こんにちは、あかちゃん・5
洸一が天使みたいだったのは、小学校3年生までだった。
天使のテンちゃんじゃなくて、乱暴者のランちゃんに名前を変更しなければならなくなった。
さすがに、ご近所の奥様方からの「天使」の称号も、いつしか返上されていた。
「やっぱり、男の子ね。」
そんな風な、噂が聞こえてきた。
見た目は天使のイラストのように儚くて、誰もが驚くほど綺麗な少年だったけど、洸一の中身はぼくとはまるで違っていた。(当たり前だけど)
学年が変わってから、三日に一度は学校から、呼び出された。
文句の電話も、同級生の親からしょっちゅうかかってきるようになった。
誰に似たのか、洸一は元気が有り余っているのか、度々誰かと喧嘩をした。
「みぃくん。これ、先方さんに渡す菓子折りね。」
「う・・・ん。行ってきます。」
「しっかりね。」
ぼくは、玄関でしょんぼりと靴を履く。
沙耶さんが一度、謝りに行ったとき向こうがずいぶん失礼だったとかで、ケーキを投げつけて帰って来て以来、お詫び担当はぼくになった。
そのほうが、向こうが折れやすいからと、沙耶さんが言う。
「みぃくんの顔を見たら、たいていの人は怒れないから。」
「そうかなぁ・・・。家ではしょっちゅう怒られてるけど?」
大抵の人は、玄関でぼくを見ると固まって目を丸くする。(もう、慣れた)
松原洸一の父親ですというと、お母さんたちの声が急に半音上がるのが不思議だった。
「この度は、お宅のお子さんに洸一が乱暴してしまって、申し訳ありませんでした。よく言って聞かせますから、許してやってください。」
頭を下げたぼくは大抵涙目になっていて、平謝りの間、顔も上げられない。
洸一の乱暴には何か原因があるのだろうかと思っていたけど、その日謝りに行った子の家で、原因が明らかになった。
そこのお母さんは、ずいぶんしっかりとした人で、いくら子どもの喧嘩でも、双方から話は聞くべきですと言ってくれた。
「洸一くんのお話を、きちんと聞く機会になさってはいかがですか?」
「怪我は、大したことありませんけど、お父さんと洸一くんの、お二人でいらしてください。」
それでぼくは、洸一の手を引いて殴った同級生の家に向かったのだけど、途中で洸一の足が止まった。
「パパじゃなくて、ぼく、一緒に行くならママが良いんだけど・・・。」
「え?でもパパにお話しましょうって、相手の人は言ってくれたんだよ。だから・・・」
「ママが良いの。パパじゃだめ。」
頑なに言い張る洸一は、頑固でうんといわないので、仕方なく近くの公園で宥めることにした。
並んでブランコをこぎながら、聞いてみた。
「洸ちゃん、どうしてパパじゃだめなの?」
「・・・男らしくないから。」
「あ・・・そ、そっか・・・」
いつか息子に、そんな風に言われる日が来るんじゃないかと思ってはいたけれど、余りに唐突に訪れたその日に、一瞬で世界は色あせた。
錆びたブランコの軋む音だけが、呆然としたぼくの脳内に響く。
ああ・・・とうとう、この日が来てしまった。
白くなってゆくぼくの顔を見つめた洸一が、ブランコからとんと飛び降り、ママを呼んで来ると告げた。
ぼくの・・・一番大切な洸一の背中が・・・小さくなってゆく。
明るかった世界が、厚い雲に覆われてゆく気がした。
心が、イタイよ・・・沙耶さん。
洸一の真意はどこに?
傷心のみぃくんです。努力で何とかなることならがんばれるけど、これはきついね・・・
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