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タンデムシートで抱きしめて 2 

その後、単身赴任から帰ってきたパパとママはおにいちゃんの家の近くの建売住宅を買った。まるで、ぼくに根負けしたような形だった。
病院や官公庁にも近いのが売りで、学校も近い。ぼくにはおにいちゃんの家に近いのが何よりだった。ただ、せっかく近くに越してきたのに、おにいちゃんとぼくは、年の差が10歳もあるのでだんだんいつも一緒というわけにはいかなくなる。
おにいちゃんはどんどん勉強が忙しくなり、塾に毎日遅くまで通っていた。窓から見える勉強部屋の明かりが点いていると安心したけど、志望の大学に入ってからは、下宿生活で余り帰ってこなくなった。

「おにいちゃん……。」

暗い窓を眺めて、毎日めそめそしていると、おばさんが連絡してくれたらしく電話を呉れた。

「航太か?何も言わずに大学に行っちゃってごめんな。うさぎさんになるから、あんまり泣くなよ?休みになったらすぐに帰るから。約束のタンデムシートに乗っけてやるからな。」

ぼくはその頃、もう4年生になっていた。

「うん。・・・うん、待ってる。でも、おにいちゃんの声を聞いたから、ちょっとだけ泣く。え~ん……逢いたいよぉ。」

会話を聞いて「まるで、遠距離恋愛の恋人同士みたいね。」と、お茶をしていたママとおばさんが笑った。

「うん。おにいちゃんが大好きだから、ぼく、約束通りお嫁に行くからね。」

「まあ…ほんとに亜紀人と結婚してくれるの?航太くん、お嫁に来てくれるのは嬉しいけど、いいのかしら。」

「航太ったら、まだそんなこと思ってたの?亜紀人君の事そんなに好きなの?」

「うん。」

こくりと頷いたら、ママもおばさんも何故だか大きな声をあげて大爆笑していた。ぼくはこんなに本気なのに、みんな冗談だと思って笑っていたみたい。
おばさんは、おにいちゃんに電話して航太くんがお嫁に来てくれるそうよ、良かったわねって言ったみたいだけど、おにいちゃんの態度に別段変化はなかった。時々、電話をくれて同じような会話を繰り返した。
うんと後から聞いたんだけど、おにいちゃんはいくらなんでもって色々考えていたんだそうだ。

約束通りおにいちゃんは大学がお休みになると、大きな単車で帰ってきた。ぼくにはエンジン音ですぐわかるんだ。
ホンダ・CBR1100XXスーパーブラックバードって言う名前の大きな単車(中古)で、おにいちゃんはぼくの顔を見ると、すぐに乗せてやろうかって言う。乗せてもらいたいなって思っているけど、振り落として何かあったら大変だから、小学校の間はやめて頂戴、禁止!と、いつもおばさんが止めるんだ。もう、大きくなったから、背中から手を回してぎゅっとすれば平気なのにね。
ぼくがタンデムシートに乗るのは、うんと先の事だった。

単車に乗る時のおにいちゃんは、すごくかっこいい。背中に読めない漢字の金色の刺繍が踊っている服を着て、きゅっと鉢巻きを締める。
「航太くん。あのおにいちゃんは「暴走族」なのよ。仲良くしない方が良いわよ。」ってご近所のおばさんに言われたことがある。

「なんでも「青い稲妻」っていうチームの頭(ヘッド)らしいのよ~。」

ぼく、青い稲妻なら、ママがファンだから知ってるよって、歌い始めたらおばさんが「航太くんは、可愛いわねぇ、うふふ。」と笑った。
ぼくは、「可愛い」じゃなくて「かっこいい」を目指しているので「可愛いは言っちゃだめなの。」と、げんじゅうにこうぎをした。





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