タンデムシートで抱きしめて 8
おにいちゃんに運ばれた病院で、ぼくは色々な検査をした。幸い何の異常もなく、たった一日で検査入院は終了した。
パパもママも、おにいちゃんもおばちゃんも、結果を聞いてほっと胸を撫で下ろした。
退院の翌日、改めて家に訪ねて来たおにいちゃんは、玄関で靴を脱ぐとパパとママに土下座をした。
「今回のことは、俺のせいです。俺が付き合っていた彼女にちゃんと引導渡さなかったから、余計な期待と嫉妬心を持たせたみたいです。航太のことを脅してくれと、従兄弟に頼んだらしいんですけど、そいつが最近、ここいらで変質者って言われている奴でした。そういうのを知らなかったみたいですけど、そこまで追い詰めたのは俺です。航太を怖い目に合わせて、本当にすみませんでした。」
「手を上げなさい。亜紀人くん。」
「そうよ。よしてちょうだい。助けてもらって、私たち本当に感謝しているのよ。」
「大事に至らなかったのは、君の機転があったからだ。航太もおかげで、無事だった。」
玄関で這いつくばっているおにいちゃんの背中が、小刻みに震えていた。
「悔しいんです……。航大のこと、ずっと可愛いと思って来たのに、こんな目に合わせてしまって。……護れなかった俺は、航太に合わせる顔がないです。航太はちびの時から、ずっと俺には勿体無いくらい一途に慕ってくれてたのに、俺は茶化して逃げてばかりで卑怯でした。これからは、航太の気が済むようにします。航太にそう伝えてください。ずっと…航太の気の済むまで、俺で良いなら一生でも俺はそばにいますから。責任はきっちり取ります。俺も、航太のこと本気で大切に思って居ます。」
ママがそうっとドアの所で様子を伺っているぼくを、指の先でくいっと呼んだ。パパは腕を組んで仁王立ちになっている。
低い声がおにいちゃんの頭上に響いた。
「小さな子供のいう事だからと思っていたからね、わたしも君を慕ってお嫁さんになりたいという航太が、どこまで本気か分からなかったよ。だがね、航太はうわ言で、わたしでも家内でもなく亜紀人くんだけに助けを求めたんだ。親として叶わないと思ったよ。病院からもこのままPTSDにしないためにも、十分な愛情を掛けてやってくれと言われている。」
「はい。聞いて居ます。」
「亜紀人くん。今も真夜中に飛び起きて泣き叫ぶ航太が捜すのは、いつも君なんだ。これは、親のわがままなんだ。亜紀人くん、あの子が落ち着くまででもいい、航太を頼めないか。この通りだ。」
「勿論、そのつもりです。お願いしなければならないのは、俺の方です。航太の傍に居させてください。」
深々と頭を下げて、花嫁の父?…パパは、もしかするとぼくのことをおにいちゃんに頼んでくれている…?おにいちゃんが、ぼくの事可愛いって言った。「可愛い」は目指してないけど、おにいちゃんが言ってくれると何だかうれしかった。
ママが親指を立てて、やったねの合図を送ってくる。
「ママ。パパはぼくがおにいちゃんの所に、お嫁に行ってもいいって言ってるの?いいの?」
「う~ん…ちょっと違うかもだけど。この際、パパもママも航太が幸せならいいってことね。ほら、おにいちゃんが待ってるわよ。行ってらっしゃい。」
ぼくはちょっとだけどきどきしながら、そうっとおにいちゃんの前に立った。
玄関にぺたりと座ったまま、顔だけを上げておにいちゃんは膝の上にぼくを呼んで質問した。
「航大。俺のこと、まだ好きか?」
「ん……。好き。航太は、おにいちゃんが一番好き。」
「そっか。じゃあ、今夜からおにいちゃんと一緒に暮らそう。まだ大学とかあるけど、本気で考えるから。それでいいか?」
「おにいちゃんも航太の事が……好き?」
