漂泊の青い玻璃 14
公演後、戦隊ショーの半券を手にした琉生は、尊に抱き上げられて、初めて間近で見たテレビの中でしか会ったことのない正義の味方と、握手をした。
舞台に参加した記念に貰った、きゅこうじゃーの特別な帽子をかぶった琉生に、レッドが気付いた。
「琉生くん。今日は一緒に戦ってくれて、本当にありがとう。おにいちゃんとこれからも仲良くね。」
「うん。……あの、レッド。手は痛くない?」
「きゅうこうじゃーのスーツが守ってくれたんだ。もう、大丈夫だ。戦える。」
「良かった~。」
背の高いレッドに頭を撫でられて、琉生は夢でも見ているような心地だった。
「お母さん。あのね、あのねっ……。」
かっこいいレッドに抱かれて、ツーショットの写真を撮ってもらった琉生は、母の元に報告に行っても、余りに嬉しくて言葉すらまともに出てこないようだ。
舞い上がった琉生を、少し離れた尊と隼人はにこにこと笑って見守っていた。
「あんなに喜ぶとは思わなかったな。何かさ、こっちまで嬉しくなって来るよな。」
「隼人が頑張って参加席を取ってくれたからだよ。でも、隼人。本当は自分がきゅうこうブラスター撃ちたかったんじゃないのか?」
「そんなガキじゃないって。」
「5年生は、僕からしてみたら十分ガキだぞ。」
「うっせ~。でもさ、あいつおれたちの弟になるのかな?」
「どうかな。でも、優しそうな人だと思うよ。」
「おれ、あいつだったら弟にしてやってもいいよ。可愛いじゃん。」
「生意気な奴だったら、最初にガツンといわすんじゃなかったのか?」
「生意気だったらって言っただろ?」
隼人もどうやら琉生を気に入ったようだ。
「お兄ちゃ~ん!」
琉生が司会役のお姉さんに貰った記念の帽子をかぶって、手を振りながら戻ってきた。
「お兄ちゃん。お帽子、見て、見て。」
「似合ってる。レッドに握手もしてもらって、良かったね。」
「琉生くん、サインもしてもらった~。」
「ん?どこどこ?」
「ほら。ここなの。」
Tシャツの胸元に書いてもらったぎこちないサインを、誇らしげに見せる琉生を抱き上げた尊は、自分も昔、この遊園地で両親と共に戦隊ショーを見たことをぼんやりと思いだした。公演後、尊は多くの子供たちのように、どうしても玩具が欲しくて、両親にねだったのだった。
だが琉生は、子供たちが群がる物販コーナーへは行こうとしなかった。不思議に思った尊は何気なく聞いてみた。
「ねぇ。琉生くんは、きゅうこうじゃーのおもちゃとか持ってるの?」
持っているなら買う必要はないかなと、思った。
「きゅうこうブラスター?琉生くんは……ん~と、おもちゃは持ってないの。」
「そう。欲しくないの?ママに買ってって言わないの?」
琉生は困ったような顔をして、尊を見つめた。
「琉生くんは……いいの。」
「あのね。もしよかったら、今のじゃないけど少し前の隼人の合体ロボがあるから、貰ってくれないかな。お兄ちゃんたちはもう大きくなったから、おもちゃは要らないんだ。でも、捨てるのは勿体無くて、箱に入れてしまってあるんだ。他にもミニカーとかプラレールとかもいっぱいあるんだよ。見てみない?貰ってくれたら嬉しいんだけど。」
「琉生くん、ミニカー好き……。パトカーと救急車持ってる。」
それは、病院で看護師たちにプレゼントしてもらった、琉生の宝物だった。
会話を聞いて哀しげな視線を寄越した母は、何も欲しがらない琉生の本心を知っていた。琉生は何も言わないが、家に余分なお金の無いことを、きっと解っていた。
琉生が、どれだけきゅうこうじゃーが好きか、母も知っていたが、イラストが付いているだけで何割も高くなる品物を買ってやれなかった。
子どもたちのやり取りを聞き、この出会いに縁があるのなら、家族になれればと母は思った。
相手の連れ子の二人の子供たちは素直で、下の子はやんちゃで明るく、大人びた長男の方は琉生にも優しいようだ。
手をつないで仲良く歩く子供たちを眺めながら、母は上手くいった出会いに安堵し寺川に微笑みかけていた。
戸惑うこともあるだろうが、きっと兄弟はこれから一人っ子の琉生の支えになってくれるだろう。
母は、いつか一人ぼっちになる琉生の行く末を思って心を決めた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
