漂泊の青い玻璃 21
少しでも琉生の傍に居てやりたいという願いは、何かに届いたのだろうか。
季節は幾度も、木々の色を変えた。
*****
その頃を思い出すと、琉生の記憶の中の母は、西洋のお伽噺に出てくる少女のように静かに横になっていた。
快活に家事をする母の姿はもうなかった。
ゆっくりと時は過ぎ、花がしおれるように母は床につくようになっていた。
広いリビングの陽の射す場所に、美和は自分の大きな揺り椅子を置いた。
そこからは琉生が帰ってくるのが見える。
学校から一目散に走って帰る琉生を待って、その頃、すっかり弱ってしまった美和は、優しく微笑んだ。
「おかえりなさい。琉生。」
「ただいま、お母さん。これ、咲いてたから摘んできた。」
「可愛い。もう、春なのね……」
琉生は庭に咲いていた蝋梅の黄色の花を一枝、グラスに挿した。
春を告げる小さな花弁が、曇りガラスでこしらえた造花のようだ。
微かに花の香がリビングに漂った。
この頃、すでに食事を摂れなくなっていた美和は、胃ろうの手術をしていた。
椅子に座っている以外は、横になっている時間が長くなっていて、誰の目にも、ひどく衰弱していると分かる。
今度何かあったら、責任が持てません。すぐに、入院していただきますと、医師に引導を渡されていたのを引き延ばしていた。
「気分はどう?少しは眠れた?」
「ごめんね……琉生。」
「ん?なんで謝るの?」
「お母さんね、本当は琉生と二人で、この家を出て行くつもりでいたの。……病気になったから、できなくなっちゃった。隼人君にも、出て行くって言ったのにね。」
「それって、大分前に尊兄ちゃんと隼人兄ちゃんが、喧嘩した日の事……?あれなら、もういいんだよ。お母さんが病気になってから、お兄ちゃん達は気を使ってくれるしすごく優しいんだ。最初この家に来た時みたいに、ぼく達すっかり仲良しなんだよ。」
「そうなの?もう今は、尊君と隼人君も喧嘩していないのね。良かった。」
「隼人兄ちゃんが、ごめんねって言ってた。良くわからないけど、お母さんとぼくのことを誤解してたって、いっぱい謝ってた。倒れたのも自分のせいかもしれないって、すごく落ち込んでたんだよ。だから何も心配しないで、お母さんは病気を治して。隼人兄ちゃんも、早く元気になればいいなって言ってた。」
母は優しく微笑んだ。
「そうだったの。……隼人君のいいところは、自分が悪いと思ったらすぐに謝れるところね。琉生も見習わなきゃ。謝るのって、すごく勇気がいるもの。」
「うん。そうする。」
「隼人君はサッカーの試合?」
「毎日、グラウンドに通ってる。隼人兄ちゃんかっこいいから、クラスの子にいいなぁってすごく羨ましがられるんだよ。イケメン好きの女の子達、きゃっきゃっ言ってる。皆、兄貴なんて、うるさくて乱暴で大っ嫌いだって言ってるけど、ぼくはお兄ちゃん達の事好き。」
「そうね。琉生のお兄ちゃんは二人とも素敵だものね。琉生にお兄ちゃんが出来て良かったって、お母さんはいつも思ってるの。琉生が一人ぼっちになったら、どうしようって心配だったの。」
「お母さん……もうすぐいなくなるの?……ぼく……お母さんがいなくなるの嫌だよ。」
「いつかの話よ。お母さんも琉生の傍にずっといたいから、頑張るね。」
「ん……」
琉生は目許を赤くして、こくりと頷いた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
限られた母との時間なのです……(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚「いなくなっちゃ、やだ……」
(〃^∇^)o 「琉生くん、このちんいじめっこじゃないから~」
( *`ω´) 「ほんとか~」
|)≡サッ!!←逃げた~
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