漂泊の青い玻璃 18
仕方なく尊は、琉生を連れて隼人の部屋を後にした。
これ以上の言い争いは、琉生の居るところですべきではないと思ったからだ。頑なな隼人が何故あんな風になってしまったのか、もっと詳しく聞くしかないと考えていた。
「ねぇ、琉生。たまにはお兄ちゃんと一緒にお風呂に入ろうか。頭洗ってやるよ。」
はっと瞠目した琉生は、尊の誘いをあっけなく蹴った。くるりと背を向けてしまう。
「……いい。琉生くん……ぼく……後で一人で入るから。尊兄ちゃんは、先に入って。あの……お勉強もあるでしょう?」
隼人に怒鳴られたせいか、琉生は自分の事を「ぼく」と口にした。
「琉生。隼人の言ったことを気にしているのか?走るのが遅いことなんて、どうってことない。誰にだって得手不得手があるんだから。隼人だって運動はできるけど勉強はできないだろ?」
「琉生くん……ぼくは、算数も嫌い。」
「その代り、琉生は誰よりも絵が上手じゃないか。がんばって琉生のいい所を伸ばせばいいんだよ。」
目許を赤くした琉生を、尊は引き寄せた。
「二年生になると、すっかりお兄ちゃんなんだな。ついこの間まで、一人で頭も洗えなかったのにな。もうお兄ちゃんと一緒にお風呂に入ってくれないのか?寂しいな~。」
「……尊兄ちゃんは、お勉強が忙しいから邪魔しちゃ駄目だってお母さんが言ってたもん……。」
「少しくらいいいんだよ。えいっ……!」
腕の中の琉生の着ていたパーカーを、思い切って脱がせた尊は目を疑った。
二の腕の内側や脇腹、外から見えない柔らかなところに幾つもの赤紫色の痣が有った。
「あっ……だめっ!だめっ……。」
琉生は慌てて、パーカーをもぎ取るとその場に抱え込み、しゃがみ込んだ。
「琉生っ!これ、どうしたんだ?!」
「こっ……ろんだ。」
「嘘だ。転んだくらいでこんな痣が出来るものか。本当のことを言ってごらん。学校で誰かに苛められているのなら、おにいちゃんが相手を呼び出して話をつけてやる。僕はいつでも琉生の味方だよ。琉生は大事な弟なんだから、きっと守ってあげる。誰にやられたの?」
琉生の口が何か言おうとして、薄く開いたが、言葉にはならなかった。
ぽろぽろと幾つも涙は溢れて来て、琉生は小さな拳で目許を拭った。
声にならない嗚咽をかみ締めて、琉生は突っ立ったまま尊の前で薄い肩を震わせていた。
琉生を心配してくれる尊の視線は、真綿のように暖かく包まれているだけで安心する。
尊は優しく琉生の顔を覗き込んだ。
「琉生……おにいちゃんは琉生の事、護りたいんだよ。どうしても言えないの?」
こくりと頷く琉生には、どうしても告げられない理由が有った。
なぜなら、琉生を傷つけたのは、兄の隼人だった。
本当の弟、隼人が琉生にそんなことをしていると知ったら、きっと尊は胸を痛めるに違いない。そればかりか、きっと隼人を詰問してさっきのように喧嘩になるだろう。
心配してくれる尊に、これ以上哀しい思いをさせたくはなかった。
琉生には、なぜ隼人が豹変してしまったのか、何も原因が分からなかった。
家の中ですれ違いざま、ひねり上げられて悲鳴を上げそうになるのを、琉生は口を押えて我慢していた。母親にも、滅多に顔を合わすことのない父親にも、誰にも話せなかった。
ある日を境に、突然豹変した隼人に、琉生自身も戸惑っていた。
しばらくすれば以前のように、またサッカーボールを一緒に蹴ってくれるのだと信じていた。
脱衣場の鏡に映る琉生の裸身に、ぽつぽつと斑点が目立つ。
赤紫の斑点は、時間が経てば黄色と緑の混ざった汚い色になって薄くなり、違う場所にまた違う斑点が出来た。痛みよりも、痣を付けるのが隼人なのが悲しかった。
母親の悲しむ顔が見たくなくて、琉生は誰にも言わず黙っていた。
だが、尊は気付いた。
静かに泣くばかりで、ついに誰にやられたか口にしなかった琉生がいじらしく哀れだった。それと同時に煮えるように腹が立った。
「琉生は何も悪くないのに……あの馬鹿。」
心の中で腹違いの弟に詫びた尊は、決意した。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃) ←笑い事か~の展開になっていますが、今更引っ込みつかず。
おとなしい琉生が、口を閉ざしてかばうのは……(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚+「ばればれだけど、言わないもん……」
♪ψ(=ФωФ)ψがんばれ、琉生くん。
このはな、いい加減にしろよ~!■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ「あうっ」
