終(つい)の花 29
負けた相手は頭を掻いた。
「一衛は本当に強くなったな。」
友人たちも認めた。
「義経の八艘飛びはみたことないけど、もしかすると一衛のように動いたのではないか?」
「義経に会ったこともないくせに、わかるのか?」
「誰も会ったことなんてないじゃないか。」
「では、拙者が会わせて進ぜよう。」
「え~?どうやって?」
「義経はわたしの持っている絵草子の中にいる。従者の武蔵坊も一緒だ。」
「あはは……」
元々一衛は、柔な見かけに反して、誰よりも負けん気が強い。何度も同じ練習を繰り返す根気もある。
直正に手ほどきを受け、自分なりに対戦するコツを得ていた。
「なぁ、一衛。何か、強くなる秘訣があるのか?」
「ううん、そんなものはないよ。ただね、相手をよく観察すれば癖が見えて来るって直さまに教えて貰ったからそうしているんだ。」
「癖?そう言えば立会いの時、一衛は相手が先に踏み込むまで、じっと見て居るよなぁ。あれか?」
「うん。初めて立ち会う相手を見切るのは難しいけれど、毎日立ち会う相手なら、見ていると癖が分かって来るんだ。」
「そうなのか?気づかなかったなぁ。」
「直さまが京に立つ少し前にね、常に目の前の相手を良く見なさいって、教えてくれたんだ。」
「強くなったのは相馬さまの教えだったのか。前は負けるたびにぴぃぴぃ泣いていたのに、泣かなくなったしな。」
「なっ!……泣いてなどおらぬ。」
「それに、一衛は幼少の時から、何かあるといつも直正殿の所に走って行っただろう?什の仲間だというのに、我らとはまともに一緒にいなかった。母上の袂に隠れるようにして、いつも直正どのにくっついていた。」
「そうかなぁ……。」
「そうとも。幼少組の頃は、いつも直正殿の背中に隠れたきり、我らともあまり口もきかないから、我らは一衛に嫌われていると思っていたぞ。なぁ?」
「嫌ってなんかいないよ……」
「じゃあ、なんでわたし達と、遊ばなかったんだ?」
「なんでって……」
仲間たちは顔を見合わせて、促すように肯いた。
一衛は困ってしまった。本当のことを打ち明けるのは、少し気恥しかったが仕方がない。
友人たちは輪を作り、一衛が話すのを待っている。
「……わたしは……本当のことを言うと、みなと遊ぶのが怖かったんだ。」
「怖い?なぜ?」
「……」
一衛は困ってしまった。
「日新館に上がる前、女子のように小さくて可愛い一衛を、皆で守ってやろうと誓いを立てたりはしたけど、一衛はわたしたちをいつも避けているようだった。」
「そうとも。なのに一衛はどれほど誘っても、魚釣りにもいかないし。肝試しにもいかない。」
「丘隅先生の所でも、一衛と遊んだのは竹とんぼを飛ばした時だけだ。」
「うん。あの時だけは、一衛の方から遊びましょうと言ってきた。」
「一度だけだったけどな。」
「取って食ったりしないぞ?なぁ?何が怖かったか、言うてみろよ。」
皆、口々に言う。
「だって……わたしは皆の中に入ると一番小さいから……。同じ年の皆の中にいると、出来ない事ばかりで悔しかったんだ。竹とんぼは、わたしを心配した直さまがお友達と一緒に遊びなさいって言って、たくさん作ってくださったから……」
「なぁんだ、そうだったのか。」
「うん。皆の事が嫌いなわけじゃない。」
「結局、我らと遊んだのは、直正殿に心配を掛けたくなかったかということなんだな。」
一衛はこくりと肯いた。
本日もお読みいただきありがとうございます。
今日は、一衛の日常です。
(`・ω・´)「頑張って励んでいるのです。」
「一衛は本当に強くなったな。」
友人たちも認めた。
「義経の八艘飛びはみたことないけど、もしかすると一衛のように動いたのではないか?」
「義経に会ったこともないくせに、わかるのか?」
「誰も会ったことなんてないじゃないか。」
「では、拙者が会わせて進ぜよう。」
「え~?どうやって?」
「義経はわたしの持っている絵草子の中にいる。従者の武蔵坊も一緒だ。」
「あはは……」
元々一衛は、柔な見かけに反して、誰よりも負けん気が強い。何度も同じ練習を繰り返す根気もある。
直正に手ほどきを受け、自分なりに対戦するコツを得ていた。
「なぁ、一衛。何か、強くなる秘訣があるのか?」
「ううん、そんなものはないよ。ただね、相手をよく観察すれば癖が見えて来るって直さまに教えて貰ったからそうしているんだ。」
「癖?そう言えば立会いの時、一衛は相手が先に踏み込むまで、じっと見て居るよなぁ。あれか?」
「うん。初めて立ち会う相手を見切るのは難しいけれど、毎日立ち会う相手なら、見ていると癖が分かって来るんだ。」
「そうなのか?気づかなかったなぁ。」
「直さまが京に立つ少し前にね、常に目の前の相手を良く見なさいって、教えてくれたんだ。」
「強くなったのは相馬さまの教えだったのか。前は負けるたびにぴぃぴぃ泣いていたのに、泣かなくなったしな。」
「なっ!……泣いてなどおらぬ。」
「それに、一衛は幼少の時から、何かあるといつも直正殿の所に走って行っただろう?什の仲間だというのに、我らとはまともに一緒にいなかった。母上の袂に隠れるようにして、いつも直正どのにくっついていた。」
「そうかなぁ……。」
「そうとも。幼少組の頃は、いつも直正殿の背中に隠れたきり、我らともあまり口もきかないから、我らは一衛に嫌われていると思っていたぞ。なぁ?」
「嫌ってなんかいないよ……」
「じゃあ、なんでわたし達と、遊ばなかったんだ?」
「なんでって……」
仲間たちは顔を見合わせて、促すように肯いた。
一衛は困ってしまった。本当のことを打ち明けるのは、少し気恥しかったが仕方がない。
友人たちは輪を作り、一衛が話すのを待っている。
「……わたしは……本当のことを言うと、みなと遊ぶのが怖かったんだ。」
「怖い?なぜ?」
「……」
一衛は困ってしまった。
「日新館に上がる前、女子のように小さくて可愛い一衛を、皆で守ってやろうと誓いを立てたりはしたけど、一衛はわたしたちをいつも避けているようだった。」
「そうとも。なのに一衛はどれほど誘っても、魚釣りにもいかないし。肝試しにもいかない。」
「丘隅先生の所でも、一衛と遊んだのは竹とんぼを飛ばした時だけだ。」
「うん。あの時だけは、一衛の方から遊びましょうと言ってきた。」
「一度だけだったけどな。」
「取って食ったりしないぞ?なぁ?何が怖かったか、言うてみろよ。」
皆、口々に言う。
「だって……わたしは皆の中に入ると一番小さいから……。同じ年の皆の中にいると、出来ない事ばかりで悔しかったんだ。竹とんぼは、わたしを心配した直さまがお友達と一緒に遊びなさいって言って、たくさん作ってくださったから……」
「なぁんだ、そうだったのか。」
「うん。皆の事が嫌いなわけじゃない。」
「結局、我らと遊んだのは、直正殿に心配を掛けたくなかったかということなんだな。」
一衛はこくりと肯いた。
本日もお読みいただきありがとうございます。
今日は、一衛の日常です。
(`・ω・´)「頑張って励んでいるのです。」
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