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わんこと夜のうさぎ 2 

人型で河原に向かった俺は、そこで運命の出会いをした。……と言っても、恋の相手じゃない。
河原にある小さな土饅頭の前で、立ちつくしたそいつは静かに泣いていた。
ああ、誰か大切な奴が死んでしまったんだな。
そいつは、本当に哀しそうにそこで佇んでいたんだ。
でも、その土饅頭は俺には墓だってわかるけど、丁寧に均(なら)されていたから、誰かが埋葬されているなんて、人間の目にはわからないだろう。つか……なんで、人間なのにこんな寂しいところに埋葬されているんだろう。人間だったら、こんな河原の寂しいところじゃなくて、きちんとした墓地に埋葬されるはずなのに……。

生きていれば、必ず死はやってくる。白狐さまだって、父ちゃんだって長生きだけどいなくならない保証はない。野良の犬猫が飢えたり車に轢かれて道端で儚くなっているのを俺は何度も見た。
白狐さまのように神域に住む存在は、誰かの信仰心が無くなったら、存在意義がなくなって消え失せてしまうものだし、狗神の父ちゃんだって種をつないだ後は、いつかはこの世から姿が消える。長命だけど、この世のものは誰も不老不死じゃない。
魂魄は永遠だけど、肉体は滅びるものだから…って、父ちゃんが言ってた。

「だからこそ、悔いの無い人生を生きろよ。今の記憶を持ったまま輪廻転生できるならもっと楽に生きられるんだがな。」

父ちゃん、それ俺にはちょっと難しすぎだって。

そっと傍に寄っても、そいつはずっとめそめそと泣いていた。
俺の事はわかったはずなのに、ずっと前を向いたまま滂沱の涙は止まらないみたいだ。
隣に座って溢れる涙を、舐めてやってもじっとしていた。

「ナイト……。ずっと……探してたんだよ。」

不意に、そいつが俺の名を呼んで首っ玉に掻きついてきた。

「ちょっ……ちょっとお~……?」

夏輝以外に、こんな風にぎゅうっと首っ玉に掻きつかれたのは初めてだった。
何だか、涙腺が壊れてしまった感じだった。
後から後から涙があふれてきて、そいつは最初静かに泣いていたのだが、そのうちえぐえぐとしゃくり始めた。

「ナイト~……ううぅ~……ナイト~……」

「え、まじで俺のこと?」

そいつがあんまり悲しそうに泣くので、父ちゃんの血を引いてる男気溢れる俺としては宥めずにはいられなかった。

「よしよし……。泣きたいんだったら、気が済むまで泣きな。俺の胸を貸してやるよ。」

「わあぁあ~~~ん……ナイト~~~っ!どうして、どうして、ぼくを置いて逝っちゃったんだよ~~~ああ~~~んっ……。直ぐに帰って来るって言ったのに。嘘つき……嘘つきぃ……あ~~~んっ……」

そうか、ここに眠っているのはこいつの大切なやつなのか……。
でも、狗神の血を引く俺でさえ、やっと気付いたってのにすごいな、こいつ。

「俺、まじでナイトってんだぜ。」

そいつはぐっしょりと泣きぬれた顔を、いぶかしげに向けた。
小学生か、下手すればもっと下に見えるけつの青いガキだった。←お前が言うな~……(世間の声)

「ほ、本当に……ナイトっていうの?ぼくの七糸なの?」

「ああ。」←うそじゃね~し。

「七糸……七糸ぉ……」

今更、俺、人間じゃなくて犬なんだ~とは言いだせない。
やばす~。名乗るべきじゃなかったかも。
俺に縋って、そいつはそれから小一時間もわんわん泣き続け、俺はずっと涙を舐めっぱなしで口の中がしょっぱくなった。そして、そいつに触れて分かった。こいつは実体のない霊魂みたいなものだ。何というか、強い想いがあって、ここにいるみたいだった。
しかも俺みたいに、飼い主を恋しがって、実体のない人型になったみたいだ。

「さぁ、俺はそろそろ家に帰るかな……?」

「家って……。」

「俺、一応ワンルームに住んでる飼い犬だからさ、夏輝が心配するんだ。」

「うりゅ……」

「……送って行ってやるよ。」

「え~ん、行っちゃやだよぉ~、ナイト~!」

そいつの肩越しに、おぼろげに形を結んだ土饅頭の中身(霊かな?)が心配そうな顔をして頭を下げたのが見えた。
……こいつの知り合いか?
きっと、お互いが支えあって生きて来たんだな。哀しげな瞳が、泣き縋る奴をじっと見ていた。
俺と夏輝みたいだ。
動転しているのか、脳みそが残念なのか、とりあえず一緒にそいつのところに行くことにする。
ただ、ちょっと気になることがあった。

そいつからは、何故だか夏輝や文太みたいに、おひさまの匂いがしなかったんだ……。何だか暗い湿った夜の匂いは、俺によくないことだと「ほんのう」が教えていた。





何だか、不思議な出会いをしてしまったナイト。
意味ありげなまま続きます。▼・ェ・▼涙がしょっぱい~~~。

本日もお読みいただきありがとうございます。
拍手もうれしいです。(*⌒▽⌒*)♪ 此花咲耶
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