これ以上の言い争いは、琉生の居るところですべきではないと思ったからだ。頑なな隼人が何故あんな風になってしまったのか、もっと詳しく聞くしかないと考えていた。
「ねぇ、琉生。たまにはお兄ちゃんと一緒にお風呂に入ろうか。頭洗ってやるよ。」
はっと瞠目した琉生は、尊の誘いをあっけなく蹴った。くるりと背を向けてしまう。
「……いい。琉生くん……ぼく……後で一人で入るから。尊兄ちゃんは、先に入って。あの……お勉強もあるでしょう?」
隼人に怒鳴られたせいか、琉生は自分の事を「ぼく」と口にした。
「琉生。隼人の言ったことを気にしているのか?走るのが遅いことなんて、どうってことない。誰にだって得手不得手があるんだから。隼人だって運動はできるけど勉強はできないだろ?」
「琉生くん……ぼくは、算数も嫌い。」
「その代り、琉生は誰よりも絵が上手じゃないか。がんばって琉生のいい所を伸ばせばいいんだよ。」
目許を赤くした琉生を、尊は引き寄せた。
「二年生になると、すっかりお兄ちゃんなんだな。ついこの間まで、一人で頭も洗えなかったのにな。もうお兄ちゃんと一緒にお風呂に入ってくれないのか?寂しいな~。」
「……尊兄ちゃんは、お勉強が忙しいから邪魔しちゃ駄目だってお母さんが言ってたもん……。」
「少しくらいいいんだよ。えいっ……!」
腕の中の琉生の着ていたパーカーを、思い切って脱がせた尊は目を疑った。
二の腕の内側や脇腹、外から見えない柔らかなところに幾つもの赤紫色の痣が有った。
「あっ……だめっ!だめっ……。」
琉生は慌てて、パーカーをもぎ取るとその場に抱え込み、しゃがみ込んだ。
「琉生っ!これ、どうしたんだ?!」
「こっ……ろんだ。」
「嘘だ。転んだくらいでこんな痣が出来るものか。本当のことを言ってごらん。学校で誰かに苛められているのなら、おにいちゃんが相手を呼び出して話をつけてやる。僕はいつでも琉生の味方だよ。琉生は大事な弟なんだから、きっと守ってあげる。誰にやられたの?」
琉生の口が何か言おうとして、薄く開いたが、言葉にはならなかった。
ぽろぽろと幾つも涙は溢れて来て、琉生は小さな拳で目許を拭った。
声にならない嗚咽をかみ締めて、琉生は突っ立ったまま尊の前で薄い肩を震わせていた。
琉生を心配してくれる尊の視線は、真綿のように暖かく包まれているだけで安心する。
尊は優しく琉生の顔を覗き込んだ。
「琉生……おにいちゃんは琉生の事、護りたいんだよ。どうしても言えないの?」
こくりと頷く琉生には、どうしても告げられない理由が有った。
なぜなら、琉生を傷つけたのは、兄の隼人だった。
本当の弟、隼人が琉生にそんなことをしていると知ったら、きっと尊は胸を痛めるに違いない。そればかりか、きっと隼人を詰問してさっきのように喧嘩になるだろう。
心配してくれる尊に、これ以上哀しい思いをさせたくはなかった。
琉生には、なぜ隼人が豹変してしまったのか、何も原因が分からなかった。
家の中ですれ違いざま、ひねり上げられて悲鳴を上げそうになるのを、琉生は口を押えて我慢していた。母親にも、滅多に顔を合わすことのない父親にも、誰にも話せなかった。
ある日を境に、突然豹変した隼人に、琉生自身も戸惑っていた。
しばらくすれば以前のように、またサッカーボールを一緒に蹴ってくれるのだと信じていた。
脱衣場の鏡に映る琉生の裸身に、ぽつぽつと斑点が目立つ。
赤紫の斑点は、時間が経てば黄色と緑の混ざった汚い色になって薄くなり、違う場所にまた違う斑点が出来た。痛みよりも、痣を付けるのが隼人なのが悲しかった。
母親の悲しむ顔が見たくなくて、琉生は誰にも言わず黙っていた。
だが、尊は気付いた。
静かに泣くばかりで、ついに誰にやられたか口にしなかった琉生がいじらしく哀れだった。それと同時に煮えるように腹が立った。
「琉生は何も悪くないのに……あの馬鹿。」
心の中で腹違いの弟に詫びた尊は、決意した。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃) ←笑い事か~の展開になっていますが、今更引っ込みつかず。
おとなしい琉生が、口を閉ざしてかばうのは……(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚+「ばればれだけど、言わないもん……」
♪ψ(=ФωФ)ψがんばれ、琉生くん。
このはな、いい加減にしろよ~!■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ「あうっ」
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