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漂泊の青い玻璃 38 

人気の無い薄暗いロビーは、冷たく無機質な空気が澱んでいた。
薄く漂う消毒液のにおいが、ここが病院なのだと改めて意識させる。
数枚の絵が掛かる階段を下りた場所、案内の場所の中央上部に、その絵はあった。

「これ……琉生だ。」

尊には一目でそれが琉生の父親が描いたものだと分かった。
画面中央にいる嬰児には、琉生の面影が有った。
慈愛に満ちた世界の中にいる琉生は、現実とは違い幸せな人生を辿っている。早逝したと言う父親は、残される息子に、柔らかな陽射しのように愛が降り注ぐ未来を願って、この絵を描いたに違いなかった。

年の離れた小さな琉生が、弟として自分の前に現れた時の、新鮮な衝撃を尊は覚えていた。
母親の後に隠れるようにして、それでも一生懸命挨拶をした、まだ一年生にもならない男の子。

「琉生は、尊君のことが大好きなのね。」

生活の中で、何気なく母が言った言葉が、誇らしかった。琉生の自慢の兄でいようと、尊も努力してきたつもりだった。

「琉生を守れなくて、すみません……許して下さい。」

思わず絵に向かって、謝罪の言葉を小さくつぶやいた。
自分でもなく、隼人でもなく、まっすぐに一枚の絵に縋ろうとした琉生。
青いパステル画の中にいる弟に、尊はガラス越しに触れた。

*****

その時、階段を下りてきた人影が、尊の名を呼んだ。

「……尊兄ちゃ……ん……?」

振り返り、反射的に手を広げた尊の腕の中に、失いかけた弟が舞い降りた。
どんと胸に重心を掛けて来た琉生を受け止めた尊は、強く抱きしめた。

「尊兄ちゃん……え……っ……ん……」
「琉生……ごめん。ごめん……」
「ぼく……もう、尊兄ちゃんに逢えなくなると思ったら、涙が出た……」

琉生は、そう言ったきり涙にくれた。
肩を震わせる琉生を黙って抱きしめた尊も、失わずに済んだ存在に涙した。もう少しでこの愛おしい存在を失うところだった。

「僕もそうだよ。家に帰ったら琉生が何処に行ってしまったか分からなくて、胸が潰れそうだった。雨の中、どこへ行ってしまったんだろうって心配してた。琉生がここにいるって、看護師さんが電話をくれたんだ。琉生……無事で良かった。」
「尊兄ちゃん……」
「琉生が誰よりも大事な存在だって、こうなって思い知った気がするよ。琉生……今度こそ、僕は琉生の傍に居るからな。」
「うん……」

おずおずと琉生の手が尊の背中に回る。




本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)

やっと、尊兄ちゃんに逢えました。

(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚「琉生、無事でよかった。」「尊兄ちゃん……え~ん……」

優しくぎゅっと抱きしめる場面が書きたかったので、やっとここまで来たなぁと思います。
お話しは終盤ですが、まだもう一波乱あるのです。  此花咲耶


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2 Comments

此花咲耶  

けいったんさま

> 琉生も見つかり、尊も看護士さんと話し 心の内を吐き出して スッキリしたようですね。

(`・ω・´)このままいい方向に行けば……と思ってます。
>
> 可愛い弟を守る為に 兄は どうすべきか?
> 壊れて行く寺川のこと、そして 何よりも 愛しくい存在 琉生のこと
> もう 答えは、出せたのかな?

そのつもりだったのですが、まだまだ父親と対峙するのは骨が折れそうです。
(`・ω・´)bでも、がんばるっ!

> 守ってみせるから!┣o(`・ω・´)ェ-`。)尊兄ちゃん...byebye☆

わ~、この絵文字可愛い。(〃゚∇゚〃) 尊と琉生ですね。きゅんきゅん~♡

コメントもありがとうございます。励みになってます。(`・ω・´)

2014/07/03 (Thu) 21:16 | REPLY |   

けいったん  

琉生も見つかり、尊も看護士さんと話し 心の内を吐き出して スッキリしたようですね。

可愛い弟を守る為に 兄は どうすべきか?
壊れて行く寺川のこと、そして 何よりも 愛しくい存在 琉生のこと
もう 答えは、出せたのかな?
守ってみせるから!┣o(`・ω・´)ェ-`。)尊兄ちゃん...byebye☆



2014/07/03 (Thu) 07:42 | REPLY |   

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