な腕を伸ばすと、兄の頬に触れた。
ぷつと元結を切れば、女子よりも美しい瑞々しい美童だった。
豊かな黒髪に、手を差し入れぐいと顔を寄せる。

「天眼石のような目じゃ。魔除けになるかの。」

意味が分からず兄は、ただじっと人買いの元締めを見つめていた。

「弟が稚児になるのはいやか?」

こくこくと必死に頷く兄の細い顎(おとがい)に手を掛けると、山椒大夫は無垢な口を吸った。
抗いかけた両腕が上がりかけて拳を作り、やがて下ろされた。
利口な兄は、すっかり立場をわかっていた。
ここで下手に抗えば、弟の身に難儀が起こる。
息を詰めて口を吸われるのを必死に耐えた。

「寝所へ参れ。」

やっと離されて息を吐いた兄に、信じられない言葉が振ってきた。

「誓って、弟の分も働くのだな。」

呆然とした兄は、山椒大夫の寝所へと引き立てられた。
弟が引き裂かれた兄の衣服を肩に引き揚げながら、「兄上…」と泣いた。
両親へ顔向けができないようなことはするまいと、兄は優しい目を向けた。
弟を守るのが、わたしの役目だ。
この災厄から、きっと守ってみせる。

「大丈夫。親方さまと話をしてくるだけだよ。お前はいい子で待っておいで。」
「ずっと、兄さまとご一緒できるようにお館さまに頼んで来ようよ。」
「兄さま・・・。」
「ほら。大きな目が涙で溶けてしまう。兄上は、お前の笑った顔が好きなのだから。」
「兄さまぁ・・・蘇芳(すおう)はいい子でお待ちします。」
「うん、蘇芳。・・・あとでね。」

頬を寄せて、甘い涙を吸ってやり促されるまま、寝所へ向かった。
兄と呼ばれる少年は、14歳。
まだ閨房のなんたるかも知らない、無垢な子供だった。

話は、数日前に遡る。




201102270008389af.jpg
BL KANCHORO・春企画参加作品です。

新しいお話が始まりました。
元ネタは、山椒大夫です。

お読みいただきありがとうございます。
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コメント、感想等もお待ちしております。       此花咲耶


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6 Comments

此花咲耶  

観潮楼管理人さま

お知らせありがとうございました。
少しの間、続きますのでどうぞよろしくお願いします。
素敵絵のご参加があればいいなぁと思っています。
むつかしいのかな・・・。

2011/04/20 (Wed) 15:19 | REPLY |   

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管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2011/04/20 (Wed) 05:00 | REPLY |   

此花咲耶  

Re: NoTitle

> や~ん♪始まりましたね、山椒大夫♡

(*⌒▽⌒*)♪は~い、始まりました~♪

> 安寿と厨子王、大好きです♪( ´▽`)。ありがとうございます♪

こちらこそありがとうございます。背中押していただいて、書こうと思いました。
此花もこのお話はとても好きです。
BLなのでお姉ちゃんが、お兄ちゃんになりました。

> 和物の昔話萌える、、、袷がはだける感じがたまりませんなぁ~☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
> ドキドキしますね。続き楽しみにしてますo(^▽^)o

がんばります~(*⌒▽⌒*)♪
コメントありがとうございました。うれしかったです。(〃ー〃)

2011/04/19 (Tue) 20:00 | REPLY |   

此花咲耶  

奏音 有華葉 さま

> ワクワク♪
> 杏樹にこれから何があるのか…

(*⌒▽⌒*)♪ね~、杏樹大丈夫でしょうか?←作者~~

> そして、同じことが蘇芳の身にも、起こりそうな予感…

杏樹ががんばって守るはずなんですが、どうなりますやら。
楽しみにしてくださいね~

コメントありがとうございました。うれしかったです~(*⌒▽⌒*)♪

2011/04/19 (Tue) 19:54 | REPLY |   

びび  

NoTitle

や~ん♪始まりましたね、山椒大夫♡
安寿と厨子王、大好きです♪( ´▽`)。ありがとうございます♪
和物の昔話萌える、、、袷がはだける感じがたまりませんなぁ~☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
ドキドキしますね。続き楽しみにしてますo(^▽^)o

2011/04/19 (Tue) 06:31 | EDIT | REPLY |   

奏音 有華葉  

NoTitle

ワクワク♪
杏樹にこれから何があるのか…
そして、同じことが蘇芳の身にも、起こりそうな予感…

2011/04/18 (Mon) 23:25 | REPLY |   

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