実るほど、頭が下がる稲穂かな 3
軽トラの荷台で、幸せな恋人同士、穂と望は束の間の逢瀬を楽しんでいた。
「穂。俺らもう行くけど、元気出せよ?」
「ありがとう、望。俺、顔が見れて本当に嬉しかった。叱られてちゃんとしようと思ったけど、やっぱり本物がいいや」
きゅと抱きついて腕の中で見上げる顔は、やっぱり可愛かった。
久し振りに愛し合った後、離れたくないと涙ぐんだのがいじらしかった。
着崩れた作業着のオレンジが、眩しい。
「俺ね。遠距離でも上手く行くって分かって、良かったよ」
そっと触れ合う恋人達に、新しく遠距離恋愛を始めることになった遥は思案していた。
「どうしようかなぁ……俺。まだ、一人に決められないんだけど……」
あれから心ゆくまで愛を深め合ったらしい、遥と農業青年達は、搭乗時間の迫った空港でも離れがたい様子だった。
意外に、どちらとも身体の相性も良かったらしく、気のせいか今日の遥は、匂いたつようになまめかしかった。
ほんの少し、穂の作業を手伝った時の色あせたTシャツと作業服でさえ、遥には似合っていて色めいて見える。
明るい銀色の髪に、指を絡ませて田舎の青年達が愛を語る。
その瞳は真剣だった。
「俺、小型旅客機の操縦免許持ってるから、逢いに行くよ、綺麗な遥さん」
「セスナ……?うん、待ってる。来るときは、知らせて」
「リムジンを迎えにやるから、箱根の別荘で待っててくれ。執事に不自由させないように言っておくから」
今日も遥は、金にものすご~く虚弱体質だった。
「温泉付きなの?じゃあ、湯上りでぴんくに染まった、卵肌の俺を楽しみにしててね」
「湯上り卵肌……ぶっ……」
湯上りと聞いて、想像で鼻血を吹きそうになったらしく、後頭部をがんがん叩いている田舎の兄弟に、望と穂は呆れた。
こんな免疫なくてこいつ等、平気なのか?
こう見えて、遥は見た目と腹黒さの不一致が学内一といわれているのだ。
純朴な彼等が歩くフェロモン、遥の手玉に取られるのは、日を見るより明らかだった。
「テクニシャンで美しい遥さん。別れたくない。いっそ、このまま人前でもいいから、ここで押し倒したい」
「ああ、俺もそう思ってた、ダーリン」
10分前まで繋がっていたくせに、どの口が言う?
しかもダーリンって。
今時、ダーリンって。
「ありがとう、ダーリン達。もういっそ、二人で俺を貰ってね」
運よく(?)知らないで大金持ちの農業実業家達の花嫁募集事業に、申し込んでいた遥だった。
間違って来てしまって、ごめんなさいといって、運賃をせしめたはずが、意外にも花嫁候補としてやたらと盛り上がった。
しかも天井知らずの節操無しで、求められるままひらひらと、男達の間を揚羽のように舞っていた。
遥の実家も結構な金持ちだったが、この兄弟の金持ちっぷりと来たら半端なかった。
産直市場を何店も経営し、都心にも近く直営店をオープンさせるという。
年収、億単位と聞いて遥は、昨夜、念入りにシャワーを浴びた。
洒落たシトラスの香りは、まるで媚薬だ。
大金持ちの農業実業家は、遥の広げた網の中に見事に落ちた。
「俺らが上京したら、一緒に暮らそう。目黒にワンフロア買ってあるから」
「いや~ん♡」
にっこり……。
希代の悪女もこれほどの蕩ける笑みを浮かべたかどうか……
兄弟達は最初、遥を取り合って殆ど三すくみのようになっていたが今や、知的(痴的?)排他的?共有財産と言う美術品を購入するような形で納得したらしい。
「まあ、身体がきついけど、若い間はなんとかなるでしょ。就活も大変だし、永久就職しちゃおうかなぁ、俺」
シンデレラ・ボーイのたわごとは一切無視して、望と穂は時間の許す限り抱きあっていた。
再会を約束して、互いの心臓の鼓動を聞いた。
遠距離恋愛も悪くない。
色狂いの遥なんて、どうだっていい。
今は、そう思っていた。
音のうるさい小型飛行機の窓から下を見れば、穂の乗る白い軽トラが後を追ってくる気がする。
黄金の稲穂の実る平野に、真っ直ぐ地平線まで農道が続いていた。
「うっ、穂(みのる)……」
今、別れたばかりなのに、もう逢いたくて恋しくて涙が出てくる。
「穂と別れて俺と付き合うなら、今すぐにでも金貸してやるし、今夜一晩、ラブホに行くならヘリコプターをチャーターしてもやるけどどうする?」
同じ台詞で、遥が誘惑してきた。
白い軽トラは、一途に農道をひた走って去ってゆく。
「あ~ん……穂(みのる)……ーーー!!」
ああ……遠距離恋愛なんて、やっぱり駄目だ。
(完)
