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隼と周二 番外編 SとⅯのほぐれぬ螺旋 2 

カタ……と、蒼太の眼前に黒い皮のケースを置き、あごをしゃくった。
「開けてみな。誕生日プレゼントだ、蒼太」
「木本さんが、ぼくに?何だろう……」
食事の手を止めて、黒いケースのふたを開けたとき蒼太がどんな顔をしたか。
それから、木本は長い間忘れることができなかった。
「これも……愛?木本さん。」
その場で、うつむいた蒼太はくっと咽んで「木本さんが、くれたのがうれしい」と告げた。
だが、蒼太が黒い箱の留め金を開けた瞬間の、引きつった顔を木本は見逃さなかった。

無理はない。
そこにあるのは、蒼太が使われたことのある銀色に輝く医療用の器機……大から小まで十数本はある正真正銘の尿道とアナル開発用の代物だった。
狭い場所を無理やり拓く痛みに泣き叫び、恋人の膝に縋ってもうやめてと許しを請うたのは、つい最近だった。
「それ、本当に嬉しいのか?蒼太」
意地悪な木本が重ねて問う。
「木本さんに、初めてプレゼント貰ったから……うれしい、です。ぼく……初めての時は、上手く使えなかったけど、きっと慣れるから。教えてください、木本さん」
蒼太が自分に応えようと必死の様子は、眺めていて正直心地よい。
散々いたぶって、仕込んできた。
初めての男が木本だったのが、蒼太にとって良かったのか悪かったのかは良く分からない。
制服の襟で隠れている鎖骨の上には、所有印のように木本の歯形が紅くついている。
だが、もうそれも今日でお終いだ、可愛い蒼太。

「それ、今すぐ入れてこすってみろよ、そこで」
「今すぐって……これから、木本さんのお店に行って、そこで……」
「滅菌された新品だから、感染症の心配はいらない。やってみな」
青ざめた蒼太の咽喉が、ごきゅっとなった。
木本の冷ややかな三白眼は、最初に蒼太を抱いたときから、決して蒼太の言い分を認めない。
常に隷属するしか、年上の恋人のお気に入りにはなれないと、利口な蒼太は知っていた。
ただ、わかっていても、周囲はあまりに健康的で明るすぎた。

「お、お願いです。木本さん、トイレに行かせてください」
「俺はー、そこで、入れろって言ったんだがなー。聞こえなかったか?」
黙りこくった蒼太が、何とか落ち着こうとグラスを取り上げ水を飲もうとしたが、指先が震えてグラスは持ち上がらなかった。
見る見るうちに、額に冷や汗が浮き、顔色が失せて青白くなってくる。
人のざわめく明るいファミリーレストランで、木本は蒼太の一人前になりかけたばかりのささやかな若茎に難題を吹っかけていた。
蒼太は、必死に木本に向けて発する言葉を探していた。

静かな沈黙が、粟立った肌を刺すような気がした。
目元を赤くしてうつむき、耐える蒼太になおも言う。
「なあ。これが、何かわかるか?」
年上の恋人の手の中にあるのは、小さなコードのないリモコンのようだった。
いつも、可愛らしい色の震えるものを、固いつぼみに挿入して時間をかけて解してくれる優しい木本の様子が、どこか違っていた。
「いえ、わからないです。それ、使ったことない……」
「無線のバイブレータだよ。見てな」
「……え?」
手のひらで操作した時、木本の肩越しに蒼太の見知らぬ男の頭がびくと揺れたのを見た。
蒼太よりもきっと年上の、細い黒い皮パンが似合う男は、ゆるいウエーブのかかった長い髪を撫で上げこちらを向くと唇をなめた。
上気して潤んだ視線が木本に向けられ、振り向きざま肩口に縋って甘くあえいだ。
「木本さ……、もう、俺、もう、ずくずくで、はや・……く、あんたのを入れてくれなきゃ……」
ファミリーレストランの奥の喫煙席で、男の頭を抱えて応えるように深く口付ける姿に、蒼太は我慢できず立ち上がった。
「木本さん、この人は誰ですか?」
「セフレ」

にやりと、最愛の男が微笑んだ。
「おまえはガキで、処女みたいにおぼこくて何もやらしてくれないからさ~。こいつにバイブ入れて、いつでも好きなときに突っ込めるように準備させてるんだよ。おまえに分かるように言うなら、『調教』?」
「き、もとさん……」
なじろうとして震える声が、奥まで走ってきた子供の声にかき消された。
「お母さーん、このおじちゃんたち、キスしてるーーー!」
店中の視線が、立ち上がった蒼太に一瞬で集まり、人目に晒された蒼太は慌てて座った。
「何だよ。言いたいことがあるんなら、言ってみな。蒼太、おまえにもいつかニップルと、そこに、プリンス・アルバート……開けてやるから、楽しみにしてろよ。」
ぶるっと、蒼太の全身が傍目に分かるほど大きく震えた。

木本が自分にくれたのが、本気で尿道口からピアッシングする準備のための道具なのだと知った。
木本の愛に応えるには、これからもこういうことはきっと起こる。
蒼太の切れ長の奥二重が、三日月になって潤んでいた。
「これも……愛?木本さん。」
小さな声で問う蒼太の子猫の瞳が、木本の真意を探って真っ直ぐに向けられていた。
蒼太の頬に、一筋つっと細く涙が走ったのを木本は認めた。
「さあ、どうだかなぁ……。ほら、見てみな。こいつには、もうハファダ が入ってるんだ。(たまたまの包皮にするピアッシング)可愛いよなぁ、俺への従属の証だってさ。似合うだろう?」
喫煙席は 、店の一番奥なので人目はなかったが、 蒼太は自分の想い人が目の前で悠然と自分の知らない男の茎をむき出しにして、緩くなぶるのを無言で眺めていた。

愛する男の手の中で、自分ではなく違う男の持ち物が姿を変え、たらたらと露をこぼすのを眺めるのは辛かった。
ほろほろと蒼太の頬に涙がこぼれるのを眺めて、木本はとうとう年下の恋人に告げた。
「いいか、蒼太?まともに相手ができるようになってから、俺の前に現れろ。いちいち、ぴいぴい泣き喚くようなガキには用はないんだよ。蒼太……もともと、沢木の旦那に言いつけられた仕置で、仕方なく抱いたんだからなぁ」
癖のない生徒会長の黒髪が、うつむくとはらりと額に落ちた。
「し……かたなく……?い、今もそう思ってる?」
「ああ。そうだな」
愛する三白眼が、否定の言葉を待つ蒼太の心を見透かしていた。
「そのうち、こいつに飽きたら、暇見つけて遊んでやるから。ションベンくさいガキは、さっさとおうちに帰りな」

蒼太はその答えを聞くと、こわばる指先で何とか財布から千円を抜き取ってその場に置き、ひとつ頭を下げてその場から逃げるように駆けた。
「蒼太!忘れ物!」
木本が与えた黒いケースが、その場に残された。
そばにいた男が、上気した顔を向けてささやいた。
「あ~あ、かわいそうに泣いちゃった。ひどい人だな、木本さん」

木本の顔も、どこかこわばって見えた。






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