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隼と周二 番外編 SとⅯのほぐれぬ螺旋 10 

目を覆われると、情報を遮断されたように感じて、誰もが途端に不安になる。
次に何をされるのだろうという不安と、甘やかな期待が頭をもたげる。
相手が見えない不安よりも、蒼太が今何を考えてそこにいるのかが気にかかった。
時間と空間が闇の中に解けてゆき、相手の存在を空気の流れと吐息で感じるしかない。

木本の店のお仕置きベッドで、蒼太は四肢を広げられていつも目隠しをされていた。
木本に愛されるときの蒼太は、いつも全身を拘束され、時には耳も口も覆われて、ひたすら一方通行の激しい愛撫に耐え、感じるだけ感じて意識とともに若い精を放出するだけの、感情を持つことを許されない人形だった。
一途な想いを踏み潰されるような手ひどいセクスに慣らされても、経験の無い蒼太は、恋人同士はそうするのが普通だと思っていた。
蒼太の本心は、女々しいといわれても恋うる相手に抱かれて、互いの顔を見ながら睦みひたすら相手を感じることだった。
自分を愛撫し征服する愛しい男の首に腕を回して、すべてをさらけ出してかきつきたかった。
今、やっとその願いが叶う喜びに、胸が震える。

情報を遮断されると、先が読めなくて恐怖を煽る。
縋れるものが自分に触れる相手の温かい手だけになって、鋭敏になった木本の身体がぴくりと蒼太の指に反応する。

「蒼太?」
「はい。充さん」

黄膚(きはだ)色の着物の前を割り、木本の胸に蒼太が熱い唇を寄せた。
かりと尖りに歯を立てるのも、拙いながら木本と同じ愛し方だった。
鎖骨の上に、同じ痛みが降ってきたのに思わず苦笑する。
畳んだ布団に身を預け、身体の中心に跪いた蒼太の指と舌が滑らかに腋かを這うと、全身の産毛がそそけ立った。
赤子のように強く吸い付いた乳首にも、やがて歯が当てられた。

「充さん、充さん……」

名を呼びながらずっと、なれない愛撫がゆっくりとぎこちなく円を描くように胸から腹へと滑る。
胡坐をかいた、木本の中心にやわとぎこちなく熱い唇が触れた。
吐息が首をもたげかけた器官の先端にふっと吹きかけられ、そこから何かが浸食する気がした。
こわばった震える指が、懸命に恋人を煽ろうとしている。

「足、もう少し広げてください」
「こんなくたびれたおじさんのモノを弄ったって、美しくもなんとも無いぞ、蒼太。裏っかわに、賞味期限切れシール付いてるかもな」

愛撫に懸命な蒼太には、わざと揶揄する木本の声は聞こえていない風だった。
やわやわと蒼太の指が熱い何かで濡らされ、動きが滑らかになっていた。
軽く周辺に口付けを落としながら、蒼太は長い間木本の棹を愛おしんでいた。

「くっ……」

まさか触れないだろうと思いながら、つい自分の後孔に意識が行く。
慣れず迷う指に、意識が追い詰められているのが分かる。

「ここ、いいですか?感じますか?」
「ああ……」

蒼太は自分に加えられた木本の愛撫を思い起こしながら、時間をかけて双球と茎の裏側付近を丁寧に舌でなぞってゆく。
性急に煽られ、放出するだけの行為ではなく揺らめく炎の中で蒼太が求めたのは、恋人と情を交わすこと。
しばらく逡巡したような気配が漂い、木本が思わず蒼太?と声をかけようとした瞬間、熱いたぎりに包み込まれた。
蒼太の口腔の熱さを感じ、木本の咽喉が喘いだ。

「蒼太。無理をするな」

まるで自分の舌の動きを再現しているような気がする。
木本の決して小さくは無い全体が、深く熱い媚肉に似た奥に包まれてゆく。
最初に蒼太を抱いたとき、とことん追い詰めて、放つ瞬間木本は鞭を使った。
痛みと快感は同じものだと教えながら、木本は崩れて泣く蒼太に暗示をかけた。

