無限の森の王子さま
昔々、一人の美姫を奪い合い、西と東の隣り合った国同士、長い戦いが続いていた。
大地は荒れ、人々は長い戦に疲れ果てていた時、北の国の魔法使いがやって来た。
王子二人が同時に国を出て求愛すれば、南の姫はどちらかの王子を選び答えを出すだろうと告げた。
二つの国では、第一王子が后を迎える年頃となり、どちらの国が姫を手に入れるのか、両方の国民たちは固唾をのんで見守っていた。
魔法使いのお告げ通り、国民の声に押されるようにして、二人の王子はそれぞれの国を出発し南に向かった。
この先の婚姻が、南の広大な領地を手に入れ、豊かな国になるのを約束していた。
西の王子、アランソン公は銀色の甲冑を身にまとい、燦然と輝く太陽神、アポロンに愛されたと言われるように美しい王子だった。
金色の豊かな癖の無い長い髪をなびかせ、薔薇色の頬を持って一見少女のようで居ながら、菫色の眼差しだけがきりりと涼やかに少年らしさを持っていた。
東の王子、サイファ公は漆黒の甲冑を身にまとい、落ちてくる闇の帳のように静かな佇まいを持っていた。
茶褐色の房のある髪と、少年らしい細い頬を持ち、その笑顔は氷を溶かすといわれるほどの柔らかな温かみを持っていた。
国民の期待を受けて、王子たちの軍隊は進軍してゆく。
やがて、国境まで来ると二人の王子は付いてきた精鋭部隊に国許へ帰るように告げた。
しかし、家臣団は言う。
「最後まで、ご一緒いたします。」
「もし、おまえたちがこのままわたしに付いて来たなら、南の姫を手に入れられなかったとき、きっと命を懸けることになる。」
「そのようなことで、大切な命を失ってはならぬ。わたしが帰らぬときは弟たちの力になって、どうか国を護っておくれ。故国の犠牲を担うのは、わたし一人で良いのだ。」
主人の命に涙ながらに頷いて、後ろ髪を引かれながら去ってゆく兵士たち。
彼らには家族があり、愛する者たちが居て、故郷で帰りを待っていた。
「みなが、幸福であること。それが、わたしの願いなのだ。」
主従は別れを告げ、王子は単騎、南の森へと分け入った。
二人の王子は南の姫の顔も知らず、ただ国民の声に押され、求愛の旅に出かけて来たに過ぎなかった。
長旅に疲れ、二人は違う場所でそれぞれ旅支度を解いた。
何も知らずに湖のあちらとこちら。
互いに水浴びし、互いの水音を聞いた。
一目会ったその日から、恋の花咲くこともある。
「あ・・・。」
長旅に疲れ果てた二人の王子たちは、夕暮れに着いた湖のほとりで、互いに求めた南の姫を見つけたと思った。
水浴びする美しい娘が長い金色の髪に、滴を煌かしてわたしのほうへ振り返った・・・と東の王子は思った。
水浴びする美しい娘が濃い大地の色の巻き毛に、滴を煌かしてわたしのほうへ振り返った・・・と西の王子は思った。
互いに見交わす目には、既に互いの美しい顔しか映っていなかった。
やがて・・・二人の唇が同じ言葉を共にこぼした。
「運命の糸車が回った・・・」
「美しい人。」
「ああ、あなたを待っていました。わたしの持てる時の全てをかけて。」
求め合う魂が引き合うように、二人の王子は互いを運命の姫だと思い、薄暗闇の中、一晩中求め合い抱きあった。
お互いに、姫にしては多少骨っぽいな~とか、この辺筋肉質だな~とか、胸がないな~とか、腰が細いな~、こんなで子供生めるかな~とか、でも感度が良さそうだからまあいいか~とか思った。
しかもサイファ王子は、伸ばした指先に付いた血が処女の証だと信じ感動していた。
やがて白々と夜は明け、小さな灯りでは分からなかった互いの姿が、今、白日の下にさらされていた。
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先に気づいた東の王子が、西の王子を責めた。
「その方、男であったか。何者だ?」
「決して無体を働くつもりなどは無かった。わたしは西の国の第一王子。そなたは?」
東の王子は答えず、そこにある宝石をちりばめた華奢な飾り刀を取り上げると、いきなり西の国の王子に向かってきた。
「何をするっ!」
「わたしは東の第一王子アランソンだ。そなたをこれより先に進ませるわけには行かぬっ!南の姫はわたしのものだ!」
キーンと硬質な刃を交える音が、静寂の森に響いた。
腕は互角、切り結ぶ二人の上がる息と鋼の打ち合う音だけが、森に響いていた。
やがて金色の王子が振り下ろした懇親の一刃は、西の王子サイファ公の肩を確かに一撃したが、着込んだ鎖帷子にその衝撃は吸われてしまう。
