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遠山の銀(しろがね)と銅(あかがね) 2 

山神さまのお使いで、「銀」は、九尾稲荷の祭られている遠くの祠に使いに行くことになった。

そこには白面金毛九尾狐と言う、中国の「周」という国を滅ぼした強い霊力を持った妖狐が祀られている。
今は徳の高いお坊様が、殺生石と言う石の中に封印しているそうだ。

お坊様が封印する時、欠片となった殺生石が見つかったから、おまえ、ちょいと走ってお納めしておくれと神様に言われた。
恐ろしい妖狐も、元々は普通の狐だったそうだ。
たいそう力のある狐で殺生石を運んだものには、きっと願いごとを聞いてくれるだろうと山神さまは笑った。

繰り返した銀の願いは、もう叶っていた。

『一人ぼっちじゃなくなりますように。』

「冬眠前の親父(熊)は、気が立っているから祠の中にいるんだよ。いいね」
「にゃあん」

銀は、小さな山猫が心配で心配でたまらなかった。
でも、お仕事はきちんとしなければ……。
これでも銀は、神さまのお使い狐の端くれなのだ。

雲に乗り、風に飛び、いつもなら三日の所を銀は二日で駆け戻った。

「あかがね、帰ったよ。あかがね?いないのか?……あかがねっ!?」

そこに居たのは、小さな骸になりかけた山猫だった。

「あかがねっ!……どうした、何があった……」

胸の辺りに、深く抉られた熊の爪あとがはっきりと見て取れた。

「あかがね。あれほど言ったのに、おまえ親父(熊)の所へ行ったのか?」
「にゃ……ん……」

急いで紅葉の葉っぱを一枚額に乗せて、ちちんぷいぷい、呪文を唱えた。

「さ……かな。しろがね、すき……」

指差す先に、奪い合ったらしい千切れた魚が一匹置いてあった。

「おまえ。俺が帰ってくるから、魚取りに行ったのか?」
「うん……しろがね、さかな、すき」
「ああ、すきだぞ。あかがね、がんばったんだな」
「ん……」

いつも元気いっぱいで、じっとしていなかったしっぽが、力なくぽとりと地に落ちた。

「あ……?あかがね……?」
銀は銅を必死に揺さぶった。
「あかがねっ!あかがねーーーーーっっ!!」

ひくっと口許から血の混じった泡を吐いて、あかがねは何も言わなくなった。

「うわあああーーーーーっ!!」

銀は、あかがねを抱きしめて走った。

ただひたすら懐に小さな山猫を抱いて、山神さまの元へ走った。







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