こんにちは、あかちゃん
最後の定期健診で、かちんこちんに緊張してメモを取る手が震えていた。
とうの妊婦は、とても落ち着いていたのに、付き添いはこの有様だ。
ついにその日、(出産兆候のおしるし)が来て、産科の医師が言うとおり時間を計った。
一分がすごく長い・・・気がする。
時計と睨めっこして、ちょうど15分になったとき沙耶さんは人事のように「さ、時間だわ。」といって立ち上がった。
「沙耶さん、かっこいい~・・・」
妊婦は落ち着き、夫は慌てふためき、これからおじいちゃんになるパパは挙動不審になって右往左往していた。
パパは過去に経験があるはずなのに、当時は仕事で出張中に生まれたとかで、今は激しく動揺している。
家族の中で一番しっかりしているのは、出産を控えた沙耶さん本人だった。
「みぃくん。お父さん。お願いだから落ち着いて。」
ママになる沙耶さんは、陣痛の痛みに脂汗を浮かべながら指示を出した。
「みぃくんは入院する荷物、寝室の脇に準備してあるから持って来て。お父さんはタクシーに電話して、来てもらって下さい。名前言えばわかりますから。」
「お、おうっ。」
ぼくの妻の沙耶さんは、しっかりと自己管理して体重を7キロしか増やさなかった。
だからおなかだけが、ぽっこりと出ているのだがその中には、待ちに待ったぼくたちの宝物が入っている。
ぼく、松原海広(まつばらみひろ)は性同一性障害者で、生物学的性別が男性なのだけど、性の自己意識は女性で「MtF」と診断されている。
話せば長くなるけど、初恋の佐伯沙耶さんと一夜を共にし、そのたった一度の行為がぼくを父親にしてくれた。
信じられない奇跡が、沙耶さんのおなかに宿った。
子供の頃からずっと「オンナノコニナリタイ」と思ってきたぼくが、パパになる。
これまでたくさんの出来事があったけど、たくさんの愛を貰ってぼくはこうして・・・・ああ、何と言う感動・・・。
「松原さん、今の陣痛間隔は?」
ふいに聞かれて、思わず10分になりましたと応えた。
その看護師さんは、はじめてみる顔だった。
車椅子を押してきた、力のありそうな看護師さんがぼくをさっさと乗せて、分娩室に連れて行こうとする。
「え・・・?え・・・?」
「大丈夫ですからね。」
「あーーーーっ!ちっ、違いますっ、ぼく父親ですっ。妊婦はこっち。」
妊婦の沙耶さんが、あやうくそこに置いてきぼりにされるところだった。
うわ~・・・信じられない。
沙耶さんの付き添いに来るたびに、初めてのお産ですか?とか、何ヶ月ですか?とか、聞かれるのにも閉口したが、ここに来て妊婦と間違えられるなんて。
いくら見た目が、こんなだからと言っても・・・あ、妊婦の沙耶さんが爆笑している。
穏やかな気持で、お産に臨むのはいいことです。
このこと・・・みんなには黙っておこう。
初めていただいた、キリ番リクエストです。
みぃくんのその後を書きたいと思います。 此花←ストックないので、どきどき・・・
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