タンデムシートで抱きしめて 4
いつか、「どうしてパパと結婚したの?」って質問したら、ママが答えてくれた。
「大好きだからよ。パパはね、ママのこと大好きでずっと一緒にいたいから結婚してくださいって言ったの。ママね、パパが初恋の人で結婚は憧れのジューンブライドだったの。純白のウエディングドレス、綺麗だったのよ。パパの方が感激しちゃって、泣いて大変だったの。」だって。
汚れていない綺麗な身体で純白のウエディングドレスを着て、ママみたいにぼくも大好きな初恋のおにいちゃんと結婚する。
長いローブを引いた真っ白の花嫁衣装は…あれ…?どっちが着るんだろう…?
やっぱり、ぼくかなぁ。
おにいちゃん、ごついもん・・・きっと、似合わないよね。航が「えふかっぷ」になるまで待っててね。
薔薇窓のステンドグラスから入り込む、七色の淡い光に包まれてぼくとお兄ちゃんを教会の金色の天使が祝福する。
「病める時も、健やかなる時も……」
胸がいっぱいになった。
*****
「はい、大きな声で繰り返して言って下さいね。」と、担任の榊先生が言う。
『知らない人に付いて行ってはいけません。』
『知らない人にものをもらってはいけません。』
『知らない人に声を掛けられても、お返事してはいけません。』
「いいですね?」
「はぁい!」
下校時、先生がぼくたちに大きな声で毎日復唱させる標語。
「いいですか?最近、また「変質者」が出たそうですから気を付けなくてはいけませんよ。」と先生は真面目な顔で言う。
「変質者ってなんですか?何をする人ですか?」と、質問が飛んだ。
「子供に悪いことをする人です。」
「悪い事ってなんですか?」
「……いけない事です。」
まるで答えのでない袋小路で堂々めぐりしているような会話が続いた後、先生がちらりとぼくを見てふうっとため息を吐いた。
「御堂くんみたいに可愛い子は、男の子でも最近は危ないのよ。……なんていえばいいのかしらね~。御堂くん、絶対に帰り道一人になっちゃ駄目よ。」
「あぶないから……?」
「そうよ~。隣町の小学校で連れて行かれそうになったのは、女子じゃなくて可愛い男子だっていうの。警察が言うには最近の変質者って、昔と違っていろいろらしいから心配ね。航太くんのおうち、表通りから少し入って行くでしょ。先生、やっぱり近くまで送って行こうかしら。」
「先生、ぼくなら大丈夫。あのね、おにいちゃんがお休み中は、お迎えに来てくれるからだいじょうぶなの。朝もね、途中まで送ってくれたし、帰りも公園の所まで来てくれるって。ぼくね、大人になったらおにいちゃんとけっこんするんだよ。」
「けっこん…って、結婚?おにいちゃんと結婚するの?」
「うん!けっこんは大好きな人とするんだって、ママが言ったよ。だから、決めたの。」
「まあ…、航太くん。男の子はおにいちゃんとは結婚できないのよ。知らなかった?だって、男同士だと赤ちゃん出来ないでしょう?」
「でも…ぼく……。け…っこんするんだよ…ぅ。」
突然泣きだしたぼくに掛ける言葉を、先生は捜していたみたいだった。
みんなが笑うから、薄々気が付いてはいたけど…先生が言うのなら本当なのかなぁ。大人になってけっこんしたら大好きなおにいちゃんとずっと一緒に居られると思っていたのに・・・。
「うっ……うっ。」
涙は後から後からどんどん溢れてきて、ほっぺたを濡らした。
「航太くん。本気だったのね。」
「うん。」
「そうなのね。わかった。先生も航太くんのこと応援する。愛には試練がつきものだけど、がんばって。」
「うん。がんばる……」
先生の気休めに騙されたふりをして、ぼくはランドセルを背負った。でもね、今日のランドセルはとても重たかったんだ。悲しいといろいろなものが、重い試練になる。人生って厳しい。
おにいちゃんとの結婚は、誰に聞いてもおかしいと言われる。ママもおばさんも笑うし、ぼくの結婚計画は、悲しいけど、「じゅんぷうまんぱん」に行きそうにもなかった。
でも、人生の荒波にぼくはくじけずに立ち向かうんだ。
…じゅんぷうまんぱん…って、何?
