パーティ 6 「最終話」……と、あとがき
その後、もう手に入らないと言う、高級なトラさんカーペットをちびって汚し、だめにしてしまったから、そっちの弁償もすることになったのだという。直はいたく同情しながら、話を聞いた。
責められた隼は、父子家庭だからパパに心配かけたくない、自分でしでかしたことには自分で始末をつけるのが漢(おとこ)だからと、凛々しく直に打ち明けた。
「かっこいいね。だから恥ずかしくても頑張るんだね。おれには、とても真似できないな。」
「でもね、最初はぼくも涙が出たよ。周二くんのおうち、893さんだし。でも毎日、放課後は「めのほよう」のアルバイトの時間になって、松本さんや木本さんと仲良くなれたから良かったの。それにね、もう少しで返済終了のはずなんだ。」
裸になって、手錠と首輪を嵌められて、悩ましい姿でベッドサイドにつながれているのも、元々、自分のせいだから仕方がないと、隼は事も無げに言う。
「それでね。松本さんは、目で見るだけじゃ分からないからと言って、時々「仕方なく」検品したりするんだよ。」
「検品?」
「うん。さわさわ~って。借金が払えないときは、ぼくはおちんちんを「売る」ことになってるから、何かおかしいことがないか確認するの。商品に傷がつくと高く売れなくなるんでしょう?でも本当のことを言うとね、松本さんにさわさわされると、時々きびしくなって困るの。」
「店長が……裸の君を触るの?」
「うん。たまたまの裏っかわとか、見えないから。引っぱってみたり。」
「……」
さすがに驚いて固まった直だったが、頭上から松本が、「ば~か、冗談に決まってるだろ」と笑ったので、ほっとした。
「あのな。周二さんは、ねんねとずっと一緒にいたいから、必死こいて大ウソついたんだよ。」
「そうなんですか。でも、あんなに可愛かったら、傍に置いておきたいって思うの、男だったらわかる気もするなぁ。」
「俺も、直のためなら何でもするぞ。」
隼は、周二の適当なでまかせを本気で信じているらしい。もしかすると、どんな偽りでも互いが口にすれば真実になってしまうのかもしれなかった。
隼は盲目的に周二の事を信じ、周二は隼の全てを丸ごと愛していた。
「隼君。早く、借金が終わるといいね。高校生になったらcaféアヴェク・トワでバイトするといいよ。ぼくからも店長に頼んであげる。」
「ん~?ぼく、高校生だよ。」
「えっ……そうなの?」
「うん。ちょっとの間、ぼくは向こう側にいたからおくれてるの。」
外国にでもいたから、言葉が拙いのかなと思う。
うふふと笑う隼のあどけなさの向こうに、横たわる深淵の深さを、直はまだ知らない。
「乾杯!」
「周二くん、おめでと。」
「周二さん、おめでとうございます。」
「おうっ。」
新しい仲間を迎えて、宴が始まった。
寂しかった直に、松本が微笑む。
「こら。食いながら寝るなって、隼!」
「しっ、周二さん。」
「あ~、そっちもか。どいつもこいつも、可愛い面しやがって。お前もたまんねぇな、松本。」
「すみません。俺はもう直とはそんな仲っす。」
「くそったれ。どうせ、こうなるオチだ。」
「幸せな誕生日っすね、周二さん。」
「ああ。毎日変わらないのが一番だな。」
松本の肩にもたれて、直はcaféアヴェク・トワの夢を見ていた。
少しハスキーな低い声が直に声をかける。
「店、開けるぞ。」
「はい。店長。」
この幸せな日々が、ずっと続きますように。
本日もお読みいただきありがとうございます。
短編でしたが、久しぶりに隼と周二が書けてうれしかったです。(〃゚∇゚〃)
「あとがき」
このお話を書いているうちに、もう少し直と松本のその後を書いてみたいと思いました。
なので、この次のお話は、再びcaféアヴェク・トワでお会いします。
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