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小説・約束・4 

それが、3歳の息子と交わした最後の約束になった。

「・・・とうさまっ!」

浮いた包帯の下から、あふれ出た涙が筋を作る・・・
伸ばした手は、父を求めて虚しく空を切り、子供の父を呼ぶ悲しげな声が、喧騒にかき消された。

「あ~ん・・・」

「あ~ん・・・とうさま・・・」

船が桟橋から遠ざかって行く。
再び、まみえる確証もないまま千切れるほど手を振って、トマスは愛する妻と子を友人に託した。
両の手で、耳を覆っても愛しい子の泣き声が聞こえるような気がしていた。
おそらくもう二度と会うこともないだろう・・・、悲しい運命の糸が情け容赦なくふつふつと切れてゆく。

「頼む、サトウ・・・」

トマスの代わりに、サヨコの側でリンを抱き上げ、サトウは頷いた。

「サヨコ、リン・・・愛している、いつまでも。どこにいても、愛している・・・」

出てゆく船影が遠く消えても、トマスはいつまでも二人と共に写った写真を握りしめて、そこに立ち尽くしていた。
二人を見送った後、トマスはそのままボストンの航空部隊に配属されることになっていた。


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