タンデムシートで抱きしめて 3
一度、後からぎゅ~って、おにいちゃんのガールフレンドが腰にしがみついて単車に乗っているのを見たことがある。単車の後はまだ危ないからって乗せてもらえないちびのぼくは、おにいちゃんが他の人を乗せているのを見て涙が出そうになった。
(おにいちゃんのタンデムシートは、ぼくの席なのに…どうして知らない人を乗せるの?)
悲しくなったぼくがじ~っと見つめていると、おにいちゃんは照れたような困ったような顔をして、おいでと呼んで抱き上げた。
「航太は、もう少し大きくなったら乗せてやるからな。」
「うん。ぼく、おっきくなる。ご飯いっぱい食べる。」
おにいちゃんのガールフレンドは、ぼくをにらんで「ったく…ガキのくせにお邪魔虫なんだから!あっちに行ってろっつうの。」と不貞腐れてそっぽを向いた。すごいきつい目で、ぼくをぐっと睨んでねめつけた。
お姉さん、「女のしっと」ってみにくいんだよ。
「真佑子。子供相手にむくれても仕方ないだろう?」
「亜紀人には、わからないの?わたし、わかるわ。この子ガキだけど、亜紀人のこと本気で好きなのよ。」
「そうかぁ…?知り合いの兄ちゃんとでも思ってるんだろ?」
「違うわよ、ばかっ。」
「へぇ、航太は俺のことが本気で好きなのか。ちびの頃から、お嫁さんになるって言ってたよなぁ。今も、本気か?」
「うんっ!」
腕の中で必死でうなずくぼくを、おにいちゃんは面白がって強く抱きしめた。
「そっか~、嬉しいなぁ。お兄ちゃんも航太のこと可愛いから好きだぞ。美人になれよ、航太。そしたら、ちゃんと考えてやるからな。」
「うん!美人になる。」
「ああ、もうっ!そんな冗談言って、ちびが本気にしたらどうするのよ!!」
「そしたら恋人になってもいいよなぁ、航太。」
「ほんきだもん。」
ぼくとおにいちゃんがぎゅうっと抱き合うのを見て、おにいちゃんのガールフレンドは本気で腹を立て、おにいちゃんの命よりも大切な単車をがん!と蹴った。「何、するんだ!」と、血相を変えて思わず腕を掴んだおにいちゃんに、「ばかっ!ヘンタイ!ショタコン!」と叫んで走り去ったガールフレンドがほんのちょっと気の毒だった。
「ったく。わけのわからないやつだなぁ。なぁ、航太。」
お姉さんがおにいちゃんを本気で好きだって、ぼくはちゃんとわかっていた。
でも、おにいちゃんはあげない。おにいちゃんはぼくのもの。
その日、勝者になったぼくは敗者を蹴散らして、思いっきりおにいちゃんに甘えた。
でも、それが原因でしばらくして大変なことが起きるんだ……。
*****
おれ達は、本当は暴走族じゃなくて単車が好きな走り屋なんだよと、おにいちゃんのお友達が言う。あの派手な特攻服は虫よけなんだって。虫よけ……タンスにゴン……?
もう今は、生産されていないおにいちゃんの単車もそうだけど、お友達の中にはCBXとかという名の古い単車もあって、どれもピカピカに磨いてあった。銀色の所なんて、顔が写るくらい。どれもかっこよくて、ずらりと勢揃いしたらわくわくする。
ぼくも、早く大きくなってツーリングに行きたいです。
「暴走族はカムフラージュだから、心配するな。この派手なの転がしてるとさ、盗難に遭っちまったり、公道で絡まれる確率めっちゃ高いから、わざとチーム作ったんだ。航太のママが心配するような、怖いおにいちゃんにはならないから、安心しな。航太の為にも、安全運転、学術優秀、品行方正だからな。」
ぼくは、余りよくわからないけど「うん。」と言う。大学はもうすぐ休みだから、おにいちゃんは、ぼくといっぱい遊んでくれるって言った。
「お泊りしてもいい?一緒のおふとんで寝てもいい?この前、五月の連休で帰ったきりだもん。航、さみしかった。」
「この甘え上手め~!ちくしょう、可愛いぞ~!」
おにいちゃんは、ぼくの脇腹に手を入れてこちょこちょとくすぐる。
「きゃあ~。」
一人っ子のおにいちゃんは、ぼくのことを膝の上に乗せて、誰よりも大切だと言ってくれた。
「あんたなんか、弟よ。お邪魔虫。」って、いつかのお姉さんが会う度に、意地悪くぼくにいう。きっと、「らいばる」って言うんだよ。ママに相談したら大人の恋は、誰かを奪い合うのは良くあることだって。特に年の差がある恋愛には「しょうがい」がつきものなの。
でも、ぼくはおにいちゃんが好きだから、しょうがいを乗り越えてお嫁さんになるつもり。
あのおねえさんもおにいちゃんのこと好きみたいけど、おにいちゃんはいつかお風呂で、ぼくの頭を泡でアトムにしながら「あいつみたいに男の前でぶりっこするのは趣味じゃない。」って言ってた。
ぼくの方がぴちぴちだけど、たぶんおっぱいのないのは一番の問題だと思う。おにいちゃんの趣味じゃないお姉さんは、えふかっぷを自慢げに揺らしていた。おにいちゃんは、時々えふかっぷをおかずに「ぬく」と言う。
「あいつの取柄は、胸だけだからな。」
「ぬく…?」
浴室の中で、シャンプーの泡で角を作った小さなアトムが、悩ましげに首をかしげていた。
泡でそうっと作ったおっぱいが、ざっとお湯で流れた。
お読みいただきありがとうございます。
ランキングに参加しております。どうぞよろしくお願いします。 此花咲耶
(おにいちゃんのタンデムシートは、ぼくの席なのに…どうして知らない人を乗せるの?)
