漂泊の青い玻璃 47
尊と隼人、二人の兄に大切に庇護されて、琉生の時間は過ぎてゆく。
空き時間を、好きな絵の制作に注ぎ込んだ琉生は、めきめきと技術を身に付けていった。
美術部の顧問は、琉生の才能に気付くと進路に向けていくつもの課題を与え、琉生もそれに応えた。
夜が更けるまでデッサンに手を入れる琉生の、手にした鉛筆や木炭を取り上げるのは毎日顔を出す隼人の役目だった。
「こら、ちび琉生。また、飯も食わずにお絵かきに没頭してただろ?鍵もかかってなかったぞ。」
「え?隼人兄ちゃん……?もう帰って来たの?って……あ~、こんな時間だ。ご飯のスイッチ入れてなかった~!」
慌てる琉生に、隼人は脱力した。
「琉生~……お前、今日は豚丼を作るって言ってただろ?期待して腹ペコのまま、ダッシュで帰って来たのに。」
「ごめんね~。直ぐ支度する!」
「まったく、もう~。」
琉生は大急ぎで、小さなキッチンに立った。
手際よく、豚ばら肉と玉ねぎを櫛型に切った物を炒めてゆく。
「この前、尊兄ちゃんがチンするご飯をくれたんだ。だから、すぐだよ。麦茶は冷蔵庫だから、飲んでて。」
「手早くなったなぁ、琉生。」
肉の焼ける香ばしい匂いが、隼人の食欲をくすぐる。
大きな丼に盛られた琉生の豚丼は、市販のたれをからめた簡単なものだったが、隼人の空腹を十分に満たした。
「うっま~!琉生、天才だな。」
「そう?良かった。お腹すいてるから、余計においしいんだと思うよ。ごめんね、約束してたのに。」
「出来たてでうまいから、許す。お代わり!」
琉生は大急ぎで、再び電子レンジにご飯のパックを放り込んだ。
「隼人兄ちゃん。こんなに食べても太らないって、すごいね。やっぱり筋肉の量なのかな?」
「俺の筋肉量だと1600キロカロリー位は、動かなくても消費されるんだそうだ。運動するから、倍は使ってるんじゃないかな?」
「ふ~ん。ぼくも筋肉つけたいけど、運動しないから無理だな。」
「いいんだよ。琉生はそのままで。下手にムキムキになられたら、こっちが驚く。」
「そう?」
「シックスパックに割れた琉生の腹筋なんて、想像がつかない。お茶。」
いそいそとお茶を注ぐ琉生に、腹が落ち着いた隼人は、琉生がまだ何も食べていないことにやっと気が付いた。
「ほら。琉生も半分食え。」
「いいよ。ご飯が炊けたら後で食べるから、隼人兄ちゃん食べて。」
「まあ、いいから。あ~んしろ。」
「いいのに。あ~ん……」
結局、二杯目は、かわるがわるに丼をつついた。
「琉生。兄貴は週末には来るのか?」
「うん。勉強とバイトで忙しそうだから、無理して来なくていいよって言ったんだけど、いつも金曜日の夜遅くには来てくれるんだ。大学は大丈夫なのかな……そろそろ、就活だと思うんだけど。」
「大丈夫だろ?クソまじめだから、どこかで無理してるかもしれないが、兄貴は昔っから琉生が一番可愛いんだよ。甘やかすのが趣味なんだから、琉生は甘えていればいい。」
「……いっぱい迷惑かけてるね。ここの家賃だって……。」
「ん?」
月々のアパートの家賃もこれから先の進学を考えて、保険金には手を付けさせないように、尊は父と交渉してくれていた。
「尊兄ちゃんが、お金はお父さんが出してくれるから、心配いらないって言ったんだけど……。」
「あんなでも一応親だからな、まともな時はその位はしてもらってもいいと思うぞ。親に貰った物は、いつか琉生に子供が出来たらその子に返せばいいんだから。」
困った琉生は、慌てて話を逸らせた。
「隼人兄ちゃんだって、本当は毎日来るのは大変でしょ?家とは方向が逆だもんね。」
「別に。一人で飯を食ってもつまんないからな。」
「ここに越してきて大分経つから、心配しなくていいよ?一人暮らしも慣れたし。」
「ば~か。余計な気を回すな。琉生の飯はうまいし、晩御飯はここで食うって決めたんだ。」
隼人は空になった丼を持つと、立ちあがった。
「あれ……?隼人兄ちゃんが、片づけするの?いいよ。ぼく、後でやるから。」
「兄貴がうるさいんだよ。琉生にばっかり家事をやらせるなって、電話してくるんだ。琉生が絵を描く時間を削らせるなって、うぜ~の。ドラマに出てくる姑みたいだ。」
「あはは……」
そう言いながら、隼人はさっさとフライパンも丼も洗ってしまった。
自分が顔を出さないと、きっと琉生はカンバスに向かうばかりだ。
まともに食事を取らないと、尊と隼人には分かっていた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
絵を描くのに一生懸命な余り、他の所はだめっこの琉生です。
[壁]ω・)チラッ……「そんなことないも~ん……」