勢いあまって丸腰の東の王子アランソン公は、どっと草地に転がった。
「あっ・・・」
豊かな髪が輝いて短い芝草の上に広がり、衣服を身にまとっていなかった王子が羞恥に震え、胸の前で聖少女のように腕を組んだ。
「こ・・・このような形で負けを認めるのは仕方が無いが、わたしは手を引く。姫はその方のものだ。」
「何を言う。わたしこそ、もう南の国の姫に興味はない。そなたに譲ろう、アランソン・・・・」
いぶかしげに菫色の瞳を向けて起き上がろうとする、アランソン王子の金色の髪が光をはじいて、はらりと胸に落ちた。
「それは、何故・・・?あなたもここまで求愛の旅をしてきたのではなかったのか?」
頬を染めて、もう一人の王子が応えた。
「今は・・・心を捧げたい者が出来てしまったから・・・。南の姫などどうでも良い。」
「サイファ王子・・・?」
湿地に転がる東の王子アランソン公に、着ていたマントを脱ぐと、着せ掛けてやりながらそのまま懐に震える王子をいたわるように強く抱いた。
サイファ公は、アランソン王子の顎をそっと持ち上げると大切に赤い唇を割り、深く舌を差し入れ吸いあげた。
「・・・やぁ・・・」
清らかな真珠のような小さな歯が並ぶのを確かめながら、首筋に熱い息を吹きかけ花弁が散るように、赤い吸痕をつけてゆく。
「そなたを、わたしのものにしたい。いいか・・・?」
目元を赤く染めてうなずいた金色の王子が、腰の上で膝を割って喘ぐ・・・
そっと合わせた胸に手を伸ばすと、奥の可愛らしい双球が、小さく震えた。
「あ・・・」
菫色の瞳が潤む・・・
「サイファ・・・これがきっと運命。」
「アランソン・・・このまま二人生きてゆこう。誰もいない国へ二人だけで行こう。涅槃の王が二人を妬み引き裂くまで。」
「ああ、サイファ・・・でもその前に、もう一度愛して、わたしを引き裂いて・・・・獣の住むこの森で、獣のように後ろでつながって・・・ひとつになりたい・・・」
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その頃、南の国の姫は、がっつりと気合を入れて、身支度に余念がなかった。
豊かな緑の黒髪をピンで結い上げ、高価なバロック真珠をいくつも留め付けた。
取って置きの最高級のボビンレースの襟飾りを、ドレスの襟に縫いつけ、ボタンホールはいずれもボタンを外しやすいように、訪れるうぶな王子のために緩めておいた。
綾織のタフタにも、いくつもの宝石を縫いつけ、どこからどう見ても鏡に映ったのは完璧なお姫さまだった。
体の奥にも高価な香油を垂らし、王子の指が忍び込むはずの秘密の場所にも、そっと薔薇の香油を含ませた。
「王子さまは、まだかしら。」
袖口のリボンを均等に何度も結び直しながら、パニエの張り具合にも気を配り高い塔の上で姫は王子を待っていた。
待つのも姫の仕事のうちと、理解していた。
東の国の王子も西の国の王子も、舞い飛ぶ蝶が恥らうほどの美形と聞いて密かに楽しみにしていた。
面食いの姫は、どちらの王子が来ても直ぐにも足を開く用意は出来ていた。
おずおずと抗って見せながら、伏目がちに。
見た目は淑女、夜は娼婦のように。
「わたしを手に入れる、幸せな王子はいったいどちらの王子かしら・・・」
北の国の魔法使いは、全てを写す魔法の鏡の前で深いため息をついていた。
「うわぁ・・・あいつら、野外で18禁やってるよ~・・・うわぁ・・・あんなことまで。」
「仕方ないな~・・・。」
二人の王子の求婚の旅は、魔法使いの手で、無限の空間の中に、閉じ込められた。
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「姫をめぐって決闘してたら、 いつの間にか、えちしちゃってたよ!」・・・というお題を戴いていました。
キリ番踏んでくださった方が、どうしてもリクエストしてくださいという、此花の懇願、哀願、請願、強請に負けました。ありがとうございました。
ちょっと怪しいですけど、うっすらR-小学生くらいのエチ場面あります。(*⌒▽⌒*) へへっ♪ ←若葉マーク。
うだうだ愚痴っている間に、次のキリ番がかる~く過ぎていました。(´・ω・`) ぱお~・・・
いつもお読みいただきありがとうございます。
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明日も、がんばります。 此花