「……本当のこと言うと、まだ小さい航太の事を好きになっちゃいけないと思って、おにいちゃんは大学が決まった時、航太から逃げたんだ。俺は航太が好きだって言ってくれる度、いいお兄ちゃんで居る自信がなくなっていったからね。でも、これからずっと航太が一緒に居てくれるなら、お兄ちゃんは本気で嬉しい。航太、お願いします。俺の傍にいてください。」
おにいちゃんは、ぼくに頭を下げた。
ぼくは、夢がかなったサンドリヨンになったような気持ちで、ふわふわとしていた。
幸せすぎて、明日が怖い。あ…でも、まだひとつ問題があるんだった。
「あの……。」
「ん?」
「あのね。ぼく……男だからどうしても「えふかっぷ」にはなれないと思うの。ママも「びーかっぷ」だし、遺伝的にも無理なの。それでも大丈夫?おにいちゃん、前にほるすたいんが好きだって言ってた……じゃない?女の子にならなくてもいいの?」
おにいちゃんは、くっと笑ってぼくの耳に小さな声で告げた。
「お兄ちゃんは、女の子じゃなくて男の子の航太がいいんだ。ぺったんこは感度良いからな。パパとママには内緒だぞ。航太が大きくなったら開発してやるから待ってろ。いっぱい、えっちするからな。」
「きゃあ~。」
ぼくのとろける笑顔を見て、パパとママは何て言ったのって聞きたがった。
「や~ん、秘密です~。」
大好きなおにいちゃんに、ありのままでいいと言われてうれしかった。
ぼくは、おにいちゃんの傍でゆっくり大人になってゆく。
季節はいつか移り変わり、駅前にイルミネーションが綺麗に光る冬になった。
(〃゚∇゚〃) 航太:「次はおにいちゃんと、らぶらぶかなぁ……」
(´・ω・`) 亜紀人:「正直、我慢の限界でっす!」
(ΦωΦ)此花:「耐えろ!相手は子供だ。」←どの口が言う……
お読みいただきありがとうございます。
ランキングに参加しております。どうぞよろしくお願いします。 此花咲耶
パパもママも、おにいちゃんもおばちゃんも、結果を聞いてほっと胸を撫で下ろした。
退院の翌日、改めて家に訪ねて来たおにいちゃんは、玄関で靴を脱ぐとパパとママに土下座をした。
「今回のことは、俺のせいです。俺が付き合っていた彼女にちゃんと引導渡さなかったから、余計な期待と嫉妬心を持たせたみたいです。航太のことを脅してくれと、従兄弟に頼んだらしいんですけど、そいつが最近、ここいらで変質者って言われている奴でした。そういうのを知らなかったみたいですけど、そこまで追い詰めたのは俺です。航太を怖い目に合わせて、本当にすみませんでした。」
「手を上げなさい。亜紀人くん。」
「そうよ。よしてちょうだい。助けてもらって、私たち本当に感謝しているのよ。」
「大事に至らなかったのは、君の機転があったからだ。航太もおかげで、無事だった。」
玄関で這いつくばっているおにいちゃんの背中が、小刻みに震えていた。
「悔しいんです……。航大のこと、ずっと可愛いと思って来たのに、こんな目に合わせてしまって。……護れなかった俺は、航太に合わせる顔がないです。航太はちびの時から、ずっと俺には勿体無いくらい一途に慕ってくれてたのに、俺は茶化して逃げてばかりで卑怯でした。これからは、航太の気が済むようにします。航太にそう伝えてください。ずっと…航太の気の済むまで、俺で良いなら一生でも俺はそばにいますから。責任はきっちり取ります。俺も、航太のこと本気で大切に思って居ます。」
ママがそうっとドアの所で様子を伺っているぼくを、指の先でくいっと呼んだ。パパは腕を組んで仁王立ちになっている。
低い声がおにいちゃんの頭上に響いた。
