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タンデムシートで抱きしめて 7 

おにいちゃんはじっとぼくを見つめていたけど、すっぽんぽんなのにやっと気が付いたのだと思う。くっと顔を歪め視線を逸らせた。
白い滑らかな下腹に、花弁を散らしたように、いくつもの紅い吸痕が淫らに散っていた。

「……そうか。おにいちゃんは大学を出たら就職を決めて、航太を幸せにするつもりだったんだけどなぁ。航太は俺のこと嫌いになったのか。そうか……、航太はもう俺が居なくても良いのか……。あぁ……辛いなぁ、これから航太と一緒に夏休みは海に行こうと思っていたのに、もう駄目なんだな。新しいテントも買ったのになぁ。」

「……テント…?もしかして、航とキャンプに行く……?」

「バーベキューもするし、でっかい打ち上げ花火も買ってある。夜はテントでいっぱいの流れ星を見ながら、お兄ちゃんは航を腕枕して寝るんだ。」

「おにいちゃんと……お星さま……。」

「……でも、航太はおにいちゃんと別れるんだろう?おにいちゃんは一人で行くしかないんだな。哀しいなぁ……。」

おにいちゃんが、ぼくを抱き上げて誘惑する。でもね、本当のことを知ったらおにいちゃんもきっともう別れるっていうんだ。ぼくは、勇気を振り絞った。

「この人に…キス……されたの。いやだって言ったけど、お、おちんちんも…先っちょ、舐められたの。逃げたかったけど……ごめんなさい……、ぼく……もう……お嫁さんには……えっ……ん。」

なめくじが這うような感触を思い出し、ふるっと背筋が震えた。言いたくはなかったけど、一度嘘をつくとどんどん大きな嘘を重ねることになると、先生が言ってた。本当のことを言うのは勇気がいるけど、その方が良いのよ、がんばってって。
がんばったけど……悲しくてどうしようもなかった。
ぶわっと一度涙が零れたら、もう止まらなくなってぼくはその場で咽んだ。
おにいちゃんは事実を聞くなり、そこに倒れている男の身体を思い切り踏みつけた。

「このくそがっ!おらあっ!」

「ぐおっ…」

鈍い音が何度も響き、口から血の混じった泡を吹いたのを見て、お友達があわてて止めた。

「亜紀人っ!落ち着けって。航ちゃんは無事だったんだから、後は警察に任せよう、な?」

「くそぉっ……!何で航太が、こんな目にっ!みんな、俺のせいじゃないか。俺が真佑子なんぞに良い顔したから……。こんなっ……」

ふと、おにいちゃんの濡れた瞳がぼくに向けられる。それは、ぼくが汚れてしまったから…?
責めているの…?おにいちゃん……。

「ごめんなさい。おにい……ちゃ…。でも、航は……」

命の瀬戸際、救われたお姫さまは、勇士の腕の中で緊張の糸が切れ、とうとうぱたりと失神してしまった。

「航太っ!」

助けられたと言う最上級の安堵は、悲しみの闇に飮まれてふっと消えた。知らない男に穢されてしまった現実に、ぼくの神経はもうこれ以上耐えきれなかったんだ。
おにいちゃんは、着ていたライダースーツを脱ぐと大切に裸のぼくを包み、抱きしめたまま長い間泣いていたと、後でお友達に聞いた。大きな哀しみにおにいちゃんも打ちのめされていた。

男が気を失って血の海に沈んでも、腕を振り払っておにいちゃんはずっと蹴り続けたそうだ。おにいちゃんは、ぼくを守れなかったことを自分のせいと責めて、深く傷ついていた。

何も知らないぼくはこんこんと、ひたすら眠っていた。




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