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小説・約束・13 

「なあ、良平は続木男爵って名前聞いたことある?」

不意に、耳元で内緒話のように勝次がささやいた。

「ううん、聞いたことない。」

ますます、声を潜めて勝次がいう。

「森の裏手に、大きな洋館があるだろ?あそこが続木男爵の別荘なんだけどさ、出るらしいよ。」

勝次の言うには、続木男爵というのは、佐藤の殿様と同じくらいの分限者で貴族院議員も勤める名家らしかった。

「で、何が出るの?」

「・・・バカ!良平、声がでかいって。」

いつの間にか佐藤君ではなく、良平と呼ぶようになった勝次が慌てた。

「この辺の人は、みんな知ってるけどさ、ずっと昔に、続木男爵の所に目の悪い可愛い女の子がいたんだって。」

「その子が、病気になってから誰もいなくなって廃園になったけど・・・」

「・・・出るらしいよ・・・」

良平は、ぷっと噴出してしまった。

「勝次。ない、ない。それはない。」

笑われた勝次は、気を悪くしたようだ。

「だって、たまに真夜中に灯がついてるらしいよ。窓のカーテンが揺れてることだって、有るんだから。」

「風が吹いたって、話じゃないか。」

良平は、遠く離れた東京と電話で話ができるこの時代に、幽霊が出ると言ってむきになる同級生をからかってみたくなった。

「じゃあさ、探検に行く?」

「いつ?」

怖気づいているのを悟られなくて、勝次が強がりをいった。

「怖い?」

「・・・ふん。俺は都会のもやしっ子とは、違うからな。」

「わかった。じゃ今晩決行だ。」

夕ご飯が終わったら、半鐘台の下で二人集合することになった。
そこなら、小さな外灯がある。
勝次も二人一緒ならと、腹をくくったようだ。

「良平、殿様に捕まるなよ。」

「わかった。部屋で勉強する振りして、窓から抜ける。」

9時なら、家人は風呂も使い終わって静かな時間帯だった。

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