「小さな子供のいう事だからと思っていたからね、わたしも君を慕ってお嫁さんになりたいという航太が、どこまで本気か分からなかったよ。だがね、航太はうわ言で、わたしでも家内でもなく亜紀人くんだけに助けを求めたんだ。親として叶わないと思ったよ。病院からもこのままPTSDにしないためにも、十分な愛情を掛けてやってくれと言われている。」
「はい。聞いて居ます。」
「亜紀人くん。今も真夜中に飛び起きて泣き叫ぶ航太が捜すのは、いつも君なんだ。これは、親のわがままなんだ。亜紀人くん、あの子が落ち着くまででもいい、航太を頼めないか。この通りだ。」
「勿論、そのつもりです。お願いしなければならないのは、俺の方です。航太の傍に居させてください。」
深々と頭を下げて、花嫁の父?…パパは、もしかするとぼくのことをおにいちゃんに頼んでくれている…?おにいちゃんが、ぼくの事可愛いって言った。「可愛い」は目指してないけど、おにいちゃんが言ってくれると何だかうれしかった。
ママが親指を立てて、やったねの合図を送ってくる。
「ママ。パパはぼくがおにいちゃんの所に、お嫁に行ってもいいって言ってるの?いいの?」
「う~ん…ちょっと違うかもだけど。この際、パパもママも航太が幸せならいいってことね。ほら、おにいちゃんが待ってるわよ。行ってらっしゃい。」
ぼくはちょっとだけどきどきしながら、そうっとおにいちゃんの前に立った。
玄関にぺたりと座ったまま、顔だけを上げておにいちゃんは膝の上にぼくを呼んで質問した。
「航大。俺のこと、まだ好きか?」
「ん……。好き。航太は、おにいちゃんが一番好き。」
「そっか。じゃあ、今夜からおにいちゃんと一緒に暮らそう。まだ大学とかあるけど、本気で考えるから。それでいいか?」
「おにいちゃんも航太の事が……好き?」
「……本当のこと言うと、まだ小さい航太の事を好きになっちゃいけないと思って、おにいちゃんは大学が決まった時、航太から逃げたんだ。俺は航太が好きだって言ってくれる度、いいお兄ちゃんで居る自信がなくなっていったからね。でも、これからずっと航太が一緒に居てくれるなら、お兄ちゃんは本気で嬉しい。航太、お願いします。俺の傍にいてください。」
おにいちゃんは、ぼくに頭を下げた。
ぼくは、夢がかなったサンドリヨンになったような気持ちで、ふわふわとしていた。
幸せすぎて、明日が怖い。あ…でも、まだひとつ問題があるんだった。
「あの……。」
「ん?」
「あのね。ぼく……男だからどうしても「えふかっぷ」にはなれないと思うの。ママも「びーかっぷ」だし、遺伝的にも無理なの。それでも大丈夫?おにいちゃん、前にほるすたいんが好きだって言ってた……じゃない?女の子にならなくてもいいの?」
おにいちゃんは、くっと笑ってぼくの耳に小さな声で告げた。
「お兄ちゃんは、女の子じゃなくて男の子の航太がいいんだ。ぺったんこは感度良いからな。パパとママには内緒だぞ。航太が大きくなったら開発してやるから待ってろ。いっぱい、えっちするからな。」
「きゃあ~。」
ぼくのとろける笑顔を見て、パパとママは何て言ったのって聞きたがった。
「や~ん、秘密です~。」
大好きなおにいちゃんに、ありのままでいいと言われてうれしかった。
ぼくは、おにいちゃんの傍でゆっくり大人になってゆく。
季節はいつか移り変わり、駅前にイルミネーションが綺麗に光る冬になった。
(〃゚∇゚〃) 航太:「次はおにいちゃんと、らぶらぶかなぁ……」
(´・ω・`) 亜紀人:「正直、我慢の限界でっす!」
(ΦωΦ)此花:「耐えろ!相手は子供だ。」←どの口が言う……
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