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「穂。俺らもう行くけど、元気出せよ?」
「ありがとう、望。俺、顔が見れて本当に嬉しかった。叱られてちゃんとしようと思ったけど、やっぱり本物がいいや」
きゅと抱きついて腕の中で見上げる顔は、やっぱり可愛かった。
久し振りに愛し合った後、離れたくないと涙ぐんだのがいじらしかった。
着崩れた作業着のオレンジが、眩しい。
「俺ね。遠距離でも上手く行くって分かって、良かったよ」
そっと触れ合う恋人達に、新しく遠距離恋愛を始めることになった遥は思案していた。
「どうしようかなぁ……俺。まだ、一人に決められないんだけど……」
あれから心ゆくまで愛を深め合ったらしい、遥と農業青年達は、搭乗時間の迫った空港でも離れがたい様子だった。
意外に、どちらとも身体の相性も良かったらしく、気のせいか今日の遥は、匂いたつようになまめかしかった。
ほんの少し、穂の作業を手伝った時の色あせたTシャツと作業服でさえ、遥には似合っていて色めいて見える。
明るい銀色の髪に、指を絡ませて田舎の青年達が愛を語る。
その瞳は真剣だった。
「俺、小型旅客機の操縦免許持ってるから、逢いに行くよ、綺麗な遥さん」
「セスナ……?うん、待ってる。来るときは、知らせて」
「リムジンを迎えにやるから、箱根の別荘で待っててくれ。執事に不自由させないように言っておくから」
今日も遥は、金にものすご~く虚弱体質だった。
「温泉付きなの?じゃあ、湯上りでぴんくに染まった、卵肌の俺を楽しみにしててね」
「湯上り卵肌……ぶっ……」
湯上りと聞いて、想像で鼻血を吹きそうになったらしく、後頭部をがんがん叩いている田舎の兄弟に、望と穂は呆れた。
こんな免疫なくてこいつ等、平気なのか?
こう見えて、遥は見た目と腹黒さの不一致が学内一といわれているのだ。
純朴な彼等が歩くフェロモン、遥の手玉に取られるのは、日を見るより明らかだった。
「テクニシャンで美しい遥さん。別れたくない。いっそ、このまま人前でもいいから、ここで押し倒したい」
「ああ、俺もそう思ってた、ダーリン」
10分前まで繋がっていたくせに、どの口が言う?
しかもダーリンって。
今時、ダーリンって。
「ありがとう、ダーリン達。もういっそ、二人で俺を貰ってね」
運よく(?)知らないで大金持ちの農業実業家達の花嫁募集事業に、申し込んでいた遥だった。
間違って来てしまって、ごめんなさいといって、運賃をせしめたはずが、意外にも花嫁候補としてやたらと盛り上がった。
しかも天井知らずの節操無しで、求められるままひらひらと、男達の間を揚羽のように舞っていた。
遥の実家も結構な金持ちだったが、この兄弟の金持ちっぷりと来たら半端なかった。
産直市場を何店も経営し、都心にも近く直営店をオープンさせるという。
年収、億単位と聞いて遥は、昨夜、念入りにシャワーを浴びた。
洒落たシトラスの香りは、まるで媚薬だ。
大金持ちの農業実業家は、遥の広げた網の中に見事に落ちた。
「俺らが上京したら、一緒に暮らそう。目黒にワンフロア買ってあるから」
「いや~ん♡」
にっこり……。
希代の悪女もこれほどの蕩ける笑みを浮かべたかどうか……
兄弟達は最初、遥を取り合って殆ど三すくみのようになっていたが今や、知的(痴的?)排他的?共有財産と言う美術品を購入するような形で納得したらしい。
「まあ、身体がきついけど、若い間はなんとかなるでしょ。就活も大変だし、永久就職しちゃおうかなぁ、俺」
シンデレラ・ボーイのたわごとは一切無視して、望と穂は時間の許す限り抱きあっていた。
再会を約束して、互いの心臓の鼓動を聞いた。
遠距離恋愛も悪くない。
色狂いの遥なんて、どうだっていい。
今は、そう思っていた。
音のうるさい小型飛行機の窓から下を見れば、穂の乗る白い軽トラが後を追ってくる気がする。
黄金の稲穂の実る平野に、真っ直ぐ地平線まで農道が続いていた。
「うっ、穂(みのる)……」
今、別れたばかりなのに、もう逢いたくて恋しくて涙が出てくる。
「穂と別れて俺と付き合うなら、今すぐにでも金貸してやるし、今夜一晩、ラブホに行くならヘリコプターをチャーターしてもやるけどどうする?」
同じ台詞で、遥が誘惑してきた。
白い軽トラは、一途に農道をひた走って去ってゆく。
「あ~ん……穂(みのる)……ーーー!!」
ああ……遠距離恋愛なんて、やっぱり駄目だ。
(完)
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