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パーティ 3 

細い手首に目立つ白いファーは細い鎖の付いた手錠になっていて、悲しげな瞳を瞬かせる。

「おう、ねんね。今日も又、漢(おとこ)らしい格好だな。」
「周二くんのお誕生日だから、リクエストにお応えして、お花を載せてみました。」
「似合ってるぞ。注文のケーキ、持ってきたからな。」
「ありがと……あ、いつもおいしいケーキを作ってくれる直さん……?」
「直……?」

直は呆然としたまま、小首をかしげて見つめる可憐な隼の姿を見つめて固まっていた。
声を聴けば、隼がれっきとした男性だと分かるはずだが、直は一見したその姿に、頭から少女だと思い込んで声を聞いていなかった。
何か、犯罪に巻き込まれた(らしい)薄幸の少女を、どうすれば逃がしてやれるだろうかと、急いで脳内を探っている。
鼓動が跳ねる。

「たぶん……拉致……監禁だよ。……まさか、誘拐……?これって、犯罪かも……警察行かないと……でも、店長が捕まっちゃうのは困るし……」

声にならない小さなつぶやきを拾い聞いて、松本が腕をつかむ。

「直。何をグダグダ言ってんだ?」
「やだ……っ、店長。おれ、やっぱり帰ります。いくら店長の大事な人たちでも、こんなこと……しちゃだめです。かわいそうじゃないですか。」
「よく見ろって。」
「まさか……店長もグルなんですか?こんな年端もいかない子を……!」
「落ち着け、直!」
「放してください。放して……!あっ。」

揉み合って、隼の前にぺたりと膝をついた直は、思わずまじまじと正面から隼を見つめてしまった。
視線が絡む。

「こんにちは。」
「あ……うん。こんにちは……というか、大丈夫なの?……」
「直さんも、だいじょぶ?転んじゃったね。」

こんな時まで、人の心配をするのか?……と、思った直の手を、隼がふわりと掴んだ。

「この手でおいしいケーキ作るんだね。素敵な魔法の手だね。ぼくね、マンモス苺のショートケーキが一番好き。前にね、シフォンケーキの苺ショート、作ってくれたでしょう?すごく、おいしかった。」

見つめてはいけないと思いながら、振りほどけなかった直の視線が固まった。
そのまま視線が下りてゆく。

「え……っ?胸……がない?……というか、こっちは有る……?」
「ふふん。」

黒髪の綺麗な男が、耳元に低い声で囁いた。

「おまえ、隼を女だと思ったんだろ?とびきり美人だからな。これで、すっぴんだぞ。」

言われるまでもなく、隼は男の子だった。

「こいつは、俺んだからな。手ぇ、出すんじゃねぇぞ。」

こくりと直は頷いた。
神さまの悪戯としか思えない。
どこからどう見ても、そこにいる生き物は絶世の美少女だった。
見覚えのある可愛らしいものが、柔らかな下草の中に密やかにあるのが、あまりに不思議で、893への恐怖心がどこかへ消えていた。

「直。紹介がまだだったな。周二さんのバシタのねんねだ。」
「はじめまして。えっと……ふしだらものですが、よろしくお願いします。」
「そこは、ふつつかものだろ。隼。……つか、こいつに何をよろしくお願いするつもりだよ。」
「どっちかだと思ったんだけど、間違えた~。」

マッパの天使は、驚くほど屈託がない。

「二分の一の確率で、外すな。」
「うふふ~。惜しい~。後ね、好きなアーティストはサブちゃんです~。」

それって、新人アーティスト?
目のやり場に、困ってしまう。




本日もお読みいただきありがとうございます。
相変わらずのあんぽんたんです。(〃゚∇゚〃) ←本人はいたって真面目。

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