「三年目のしるし」
であった頃から、勝手に次の約束を取り付けて、こちらの予定なんてお構いなし。
少しずつ会話を重ねて知り合ってゆくうちに、本当はおまえに断られるのが怖かった・・・と、君はぽつりと呟いた。
明るい瞳を快活に光らせて、たくさんの友人に囲まれている君が、ぼくにそんな風に言うのが不思議だった。
勇気を振り絞って最初、「お友達になってください。」と告げたとき、ぼくをちらと見て、悪戯っぽくくすりと笑って言った君。
ぼくは、心臓が飛び出るかと思うくらい、どきどきしてた。
「お友達で、いいの・・・?。」
「それ以上のこと、しよ・・・?」
あの日から、ぼくはもう君に夢中だった。
君の欲しがるぼくになりたかった。
キスしてといえば、一生けんめい応えたし、痛いのは嫌いだけど耳にピアスも開けた。
「ほら。耳に吐息を送ると、おまえの耳たぶが震えるだろ。ダイヤ付けてると、光って綺麗なんだよ。」
「ダイヤ・・・好きなの・・・?」
「おまえ、ほんっとに馬鹿だけど可愛いよなぁ。」
ある日、君が言った。
「ねぇ・・・腕のここに、俺の名前入れない?」
予防接種も怖くて、じっと見ていられないぼくが、どうして針の傷みに耐えられるだろう。
友達がタトゥを入れに行くといったときも、ぼくは見学にすら行けなかった。
先の尖ったものが、普段から怖かった。
指で指されただけで、足がすくむのだ。
先端恐怖症と言うのだろうか。
一度、学校でコンパスの針を間近に突きつけられたとき、気を失ってそんな病名があるのを知った。
でも・・・君、ぼくの先端恐怖症のこと、知ってるはずなのに・・・
口が渇いて、言葉が出なかった。
唇が乾燥して、何か言おうとすればぺりと薄皮が剥げるような気がする。
冷たい指先。
じんわりと、涙が滲む。
「駄目なの?記念日なんだけどな~・・・」
「記念日・・・?」
君のきつい視線が、ぼくを縛る。
「い・・いよ。名前入れても。」
言葉とは裏腹に、涙が滲んだ。
ぼくは、君の囚われの蝶になる。
展翅板に張りつけられた、ぼくを見て綺麗だねと言って。
君が言うなら、どんなぼくにもなれるから。
「そんな、泣くなよ。」
「だって、こわ・・いもん・・・」
勇気を振り絞ってうなずいたぼくに、君は深いキスをした。
全てを取り去って、寝台の上に寝かされたぼくは、厳かな儀式に捧げられる供物になった。
古代エジプトの神官が、ぼくに君の所有印をつける。
「怖いなら、あっち向いてろ。」
「う・・・ん」
怒ったように告げた君に嫌われたかと思って、悲しくなった。
つんと鼻を付くシンナーの臭い・・・?
きゅっと硬質な音がする。
マジックのインクのにおい・・・・?
「ほら。記念日だから、俺のだって印つけといた。」
「な・・・なんの?」
黒いマジックで「アド」と君はぼくに自分の名前を書いた。
「出会ってから、今日で3年目だろ、俺たち。」
「明日からも、よろしくな。」
君が艶やかに笑った。
アドさま。
ブログ二周年、おめでとうございます。
ちょっと悲しくなったとき、アドさまの作品を読むと元気がでます。
お忙しそうなので、こそっと気持だけここにおいておきます。
これからもがんばって下さい。
切り口の違った多くの作品を拝見したいです。 此花