漂泊の青い玻璃 43
初めての一人暮らしだ、無理はない。
「学校からも塾からも近いんだ。いい場所だろ?」
「うん。え~と……すごくアンティークな建物だね。」
「築40年ものだからな。でも中は、思ったより綺麗なんだ。解体が決まってから、住人も引っ越しを始めているから、静かだよ。」
「じゃあ、あまり人がいないんだね、ここ。」
琉生は鍵を受け取ると、自分の城になった部屋へと足を踏み入れた。
「わぁ~……台所とは別に2つも部屋がある。へぇ~、家具もこれ全部備え付けなの?」
琉生はあちこち見て回った。
「エアコン何て贅沢だから、扇風機で我慢しろと言いたかったんだが、備え付けなんだ。建物は古いけど、家電はまだ三年くらいしか経ってないそうだ。いい物件だろ?」
「でも……尊兄ちゃん。ぼく、高いところは払えないよ?夏休み以外、バイトはできないし、お母さんのお金は大事に使わないと。うんと、切り詰めなきゃ。」
「心配するな。同級生の親が不動産屋だったんだ。友達割引で、敷金礼金無しで家賃は3万5千円だ。しかも光熱費、水道代込みだぞ。」
「すごい~!尊兄ちゃん、見て、見て。トイレとお風呂が別々だ。」
話も聞かず、違うところで感動している琉生の姿を見て、尊は吹きそうになった。
「気に入ったか、琉生。」
「うん。ここなら油絵描いても平気だね。臭いを気にしなくていいなんて、うれしいなぁ。ぼくね、美術部で油絵始めたから、自分のアトリエが欲しかったんだ。それに、部屋があるから、尊兄ちゃんにも隼人兄ちゃんにも泊まってもらえるね。」
「そうだな。早速、隼人が帰りに寄るそうだ。晩飯はどうする?」
「近くにスーパーあったっけ?」
「あるぞ。行ってみるか?」
「うん。ぼくカレー作るよ。三人で食べよう。」
琉生は尊の心配を他所に、妙に明るかった。
二人でカートを押し、あれこれ食材を見繕いながら、細々とした調味料なども買い揃えた。
*****
スパイシーな香りが漂い始めた頃、やってきた隼人と共に、ささやかな夕食を食べはじめた琉生が、ぽつりと言う。
「お父さん……今頃、一人だね。」
「琉生?」
「ご飯、ちゃんと食べてるかな……って思って……」
スプーンを握りしめて、琉生は俯いていた。自分だけ父を捨てるように家を離れ、尊と隼人と一緒に食事をするのを、申し訳ないと感じているらしい。
「何か……寂しいね。……ぼくの家は、ずっとあの家だったから……お兄ちゃんたちが居ても、ここは何だか他所のおうちみたい。それに、お父さんはいつも家で仕事をしていたでしょう?下に降りて来なくても、いつも気配はしていたんだ。だから……ご飯のとき、いないのが何か……変な感じ。」
「琉生……今は仕方がないんだ。親父は病気だから、しばらく琉生とは会わない方が良い。兄貴と俺で散々話し合って決めたんだ。」
「琉生も納得したじゃないか。それにね、お母さんに琉生の事は僕達でちゃんと守りますって、約束したんだよ。だから、琉生は不自由でもしばらくこの部屋で暮らすこと。いいね?」
「お母さんと……?」
「そうだよ。お母さんは僕達の母親でもあったんだ。琉生のお父さんの絵の事は聞いていなかったけど、もっと話す時間があれば話してくれていたと思う。琉生がなりたいものを見つけたら、夢を叶えるために手を貸してやってねって、頼まれたんだ。」
「そっか~」
琉生は、泣き笑いの顔をあげた。
ここが琉生のお城なのです。(〃゚∇゚〃) わ~……
御家賃が安いので、あまり綺麗な建物ではないのですが、好きなだけ絵が描けるのでいいかな。
このまま平穏だといいのですけどね~
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