終(つい)の花 30
「わたしたちは、仲間の誰かが知らない内に、一衛を苛めたりしたのではないかと、喧嘩をしたこともあるんだよ。」
「そうだよ。わたしなんか、一番身体が大きいから陰で苛めたんじゃないかと、丘隅先生にまで疑われたんだからな。」
「え……?まさか。慶介さんは誰よりも優しいよ。わたしは慶介さんが、子供を連れた物乞いに財布ごとあげていたのを見たことが有るもの。誰にでも出来る事じゃないよ。」
屈託のない笑顔を真正面から向けられた慶介は、木守り柿のように赤くなっていた。
「ば……ばかっ。そんなこと言うな。」
「話してはいけなかったの……?」
しょんぼりとしてしまった一衛の姿に、大柄な慶介は慌てた。
「いやっ、ごめん。いいんだ。全部本当の事なんだから。」
「怒ってない?」
「怒ってないったら。」
「あはは、慶介ったら。顔が真っ赤だ。」
仲間が覗き込んだ。
「うるさい。うるさい。」
「慶介は、前からどうして一衛はわたしたちと遊ばないんだろう、つまらないなぁって、言っていたものな。」
「うん。たまに仲間に入っても、一衛はいつも何も話さないで借りて来た猫のようだったし。」
「やっと仲間になったな。」
「あい。これからは、よろしくお願いします。」
素直に頭を下げる一衛に、慶介は宣言した。
「一衛の従兄弟の相馬どののように、我らも励もう。わたしも、いつまでも負けてばかりではいられない。一衛に負けぬように、鍛練するからな。」
「その意気です。いつかは、会津武士として殿の御為に、揃って身を捧げましょう。」
「そうだな。覚悟はできているぞ。」
「そうと決まれば、次は道場で組手だ。来い、一衛。一勝負だ。」
「やだ……柔術だと敵わないから、他のが良い。」
「あはは……一衛、たまには慶介に花を持たせてやれよ。」
まだ元服前のいとけない少年たちですら、すでにわが身を会津藩に捧げる覚悟が出来ていた。
*****
会津が戦禍に呑まれたその瞬間、彼らもなす術もなく残酷な運命に翻弄されてゆく。
今は一衛を囲んで笑い合っている多くの仲間たちも、散り散りになった。
大柄な慶介は、自ら望んで年齢を二歳いつわって白虎隊に入り、壮絶な最期を遂げた。
被弾して動けなくなり、その場で割腹して果てた。
目を閉じる前、まぶたに浮かんだのは友の笑顔と、母の顔だっただろうか。
残りの者も年少組として籠城し、旧式の銃を撃ち、弾を作り懸命に働き命を賭した。
入城に間に合わず城下で戦った者たちは、路地に倒れたまま捨て置かれ、少年たちの遺骸も埋葬すら許されなかった。
どれほど嘆願を重ねても、新政府は密かに埋葬したことを知ると、少年たちの墓さえ暴いた。
眼球や脳を烏に食い荒らされ、はらわたは腹を空かせた野犬に引きずり回された。
もはや家族にすら誰が誰とも判別つかなかった。
もの言わぬ小さな遺体に、深々と銃剣を突き立て、西から来た男たちが唾を吐く。
「賊軍め。小童までが、手を焼かせおって。」
淡い恋も知らず散り急いだ少年達に、降り積む牡丹雪だけが優しかった。
此花の大好きな時代物(江戸、幕末、明治)は、なかなかとっつきにくかったり、背景がややこしいみたいです。
うまく説明できないところもあると思いますが、これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
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この内容だと歴史カテだけにするべきかなぁ……でも、最終的にはえちもあるのよ。ね~
うっすら……だけど。 此花咲耶
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