漂泊の青い玻璃 23
「琉生。帰ってたのか。」
部屋から出てきた隼人に呼び止められた。
「……お母さんの具合はどうなんだ。少しは良いのか?」
「お父さんに聞いた方が良いんじゃない?ぼくは傍に居ると、すぐに追い払われるんだ。」
すねたように、琉生は口をとがらせた。
「なんだ、機嫌悪そうだな?生意気な口を叩くようになったじゃないか、ちび琉生。犬が怖くて泣いてたくせに。」
「もう怖くないよ。それに、近藤さんの家のドーベルマンとは仲良くなったんだよ。」
「そうなのか。」
「ぼくだっていつまでも、ちびじゃないからね。」
「なんだ、えらそうに。俺の背を越してから言え、ちび琉生。前から二番目のくせに。」
「隼人兄ちゃん。ぼくはもう二番目じゃないんだよ。だからもう、ちび琉生って呼ぶの禁止。」
「え?そうなのか?」
「……三番目だもん。」
「なんだよ、それ~!」
大して変わらないじゃないかと、隼人は笑い転げた。
今もクラブチームでサッカーを続けていて、土日はほとんど試合でいない。平日も、琉生より早く帰宅するのは稀だった。
「隼人兄ちゃん。今日はどうしたの?いつもよりも早いね。」
「ああ。兄貴が相談があるって言ってたから、ミーティングだを抜けさせて貰った。何か、進路の話?だったかな。この間、センター試験だったろ?大学決めたんじゃないかな。」
頭脳明晰な尊は、すでにどこかの国公立大学に願書を出したと言っていた。少しでも早く進路を決めて、お母さんを安心させたいんだと尊は言う。
尊を大好きな琉生にしてみれば、どこか遠くの大学に尊が行ってしまうのは、とても寂しくて嫌だった。しかし、いつまでも小さな子供のように、兄の膝の上でゲームに興じるわけにもいかない。
兄が遠くに行ってしまうと想像しただけで哀しくなった琉生は、小さく、すん……と、鼻を鳴らした。
「尊兄ちゃん、家から通える大学にすればいいのにね……。」
「そうだな。兄貴なら頭いいから、どこでも通るだろうし、琉生は兄貴が大好きだもんな。ちびのころから、金魚の糞みたいに、兄貴にばっかりくっついていたよな。」
「隼人兄ちゃんが、ぼくのこと虐めてばかりだったから、尊兄ちゃんの傍に居たんだよ。ぼく、隼人兄ちゃんには泣かされた記憶しかないよ。叩かれたりつねられたりして、あちこちあざだらけだったもの。」
「余計な事ばかり、しつこく覚えてるな~……悪かったよ。あのころ、俺は近所のおばはんに色々吹き込まれて、お前たちが大嫌いだったからな。」
「今は大好きでしょ?」
「なっ……!そんなこと、口にできるか。馬鹿やろっ!」
突然予期せぬ笑顔をふわりと向けられて、隼人はばっと赤面した。
元々、再婚相手に男の子がいると聞いて、もろ手を挙げて再婚に賛成したのは尊ではなく隼人の方だった。
「ふふっ。知ってるよ。この間、ぼくがお隣の武君に苛められた時、隼人兄ちゃん怒ってくれたんだって?」
「あいつが、ふざけたこと言うからだ。でも、なんで琉生が知ってるんだ?」
「おばさんが、ほんとのこと言って何が悪いのよって、火の玉みたいに真っ赤になって怒鳴り込んできたんだよ。家政婦の織田さんに掴みかかりそうになってたって、お母さんが言ってた。犬の子みたいに貰われてきたって言い方は悪いかもしれないけど、殴ることないじゃないの。見てよ、この顔……って突きだされて、お母さん困ったわって言ってた。」
「あんなブサ面、少しくらい殴られたって変わり映えするかよ。青タン作ってやったから箔がついた位だ。」
「隼人兄ちゃん、それはひどいよ。武君、美人の彼女だっているんだよ。集団登校の時、いつかぼくに自慢してたよ。男の値打ちは連れた女の顔で決まるんだって。違う気がするけどね~。」
「琉生……」
隼人はふと真顔になった。
「いいか?誰にも言うなよ。」
「ん~?内緒の話?」
思わず小首をかしげて、耳を傾ける。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
気がつけばいつの間にか、子ども達は成長しています。
エピソードを入れながら、早く大人になぁれ~と思いながら書いています。
なかなかなのです~(。・ω・。)ノ☆ ヴィヴィデヴァビデブ~
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