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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・95 

手術前に、ユリアちゃんが家族と和解できて、本当に良かったとぼくも思う。
何も告げずに異国に行き、そのまま手術に適合できず、帰って来れない最悪のケースだって何例も有るのだ。
そんな万が一がユリアちゃんの身の上に起こるなんて、考えたくもないけれど・・・
正真正銘の女の子になったら、最初に何がしたい?とユリアちゃんに聞いてみた。

「わたし。成瀬さんのこと、好きになってもいいかなぁ。」

ユリアちゃんの悪戯な瞳が、下からぼくを伺う。

「成瀬さんは、ずっとみぃちゃんのお母さん一筋でしょ?知っているけど、わたしずっと一緒にいられたらうれしい。」

「みぃちゃんは、反対する・・・?大切な人を取られたような気持になっちゃう?」

ぼくも独りで暮らす成瀬のおじさんが、もしユリアちゃんと居られるならどんなに良いだろうと考えたことがあった。
おじさんは、他人のことは一生けんめいなくせに、自分のことはどこか投げやりで、世捨て人みたいなところが有ったから。
優しいユリアちゃんなら、きっとおじさんも幸せになれる気がする。

「プロポーズは、ユリアちゃんの方からするの?」

「ん、頑張ってみる。みぃちゃん、応援してね。」

「・・・頑張らなくてもいいよ、ユリアはそのままで。」

診察室の仕切りのカーテンがひらと揺れて、成瀬のおじさんが顔を出した。

「あ。」

思わず見交わして、ぼく等は呆けたように口を開けたままだった。

「俺も、ずっと一生けんめい生きてるユリアが好きだよ。」

「成瀬さん・・・」

おじさんは柔らかく微笑んで、ユリアちゃんをそうっと抱きしめた。

「自分で決めたことだから、手術は大変でも頑張れるな?」

頷きながらずっとユリアちゃんは、おじさんにかきついて、おずおずと大人のキスをした。
幸せに遠回りし続けた不器用な人たちは、やっと片羽を手に入れたのだ。

かけがえのない、わたしの半身。
マイベターハーフ・・・

ユリアちゃんの頬を、ころころと綺麗な滴が転がってゆく。

「みぃ、これ以上の見学するなら、続きは別料金だぞ。」

感動して涙が出そうになる純粋な恋人同士の片割れは、ぼくに邪魔だからあっちに行ってろと言う。

「もうっ!!」

憤慨して出てきたら、佐伯さん・・・沙耶さんがにこにこして立っていた。
定期健診も異常なく、赤ちゃんはすくすくと元気に育っているそうだ。

「みぃくん。こちら異常なしです。超音波の画像、貰ってきましたよ。」

薬剤師になる勉強をしながら、佐伯沙耶さんは籍だけを先に入れて、今は松原沙耶と言う名になった。
白黒のまだ形もなってもいない、小さな生き物のコピー写真すら愛おしい。

昔パパが呼んでいたように、いつしかぼくをみぃくんと呼び、ぼくは感謝と敬愛を込めて沙耶さんと呼ぶ。

「呼び捨てにして。」

沙耶さんはそう言うけど、ぼくにはこの運命の偉大な母性を、軽く呼び捨てになんて出来なかった。
傍目には歪な関係に見えるかもしれないけれど、一緒に居ると彼女は心の隅々まで満たされる、心地よい女性だった。
でも・・・ぼくの中身はやはりオンナノコのようで、これ以上の身体の変化が怖いと自分でも思う。

思い切って、検査をしたらぼくの男性ホルモンは通常の半分以下しか分泌されていないことが判明した。
オンナノコミタイナ理由は、ホルモン代謝異常のここにもあったみたい。
考えた末に沙耶さんと相談して、これ以上変化が起きないように、たまたまだけを取る手術を受けた。

ふっと気持が楽になったせいだろうか・・・。

沙耶さんを愛おしいと思うとき、ちゃんとぼくの男の子の身体は反応する。
小さめのおしっぽみたいな、男の子の印からは、もう精液は出ないけど薄い体液が滲みささやかに勃起した。
きりりとした眼差しの、ぼくにないものを持つ女性を、ぼくはぼくの全身全霊で愛した。

沙耶さんと交わした、いくつかの約束。

手術はリスクが高いから、これ以上はしないで欲しい。

生まれる子どものためにも、長生きして欲しいから。

でもそれ以外は、無理しないでみぃくんの好きなようにしていいよ、と彼女は言う。

凛とした眼差しを曇らせる事無く、彼女はきっぱりと告げた。

「昔も今もこの先もずっと、あたしはみぃくんが好きよ。」

沙耶さんの言葉は、ぼくを押しつぶそうとする多くの心配や呪縛から解き放ってくれた。

愛する人にそのままでいいと言われて、ぼくは深く肺の奥まで深呼吸をする。



お読みいただきありがとうございます。
いつも拍手、ポチありがとうございます。長く続いてきたこの作品も、とうとう明日で最終回になります。
みぃくんを愛してくださって、ありがとうございました。・・・って、明日だった・・・。    此花
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4 Comments

此花咲耶  

NoTitle

けいったんさま

(T□T)・・・あう~・・・書いてる此花も寂しいです。
長らく、お読みいただきありがとうございました。・・・って、明日だけど。
作品にコメントをいただけるのが、こんなに嬉しいことだとは知りませんでした。本当にありがとうございました。
ニアピン・リクエスト、どうぞ、いつでもなさってください。けいったんさまのためならえんやこら~でがんばります。
でも、読んでるだけで鼻血がぽたぽたしそうなヤツとかは、他の方に振ってくださると嬉しいです。
44444のキリ番、どなたか踏んでくださるとうれしいです。

コメントありがとうございました。リクエストお待ちしてますっ。(^▽^)ノ

2010/10/12 (Tue) 15:17 | REPLY |   

此花咲耶  

NoTitle

kikyouさま

長いお話を、アップしていると何だかいつまでも終らないんじゃないかと思うようになっていました。
赤ちゃんのみぃくんも、大きくなるまでに色々ありました。あっという間でした。何しろ二ヶ月で大人に育ったみたいなものです♪
BLと言うジャンルには、入らないかもしれないですけどこれもひとつの「愛」の形だと思っています。
kikyouさまのおかげで、忘れられない大切な作品になりました。たくさんの「愛」をありがとうございます。
お読みいただきありがとうございました。コメントいただいてうれしかったです。(^▽^)ノ
今日から読み始めて、今9話です。心臓鷲掴みにされてますっ!

2010/10/12 (Tue) 15:08 | REPLY |   

けいったん  

最終回...(yy)...

あれもこれも最終回なんですね(ToT)
始まりが あれば 終わりがあるのは 道理ですが、この立て続けに最終回を 向かえるのは ほんと 淋し過ぎますぅー

次の 新作に 期待が 大・大・大・大期待です!!

では そろそろ ニアピン・リクを お願いして いいのかな?
此花さまの都合の いい時を 教えて下さったら 鍵コメで 書かせて 貰いますので 宜しく~♪

kikyouさま、美容院なの? 私も カットしないと !!

2010/10/12 (Tue) 13:37 | REPLY |   

kikyou  

今美容院で読んでました。
明日最終回ですか
あァ終わるんですね、みぃがパパになれるのかな?
明日まで良い子で待ってます。

2010/10/12 (Tue) 12:33 | REPLY |   

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