琉生にとって忘れられない一日になりました。
舞台に参加した記念に貰った、きゅこうじゃーの特別な帽子をかぶった琉生に、レッドが気付いた。
「琉生くん。今日は一緒に戦ってくれて、本当にありがとう。おにいちゃんとこれからも仲良くね。」
「うん。……あの、レッド。手は痛くない?」
「きゅうこうじゃーのスーツが守ってくれたんだ。もう、大丈夫だ。戦える。」
「良かった~。」
背の高いレッドに頭を撫でられて、琉生は夢でも見ているような心地だった。
「お母さん。あのね、あのねっ……。」
かっこいいレッドに抱かれて、ツーショットの写真を撮ってもらった琉生は、母の元に報告に行っても、余りに嬉しくて言葉すらまともに出てこないようだ。
舞い上がった琉生を、少し離れた尊と隼人はにこにこと笑って見守っていた。
「あんなに喜ぶとは思わなかったな。何かさ、こっちまで嬉しくなって来るよな。」
「隼人が頑張って参加席を取ってくれたからだよ。でも、隼人。本当は自分がきゅうこうブラスター撃ちたかったんじゃないのか?」
「そんなガキじゃないって。」
「5年生は、僕からしてみたら十分ガキだぞ。」
「うっせ~。でもさ、あいつおれたちの弟になるのかな?」
「どうかな。でも、優しそうな人だと思うよ。」
「おれ、あいつだったら弟にしてやってもいいよ。可愛いじゃん。」
「生意気な奴だったら、最初にガツンといわすんじゃなかったのか?」
「生意気だったらって言っただろ?」
隼人もどうやら琉生を気に入ったようだ。
「お兄ちゃ~ん!」
琉生が司会役のお姉さんに貰った記念の帽子をかぶって、手を振りながら戻ってきた。
「お兄ちゃん。お帽子、見て、見て。」
「似合ってる。レッドに握手もしてもらって、良かったね。」
「琉生くん、サインもしてもらった~。」
「ん?どこどこ?」
「ほら。ここなの。」
Tシャツの胸元に書いてもらったぎこちないサインを、誇らしげに見せる琉生を抱き上げた尊は、自分も昔、この遊園地で両親と共に戦隊ショーを見たことをぼんやりと思いだした。公演後、尊は多くの子供たちのように、どうしても玩具が欲しくて、両親にねだったのだった。
だが琉生は、子供たちが群がる物販コーナーへは行こうとしなかった。不思議に思った尊は何気なく聞いてみた。
「ねぇ。琉生くんは、きゅうこうじゃーのおもちゃとか持ってるの?」
持っているなら買う必要はないかなと、思った。
「きゅうこうブラスター?琉生くんは……ん~と、おもちゃは持ってないの。」
「そう。欲しくないの?ママに買ってって言わないの?」
琉生は困ったような顔をして、尊を見つめた。
「琉生くんは……いいの。」
「あのね。もしよかったら、今のじゃないけど少し前の隼人の合体ロボがあるから、貰ってくれないかな。お兄ちゃんたちはもう大きくなったから、おもちゃは要らないんだ。でも、捨てるのは勿体無くて、箱に入れてしまってあるんだ。他にもミニカーとかプラレールとかもいっぱいあるんだよ。見てみない?貰ってくれたら嬉しいんだけど。」
「琉生くん、ミニカー好き……。パトカーと救急車持ってる。」
それは、病院で看護師たちにプレゼントしてもらった、琉生の宝物だった。
会話を聞いて哀しげな視線を寄越した母は、何も欲しがらない琉生の本心を知っていた。琉生は何も言わないが、家に余分なお金の無いことを、きっと解っていた。
琉生が、どれだけきゅうこうじゃーが好きか、母も知っていたが、イラストが付いているだけで何割も高くなる品物を買ってやれなかった。
子どもたちのやり取りを聞き、この出会いに縁があるのなら、家族になれればと母は思った。
相手の連れ子の二人の子供たちは素直で、下の子はやんちゃで明るく、大人びた長男の方は琉生にも優しいようだ。
手をつないで仲良く歩く子供たちを眺めながら、母は上手くいった出会いに安堵し寺川に微笑みかけていた。
戸惑うこともあるだろうが、きっと兄弟はこれから一人っ子の琉生の支えになってくれるだろう。
母は、いつか一人ぼっちになる琉生の行く末を思って心を決めた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
琉生にとって忘れられない一日になりました。
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