漂泊の青い玻璃 52
シャワーを盛大に流しながら、琉生の涙は多量の水と共に排水溝に消えた。
父は寺川の名を捨てろと、自分に迫った。
母が居なくなってしまった今、それが自然なのかもしれない。
しかし、琉生には頷くことができなかった。
今の琉生にとって、支えとなっている大好きな二人の兄を失くすのは耐えられなかった。
いつかは誰の手も借りず一人で生きて行けるほど、強くなろうと思う。
「琉生?大丈夫か?」
風呂場の外から、心配そうな隼人の声がする。
「ん……だいじょぶ……」
裏返った涙声に静かに扉が開く。
「ちび琉生。水ばっかりかぶってると風邪ひくぞ。早く出て来い。頭、拭いてやるから。」
「小学生じゃない……よ。」
頭からふわりとバスタオルが掛けられ、ごしごしと乱暴に隼人は琉生の頭を拭いた。
「なぁ……我慢するなよ?琉生はいつも、自分でみんな抱えてしまうんだから。言いたいことが有るなら言ってみな?」
「隼人兄ちゃん……ぼく……お父さんが駄目だって言っても、お兄ちゃん達の弟でいてもいいのかな……?」
「どうした?親父に何か言われたのか?」
「ん……。家に帰ってこないなら……寺川の家と縁を切れって。」
タオルの中から見上げる不安そうな瞳に、隼人は切なくなる。
そんな願いを口にしないでいられないほど、琉生は追い詰められていた。
「……いいか、琉生?俺は兄貴みたいに優しくない。こっ恥ずかしいから、一回しか言わないぞ。」
「うん……」
琉生は真剣に言葉を待った。髪の滴が頬を伝う。隼人は両手で琉生の頬を挟んだ。
「親父が何を言ったか知らないが、俺達三人はこれから先も今迄通り兄弟だ。もし、親父が琉生と縁を切るというのなら、俺達の方から親父と縁を切ってもいい。本気だぞ?俺達は……俺は、琉生を絶対に手放したりしない。言っただろう?琉生を泣かせる奴を、俺は許さないって。」
「……ちびの時の約束?」
「今もちびじゃないか。……いっちょ前に、毛は生えたみたいだけどな。……くすっ。」
琉生はかぶっていたバスタオルを、思わず腰に引き寄せた。
「は、隼人兄ちゃんのばかっ!」
「ははっ。そこにぞうさんの耳、描いてやろうか?ぱお~って。可愛いぞ。」
「ばかっ!ばかっ!そんなこと言って、前に本当にマジックで描いたじゃないか~!油性で描いたから長いこと消えなかったんだから!」
「子供の頃の可愛い悪戯だろ?そう言えば、あの時琉生も喜んでいただろ?琉生くんのお腹にぞうさんが来たよ~って、兄貴に見せにいったじゃないか。おかげでその後、俺が散々お母さんと兄貴に叱られたこと、琉生は知らないだろ?」
「うわ~ん……」
「あはは……琉生の泣き虫。」
泣きながら琉生は笑っていた。
隼人はバスタオルごと、琉生を抱きしめた。
温かい涙が、バスタオルに吸われてゆく。小さな声で隼人は呟いた。
「良かった……」
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
【おまけ】
♪ψ(=ФωФ)ψ「琉生。ちょっとおいで。ぞうさん好き?」
(〃゚∇゚〃) 「琉生くん、ぞうさん、好き~!」
(〃^∇^)o彡「ほ~ら、琉生のお腹にぞうさんがやって来たぞ~!」
カキカキ……
ヾ(〃^∇^)ノ「きゃあ~!琉生くんのおなかにぞうさんが来たよ~!尊兄ちゃん~、見て見て!」
Σ( ̄口 ̄*)「あ。やべ。」
( ゚д゚ ) ジーッ「琉生。これ、隼人が描いたのか?」
(*/∇\*) 「うん。ぞうさん、かわいいの♡」
Σ( ̄口 ̄*)「油性マジック……じゃないか。消えないぞ、これ。」
(´・ω・`) 「尊兄ちゃん……怒ってる?」
ヾ(。`Д´。)ノ「隼人~!!!」
|)≡サッ!!
(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚ 「今度からおなかに、ぞうさん描いちゃだめだぞ。」「うん……」
「隼人は叱っておくからな。」
ヽ(`Д´)ノ ウワァァァァァン←そのあと、思いきり尊にぼこられた隼人。
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