漂泊の青い玻璃 40
琉生の髪は、親切な看護師の手によって整えられていた。
老人介護に携わっていると、何でもしなきゃいけないのよ、だから任せてねと手際よく琉生の髪は短くなった。
鏡を覗き込んだ琉生は、突然サイドが刈り上げたようになった自分の髪形に、慣れないようだった。
「おかしくない?隼人兄ちゃん、笑わないかな。」
「そうだな……何だか男の子みたいだって言うんじゃないか?」
「怒るよ。」
「ははっ、似合ってるって言ったんだよ。」
「だったら嬉しいけど。」
「ほら。家に入るぞ。隼人が待ってる。」
「う……ん。」
敷居が高いと感じているような、琉生の様子だった。
「ぼく……部屋に行ってる。」
「そうだな。隼人と僕で話をしておくよ。琉生は、少し眠ると良い。目が覚めたら話をしよう。おやすみ。」
「おやすみなさい……あの、尊兄ちゃん。」
「どうした?」
「迎えに来てくれて、ありがと……嬉しかった。」
そう言うと、琉生ははにかんだように、目許を染めた。
*****
「さて、これからが大変だぞ。」
尊は隼人の部屋を訪ねると、看護師と交わした話をかいつまんで説明した。
隼人は二人の帰りを待っているうちに、待ちくたびれて眠り込んでしまっていたようだ。
「それで、琉生は?一緒に帰って来たの?」
「部屋にいるって。その方が良いだろう?親父がどう出るか分からないが、琉生にはややこしい話は極力聞かせたくないからな。」
「そうだな。」
「それと、髪の毛がずいぶん短くなってるんだ。からかうなよ?」
「そこまで俺は薄情じゃないぞ。でも、下手に気を使わないで、いつも通り軽くいじっておくよ。自然にね。」
「いいお兄ちゃんだ。」
「琉生も可哀想にな……まさか親父がおかしくなるとは考えもしなかったよ。」
「僕もだ。とにかく策を練ろう。」
二人はいくつかのパターンを想定しながら、前後策を練った。
文章を書く仕事をしているだけあって、下手な考えではおそらく太刀打ちできないだろう。先手を幾つも考える必要が有った。
尊の想像通り、父は頑なに受診を拒否し、一筋縄ではいかなかった。
病院と聞くなり、顔色を変えて気色ばんだ。
「ふざけるな。何で健康な俺が病院へ行かなきゃならないんだ。」
「だから、健康診断だって言ってるじゃないか。長い間、ふさぎこんでただろう?僕達もお父さんのことを心配していたんだ。大酒飲むしさ、人間ドッグが嫌なら、せめて肝臓の検査だけでも受けてくれよ。」
看護師の森川は、とりあえず病院に連れていらっしゃいと言ってくれた。
後は上手く医師に話をしてくれる手はずだった。
「自分の事は自分が一番わかる。もう仕事も再開したし、体調は万全だ。検査入院なんぞで休むわけにはいかん。勝手に予約なんぞ入れおって。すぐに断っておいてくれ。」
取りつくしまのない父の言葉に、思い切って尊と隼人は切り出した。
さりげなく。
細心の注意を払って。
「後、もう一つ。俺達、話し合って琉生に独り暮らしさせようかって言う事になったんだ。」
「……なんの話だ。」
「親父には不愉快な話題かもしれないんだけどさ。親父の再婚相手の忘れ形見だよ。縁あって兄弟になったけど、血がつながってるわけじゃないし、これからのこともある。進路のことを考えたら、この家にいるよりも一人で暮らした方が良いと思うんだ。俺は家には寝に帰るだけだし、尊兄ちゃんだって大学がある。親父が書斎に籠れば、どのみち琉生は独り暮らしみたいなものだろ?無理に同居させるのも可哀想だと思ってさ。」
「僕もその方が良いと思ったんだ。自立するには早いけど、気兼ねしながら同居するより、時々顔を合わせるぐらいでいいんじゃないかな。」
二人は打ち合わせ通り、話をした。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
いい方向に進めばいいなぁ……と尊と隼人は一生懸命です。
(*´・ω・)(・ω・`*) 「うまくいけばいいけどね。」「そうだな。」
- 関連記事
-
- 漂泊の青い玻璃 46 (2014/08/05)
- 漂泊の青い玻璃 45 (2014/08/04)
- 漂泊の青い玻璃 44 (2014/08/03)
- 漂泊の青い玻璃 43 (2014/08/02)
- 漂泊の青い玻璃 42 (2014/08/01)
- 漂泊の青い玻璃 ・これまでのあらすじ (2014/08/01)
- 漂泊の青い玻璃 41 (2014/07/05)
- 漂泊の青い玻璃 40 (2014/07/04)
- 漂泊の青い玻璃 39 (2014/07/03)
- 漂泊の青い玻璃 38 (2014/07/02)
- 漂泊の青い玻璃 37 (2014/07/01)
- 漂泊の青い玻璃 36 (2014/06/30)
- 漂泊の青い玻璃 35 (2014/06/29)
- 漂泊の青い玻璃 34 (2014/06/28)
- 漂泊の青い玻璃 33 (2014/06/27)