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わんこと夜のうさぎ 6 

俺は何とか持ち直したうさぎのシロを連れて、七糸の母ちゃんの所へ戻った。
おばさんは、心配でたまらなかったのだろう家の外で待っていた。

「おばさん。シロ、大丈夫だったよ。ちょっと、悲しくてご飯食べられなかっただけだって。」

「シロも悲しくて……?七糸がいなくなったこと、わかるのかしら。」

「うん。動物ってね、話せないけどちゃんとわかるんだよ。七糸はこれからずっと傍にいるから、もう心配いらないよ。七糸ね、お母さんの事すごく好きだったって。シロの事、お願いしますって言ってたよ。」

俺は小さなうさぎのシロをおばさんの腕に預けた。白い宝珠が赤い糸で首にぶら下がっているのをおばさんは見つけた。

「ナイトくん。これは……。」

「おまじないの宝珠だよ。俺、神社に行ってもらって来たから大切にして。きっと、これからずっとおばさんを守ってくれるよ。」

「ナイト君は……不思議な子ね……。」

宝珠に触れたおばさんには、何かわかったのだろうか。シロを抱きしめたおばさんはほろほろと涙を零し、小さく「七糸……。」と口にした。

俺、オージービーフの恩義はきっと返すから。
もう、話はできないけど七糸の「身体」を連れてきてあげる。
おばさん、待っててね。
俺は、おばさんの背中に心でつぶやいて、一目散に駆けた。

*****

シナリオ通り警察に駆け込んだ夏輝がパトカーに乗って、河原にやってくるのをわんこに戻った俺はいい子で待っていた。辺りをくんくんと嗅いでみたり、ほんの少し前足で土を掘り返したりして、ちびの小犬の演技をしてた。
お散歩途中で、いつもお利口な俺が吠えるのがおかしいんです、と夏輝が通報したのだ。最初は取り合わなかった警察官も、土が柔らかくて、動物が掘り返した跡が気になるんですと、付け加えたら腰を上げた。

「わんっ!」(夏輝~~!!)

「ナイト、おまわりさんに来てもらった。」

犬型になると嗅覚が鋭敏になり、辺りにはすえた血の匂いが漂っているのに気付く。
ほんの少し掘った警察官が顔を歪め、すぐに顔色を変えて応援を求める無線を飛ばした。
やがて青いシートに包まれた高校生を発見するまでに、それほど時間はかからなかった。
みんなが見守る中、無言の七糸は救急車に乗った。
ひき逃げされて河原に埋められていた、高校生の七糸。まだ息があったのに、埋められたらしいと俺は夏輝に告げた。
ちっぽけなうさぎのシロは、大好きな飼い主の帰りを待ちわびて、とうとう当てもなく彷徨ううち悪霊になりかけた。

さよなら。
おばさん。
さよなら。
七糸。
シロ。

俺は、もし夏輝が車に轢かれて埋められてしまったら……と想像して、ちょっとだけ泣いた。きっと俺は怒り狂って人間を呪い、ちょっぴり持った狗神の力を暴走させていただろう。シロがおかしくなりかけた気持ちもわかる。

*****

全てが終わった後、俺はお世話になった御礼に御揚げを持って、白狐さまに報告に行った。
祠のところで白狐さまに声を掛けると、肩で息をしながら現れた。封印された身で霊魂を依らせるのは大変だったみたい。

「ごめんね。白狐さま、こんなに疲れ果てて……。うんと、迷惑かけてしまったんだね。」

「他でもない。お前の願いだからな。」

乱れた銀色の髪が、数本額にかかり、髪をかき上げて潤んだ瞳は凄絶に美しく、成犬になったばかりの俺を悩殺した。

「白狐さま~。俺、もう成犬になったからさ、父ちゃんみたいに、白狐さまをあんあん言わせてもいい?白狐さまってば、すっごく綺麗で色ッぺ~からさ、俺、今すぐ抱きたい。俺の前しっぽ、白狐さまを見るとちょっとおっきくなるの。どうしてかなぁ。」

「お前はもう~……。仕方ない、おいで。」

上気した頬を、なお強い薄紅に染めて神さまは、着物の裾を開いた。
中心にある紅色の前しっぽは、ふるふると零れそうに露を戴いて、俺においでと言っていた。
言われなくても、方法は「ほんのう」が教えてくれる。
俺は迷うことなく、神様の羽二重を背後からそっと抜いた。くん……と、芳しい香気が立ち上る。

「白狐さま。いただき……よろしくお願いします。」





▼・ェ・▼ 俺……とうとう、独りで大人の階段を上るみたい。(`・ω・´)がんばる!

本日もお読みいただきありがとうございます。
明日で「わんこと夜のうさぎ」お終いです。よろしくお願いします。
ちゃんと、ping飛ぶかなぁ……(´・ω・`) 此花咲耶
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