空き時間を、好きな絵の制作に注ぎ込んだ琉生は、めきめきと技術を身に付けていった。
美術部の顧問は、琉生の才能に気付くと進路に向けていくつもの課題を与え、琉生もそれに応えた。
夜が更けるまでデッサンに手を入れる琉生の、手にした鉛筆や木炭を取り上げるのは毎日顔を出す隼人の役目だった。
「こら、ちび琉生。また、飯も食わずにお絵かきに没頭してただろ?鍵もかかってなかったぞ。」
「え?隼人兄ちゃん……?もう帰って来たの?って……あ~、こんな時間だ。ご飯のスイッチ入れてなかった~!」
慌てる琉生に、隼人は脱力した。
「琉生~……お前、今日は豚丼を作るって言ってただろ?期待して腹ペコのまま、ダッシュで帰って来たのに。」
「ごめんね~。直ぐ支度する!」
「まったく、もう~。」
琉生は大急ぎで、小さなキッチンに立った。
手際よく、豚ばら肉と玉ねぎを櫛型に切った物を炒めてゆく。
「この前、尊兄ちゃんがチンするご飯をくれたんだ。だから、すぐだよ。麦茶は冷蔵庫だから、飲んでて。」
「手早くなったなぁ、琉生。」
肉の焼ける香ばしい匂いが、隼人の食欲をくすぐる。
大きな丼に盛られた琉生の豚丼は、市販のたれをからめた簡単なものだったが、隼人の空腹を十分に満たした。
「うっま~!琉生、天才だな。」
「そう?良かった。お腹すいてるから、余計においしいんだと思うよ。ごめんね、約束してたのに。」
「出来たてでうまいから、許す。お代わり!」
琉生は大急ぎで、再び電子レンジにご飯のパックを放り込んだ。
「隼人兄ちゃん。こんなに食べても太らないって、すごいね。やっぱり筋肉の量なのかな?」
「俺の筋肉量だと1600キロカロリー位は、動かなくても消費されるんだそうだ。運動するから、倍は使ってるんじゃないかな?」
「ふ~ん。ぼくも筋肉つけたいけど、運動しないから無理だな。」
「いいんだよ。琉生はそのままで。下手にムキムキになられたら、こっちが驚く。」
「そう?」
「シックスパックに割れた琉生の腹筋なんて、想像がつかない。お茶。」
いそいそとお茶を注ぐ琉生に、腹が落ち着いた隼人は、琉生がまだ何も食べていないことにやっと気が付いた。
「ほら。琉生も半分食え。」
「いいよ。ご飯が炊けたら後で食べるから、隼人兄ちゃん食べて。」
「まあ、いいから。あ~んしろ。」
「いいのに。あ~ん……」
結局、二杯目は、かわるがわるに丼をつついた。
「琉生。兄貴は週末には来るのか?」
「うん。勉強とバイトで忙しそうだから、無理して来なくていいよって言ったんだけど、いつも金曜日の夜遅くには来てくれるんだ。大学は大丈夫なのかな……そろそろ、就活だと思うんだけど。」
「大丈夫だろ?クソまじめだから、どこかで無理してるかもしれないが、兄貴は昔っから琉生が一番可愛いんだよ。甘やかすのが趣味なんだから、琉生は甘えていればいい。」
「……いっぱい迷惑かけてるね。ここの家賃だって……。」
「ん?」
月々のアパートの家賃もこれから先の進学を考えて、保険金には手を付けさせないように、尊は父と交渉してくれていた。
「尊兄ちゃんが、お金はお父さんが出してくれるから、心配いらないって言ったんだけど……。」
「あんなでも一応親だからな、まともな時はその位はしてもらってもいいと思うぞ。親に貰った物は、いつか琉生に子供が出来たらその子に返せばいいんだから。」
困った琉生は、慌てて話を逸らせた。
「隼人兄ちゃんだって、本当は毎日来るのは大変でしょ?家とは方向が逆だもんね。」
「別に。一人で飯を食ってもつまんないからな。」
「ここに越してきて大分経つから、心配しなくていいよ?一人暮らしも慣れたし。」
「ば~か。余計な気を回すな。琉生の飯はうまいし、晩御飯はここで食うって決めたんだ。」
隼人は空になった丼を持つと、立ちあがった。
「あれ……?隼人兄ちゃんが、片づけするの?いいよ。ぼく、後でやるから。」
「兄貴がうるさいんだよ。琉生にばっかり家事をやらせるなって、電話してくるんだ。琉生が絵を描く時間を削らせるなって、うぜ~の。ドラマに出てくる姑みたいだ。」
「あはは……」
そう言いながら、隼人はさっさとフライパンも丼も洗ってしまった。
自分が顔を出さないと、きっと琉生はカンバスに向かうばかりだ。
まともに食事を取らないと、尊と隼人には分かっていた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
絵を描くのに一生懸命な余り、他の所はだめっこの琉生です。
[壁]ω・)チラッ……「そんなことないも~ん……」
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