お読みいただきありがとうございます。
ランキングに参加しております。どうぞよろしくお願いします。 此花咲耶
「大好きだからよ。パパはね、ママのこと大好きでずっと一緒にいたいから結婚してくださいって言ったの。ママね、パパが初恋の人で結婚は憧れのジューンブライドだったの。純白のウエディングドレス、綺麗だったのよ。パパの方が感激しちゃって、泣いて大変だったの。」だって。
汚れていない綺麗な身体で純白のウエディングドレスを着て、ママみたいにぼくも大好きな初恋のおにいちゃんと結婚する。
長いローブを引いた真っ白の花嫁衣装は…あれ…?どっちが着るんだろう…?
やっぱり、ぼくかなぁ。
おにいちゃん、ごついもん・・・きっと、似合わないよね。航が「えふかっぷ」になるまで待っててね。
薔薇窓のステンドグラスから入り込む、七色の淡い光に包まれてぼくとお兄ちゃんを教会の金色の天使が祝福する。
「病める時も、健やかなる時も……」
胸がいっぱいになった。
*****
「はい、大きな声で繰り返して言って下さいね。」と、担任の榊先生が言う。
『知らない人に付いて行ってはいけません。』
『知らない人にものをもらってはいけません。』
『知らない人に声を掛けられても、お返事してはいけません。』
「いいですね?」
「はぁい!」
下校時、先生がぼくたちに大きな声で毎日復唱させる標語。
「いいですか?最近、また「変質者」が出たそうですから気を付けなくてはいけませんよ。」と先生は真面目な顔で言う。
「変質者ってなんですか?何をする人ですか?」と、質問が飛んだ。
「子供に悪いことをする人です。」
「悪い事ってなんですか?」
「……いけない事です。」
まるで答えのでない袋小路で堂々めぐりしているような会話が続いた後、先生がちらりとぼくを見てふうっとため息を吐いた。
「御堂くんみたいに可愛い子は、男の子でも最近は危ないのよ。……なんていえばいいのかしらね~。御堂くん、絶対に帰り道一人になっちゃ駄目よ。」
「あぶないから……?」
「そうよ~。隣町の小学校で連れて行かれそうになったのは、女子じゃなくて可愛い男子だっていうの。警察が言うには最近の変質者って、昔と違っていろいろらしいから心配ね。航太くんのおうち、表通りから少し入って行くでしょ。先生、やっぱり近くまで送って行こうかしら。」
「先生、ぼくなら大丈夫。あのね、おにいちゃんがお休み中は、お迎えに来てくれるからだいじょうぶなの。朝もね、途中まで送ってくれたし、帰りも公園の所まで来てくれるって。ぼくね、大人になったらおにいちゃんとけっこんするんだよ。」
「けっこん…って、結婚?おにいちゃんと結婚するの?」
「うん!けっこんは大好きな人とするんだって、ママが言ったよ。だから、決めたの。」
「まあ…、航太くん。男の子はおにいちゃんとは結婚できないのよ。知らなかった?だって、男同士だと赤ちゃん出来ないでしょう?」
「でも…ぼく……。け…っこんするんだよ…ぅ。」
突然泣きだしたぼくに掛ける言葉を、先生は捜していたみたいだった。
みんなが笑うから、薄々気が付いてはいたけど…先生が言うのなら本当なのかなぁ。大人になってけっこんしたら大好きなおにいちゃんとずっと一緒に居られると思っていたのに・・・。
「うっ……うっ。」
涙は後から後からどんどん溢れてきて、ほっぺたを濡らした。
「航太くん。本気だったのね。」
「うん。」
「そうなのね。わかった。先生も航太くんのこと応援する。愛には試練がつきものだけど、がんばって。」
「うん。がんばる……」
先生の気休めに騙されたふりをして、ぼくはランドセルを背負った。でもね、今日のランドセルはとても重たかったんだ。悲しいといろいろなものが、重い試練になる。人生って厳しい。
おにいちゃんとの結婚は、誰に聞いてもおかしいと言われる。ママもおばさんも笑うし、ぼくの結婚計画は、悲しいけど、「じゅんぷうまんぱん」に行きそうにもなかった。
でも、人生の荒波にぼくはくじけずに立ち向かうんだ。
…じゅんぷうまんぱん…って、何?
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