悲しくなったぼくがじ~っと見つめていると、おにいちゃんは照れたような困ったような顔をして、おいでと呼んで抱き上げた。
「航太は、もう少し大きくなったら乗せてやるからな。」
「うん。ぼく、おっきくなる。ご飯いっぱい食べる。」
おにいちゃんのガールフレンドは、ぼくをにらんで「ったく…ガキのくせにお邪魔虫なんだから!あっちに行ってろっつうの。」と不貞腐れてそっぽを向いた。すごいきつい目で、ぼくをぐっと睨んでねめつけた。
お姉さん、「女のしっと」ってみにくいんだよ。
「真佑子。子供相手にむくれても仕方ないだろう?」
「亜紀人には、わからないの?わたし、わかるわ。この子ガキだけど、亜紀人のこと本気で好きなのよ。」
「そうかぁ…?知り合いの兄ちゃんとでも思ってるんだろ?」
「違うわよ、ばかっ。」
「へぇ、航太は俺のことが本気で好きなのか。ちびの頃から、お嫁さんになるって言ってたよなぁ。今も、本気か?」
「うんっ!」
腕の中で必死でうなずくぼくを、おにいちゃんは面白がって強く抱きしめた。
「そっか~、嬉しいなぁ。お兄ちゃんも航太のこと可愛いから好きだぞ。美人になれよ、航太。そしたら、ちゃんと考えてやるからな。」
「うん!美人になる。」
「ああ、もうっ!そんな冗談言って、ちびが本気にしたらどうするのよ!!」
「そしたら恋人になってもいいよなぁ、航太。」
「ほんきだもん。」
ぼくとおにいちゃんがぎゅうっと抱き合うのを見て、おにいちゃんのガールフレンドは本気で腹を立て、おにいちゃんの命よりも大切な単車をがん!と蹴った。「何、するんだ!」と、血相を変えて思わず腕を掴んだおにいちゃんに、「ばかっ!ヘンタイ!ショタコン!」と叫んで走り去ったガールフレンドがほんのちょっと気の毒だった。
「ったく。わけのわからないやつだなぁ。なぁ、航太。」
お姉さんがおにいちゃんを本気で好きだって、ぼくはちゃんとわかっていた。
でも、おにいちゃんはあげない。おにいちゃんはぼくのもの。
その日、勝者になったぼくは敗者を蹴散らして、思いっきりおにいちゃんに甘えた。
でも、それが原因でしばらくして大変なことが起きるんだ……。
*****
おれ達は、本当は暴走族じゃなくて単車が好きな走り屋なんだよと、おにいちゃんのお友達が言う。あの派手な特攻服は虫よけなんだって。虫よけ……タンスにゴン……?
もう今は、生産されていないおにいちゃんの単車もそうだけど、お友達の中にはCBXとかという名の古い単車もあって、どれもピカピカに磨いてあった。銀色の所なんて、顔が写るくらい。どれもかっこよくて、ずらりと勢揃いしたらわくわくする。
ぼくも、早く大きくなってツーリングに行きたいです。
「暴走族はカムフラージュだから、心配するな。この派手なの転がしてるとさ、盗難に遭っちまったり、公道で絡まれる確率めっちゃ高いから、わざとチーム作ったんだ。航太のママが心配するような、怖いおにいちゃんにはならないから、安心しな。航太の為にも、安全運転、学術優秀、品行方正だからな。」
ぼくは、余りよくわからないけど「うん。」と言う。大学はもうすぐ休みだから、おにいちゃんは、ぼくといっぱい遊んでくれるって言った。
「お泊りしてもいい?一緒のおふとんで寝てもいい?この前、五月の連休で帰ったきりだもん。航、さみしかった。」
「この甘え上手め~!ちくしょう、可愛いぞ~!」
おにいちゃんは、ぼくの脇腹に手を入れてこちょこちょとくすぐる。
「きゃあ~。」
一人っ子のおにいちゃんは、ぼくのことを膝の上に乗せて、誰よりも大切だと言ってくれた。
「あんたなんか、弟よ。お邪魔虫。」って、いつかのお姉さんが会う度に、意地悪くぼくにいう。きっと、「らいばる」って言うんだよ。ママに相談したら大人の恋は、誰かを奪い合うのは良くあることだって。特に年の差がある恋愛には「しょうがい」がつきものなの。
でも、ぼくはおにいちゃんが好きだから、しょうがいを乗り越えてお嫁さんになるつもり。
あのおねえさんもおにいちゃんのこと好きみたいけど、おにいちゃんはいつかお風呂で、ぼくの頭を泡でアトムにしながら「あいつみたいに男の前でぶりっこするのは趣味じゃない。」って言ってた。
ぼくの方がぴちぴちだけど、たぶんおっぱいのないのは一番の問題だと思う。おにいちゃんの趣味じゃないお姉さんは、えふかっぷを自慢げに揺らしていた。おにいちゃんは、時々えふかっぷをおかずに「ぬく」と言う。
「あいつの取柄は、胸だけだからな。」
「ぬく…?」
浴室の中で、シャンプーの泡で角を作った小さなアトムが、悩ましげに首をかしげていた。
泡でそうっと作ったおっぱいが、ざっとお湯で流れた。
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