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秋色トレイン 1 

おとうさんが亡くなって、おかあさんはぼくたちのために必死で働いてくれた。

ぼくは何とかおかあさんの手助けをしたかったけれど、まだ働けないし小さな弟、里(さと)の面倒を見るくらいしかできなかった。

余り丈夫じゃなかったおかあさんも過労で亡くなって、ぼく達兄弟は別々の親戚にお世話になることになった。
小さな里(さと)は泣きながら、振り返り振り返りしょんぼりと叔母に手を引かれてゆく。

ぼくは、おじ夫婦の家でお世話になることになっていたが、多額の保険金も、住んでいた家もいつの間にか未成年だからと言う理由で「預かっておく」と全て取りあげられていた。

「おにいちゃんっ!」
「おにいちゃぁんっ……」

里は無理矢理、車に乗せられて、走り出した車にぼくは引きつった笑顔で手を振った。
泣きながら去ってゆく、幼い弟。

なんでもないよ、と言う顔をして。
すぐに会えるよと、嘘をついて。
ほんとう?と聞かれて、笑顔で頷いた。

みんな、嘘っぱち。

力のない自分に腹が立っていた。
一緒に暮らせないのが悔しかった。
大切な里を失うのが辛かった。

車が角を曲がろうとしたとき、心の中の何かが弾けて、ぼくは駆けた。

「里ーーーっ!」

転がり落ちるように、里が車から降りこちらに向かって走ってくる。

「おにいちゃんっ!」
「おにいちゃぁんっ……」
「里っ!」

こんなに小さな弟を、守れないで何が兄貴だ。
ぼくは、懐の中の里をぎゅっと固く抱きしめて、もう離さないと誓った。
仕方ないわねと、叔母が言い、仕方なく……ほんとうに仕方なく、おじ夫婦は舌打ちしながらぼく達を引き取った。





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