漂泊の青い玻璃 15
むしろ無愛想と言ってもいいかもしれないくらい、口数は少なかった。
だが、ありったけの勇気を振り絞ったのだろうか、二回目に会った時いきなり、もしあなたさえ良かったら子育てを手伝ってくれませんかと、素直に頭を下げて美和を驚かせた。
高学歴で自尊心の高い男だと、認識していたから意外だった。
美和自身は釣り合いが取れないような気がしていた。
「自分の事を今すぐ好きになってくれとは言いません、でも、一緒に暮すうちに少しずつ家族になってゆけたらと思います。家政婦代わりが欲しくて結婚しようなんて虫の良い考えは良くないから、本当はお断りするつもりでいましたが、あなたに会って気が変わりました。息子達の母親になってくれませんか。無理は言えませんけど……あなたを妻と呼ばせて貰えたらうれしいです。」
「ありがとうございます。琉生があんなに嬉しそうに、はしゃいだり誰かに甘えるのを、わたしは初めて見ました。子供たちが仲良く出来るなら、わたしもご縁を大切にしたいと思います。よろしくお願いいたします。」
「ありがとう、美和さん。どうしよう……あなたは美人だから、あっさり断られるかと思っていたから、叫び出したいくらいうれしいです。」
「そんなこと……。わたしの方こそお断りされると思っていました。何の取り柄もないのですもの。」
寺川は、すぐに子供たちを交えて話をしたいと言い始め、二人は再婚を決めたのだった。
*****
こうして、琉生は家族を得た。
父の名は寺川弘樹、当時上の兄は中学二年生の尊(たける)下の兄は五年生で隼人(はやと)と言った。
隼人は新しい母親にはどこかよそよそしかったが、小さな琉生を珍しいおもちゃでも扱うように構った。
時々力の加減が判らず泣かせてしまう事もあったが、それも微笑ましい兄弟げんかのように母の目には映った。
新しい家族は互いに馴染もうと、目に見えない努力をしていた。
穏やかに季節は巡る。
ぎこちなかった家族は、一年もたつ頃にはすっかり打ち解けて、琉生も二人を尊兄ちゃん、隼人兄ちゃんと呼ぶようになっていた。
寺川の息子達も、美和を自然とお母さんと呼ぶようになっていた。
「ねぇ。隼人兄ちゃん、琉生くんとサッカーしようよ。」
隼人の帰りを待って、琉生はボールを持ってやってきた。
運動神経の良い隼人は、学校でも注目されている存在だ。尊は有名中学でもトップクラスの成績らしい。
琉生にとって、新しく出来た二人の兄は、どちらも格好良く自慢の種だった。
「教えてやってもいいけど、琉生は思いっきりへたくそだからなぁ。」
「琉生くん、上手になりたいから練習する。教えてよ。」
「よし。ボールが当たっても泣くなよ。」
「うん。」
家の前の道路で、二人は仲良くサッカーに興じた。
余り運動が得意ではない琉生も、一生懸命ボールを追った。そんな二人を近所の心無い隣人たちが、見つめていた。
そしてついに、家族の知らないところで、口さがない近所のご婦人方が吹きこんだ根も葉もない話が、感受性の強い隼人を傷つけた。
家の前で、琉生と一緒にサッカーボールを蹴る隼人を、意を決した噂好きの彼女たちが取り囲んだ。
「ねぇ、隼人君。お父さんは再婚したの?一緒にいる可愛い子は、新しいお母さんの連れ子?」
「……そうだけど?」
「新しいお母さんって、隼人君のお母さんとはずいぶん印象の違う人なのね。あなたたちのお母さんがいる頃から、二人は付き合っていたんじゃないの?」
「え……っ?」
「新しいお母さんは前のお母さんと違って大人しそうな人だけど、性格は見た目じゃわからないものねぇ。案外、中身はきつかったりして。」
「前のお母さんはあなたたちを置いて、恋人と一緒に出て行ったんでしょう?あの子は本当の弟なんじゃないの?違うのかしら?」
「え……と。何の話ですか……?」
少しずつ離れて様子を伺っていた琉生は、困った顔をしている隼人を見て、近所のおばさんたちが隼人をいじめていると思い家に駆け戻った。
「お母さんっ。隼人兄ちゃんが、隣のおばちゃん達に囲まれてる。」
母親が表に出た時、すでに隼人の様子は違っていた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
(´・ω・`) 隼人は心無い人たちの言葉を聞いて、すっかり信じてしまいました……
せっかくうまくいっていた家族なのに、亀裂が入ってしまうのです。(つд・`。)・゚+「隼人兄ちゃん……」
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