「痛いの好きだよなぁ、蒼太」
「いや……いや。違う……やめて、痛いのはいや……」

音だけで余り痛みの無い鞭に、精神を打ちのめされ泣き濡れた蒼太が、やっと顔を上げて聞いたのを覚えている。
余りに意外な言葉で、忘れられなかった。

「これが、愛……?」

確かに蒼太は、そういった。

飢えた子供のように、たどたどしい指使いと子猫の舌で、全身を使って必死の蒼太が木本を愛そうとする。
咽喉の奥に必死で吸い込もうとしてむせ返り、熟れない蒼太の歯が当たった。
蒼太は咽喉元を埋める怒張に苦しみ、泣きながら半勃ちした年上の男を感じていた。
思い切ってねだってみたものの、自分の愛撫では百戦錬磨のこの男を満足させることはできないのだと、思い知らされていた。
蒼太が必死になっても木本の持ち物は角度を変えず、無力を責めるようで蒼太を切なくさせた。
木本は自分の晒された太ももに、温かい滴がぱたぱたと落ちたのを感じ、声をかけた。

「どうした?蒼太?」

引きつるような嗚咽が漏れる。

「ご、めんなさい……もう、終わりにさせて下さい。ぼくでは、あなたを満足させてあげられない。どんなにがんばっても、み、充さんはノーマルではイケないんでしょう?正真正銘のサディストなんだもの。わがまま言って、ごめ……んなさい……」
「蒼太。縄を解いてくれ。目隠しも」
「もう、おしま……いでいい?」

嫌われたくなかった。
一人になりたくなかった。
あなたを知ってしまったから、もう独りでいるのが怖くなった。
それを伝えたくて、蒼太は今日、全身で木本に縋ろうとした。
髪の一本、足のつま先まで、時間をかけてゆっくりと愛する方法が好きなのだと伝えたかった。
ほろほろと、静かに虚しい涙がこぼれる。
隼の言うように、たった一つの言葉を伝えようと思ったが、想いが溢れて言葉にならなかった。
好きな相手を満足させられなかった事実だけが、蒼太に突きつけられ気持ちを落ち込ませた。

緩い縄目を解くと、木本が自分で目隠しをとった。
きつい三白眼で、いつもセクスの相手を睨み付けるような木本の目が、どこかやわらかく、見つめられて蒼太は涙が止まらなくなっていた。

「へた……くそで、ごめんなさい」
「ああ。本当に、へたくそなフェラだったな。楽しかったか、蒼太?」
「はい」
「ちゃんとしたセクス、教えてやるよ。おまえの好きな方法、どうすれば一番感じるのか、言ってみな」

冷たく突き放されると思ったのに、思いがけなく優しい木本の言葉だった。

「約束だからな」
「……ぼく、本当は、痛いのはいやです。道具を使われるのもいやです。愛してくれるなら、木本さんの身体だけが、いいです。玩具じゃなくて木本さんだけを、い、挿れ……てください。」

仕方ね~な~といって、木本は両手で蒼太のねこっ毛をくしゃくしゃと混ぜた。

「おじさんは、身体がもたね~んだよ。高校生なんざ相手にしたらこっちが枯れちまわあ。俺は、お前よりも12も上なんだぜ」
「ぼくもすぐに年をとります。あのっ。ぼくが40歳になったら二人ともおじさんだし」
「そん時は俺は52か?蒼太。いいか、今は俺でもいいけど、いつかちゃんとした相手見つけろ。」
「木本さん?」
「おまえは利口だから、分相応、年相応って言葉知ってるだろ?分かるよな?」

しゅんとうつむいたかと思ったら、蒼太が懐にどんとぶつかってきた。

「お、っと!」
「うっ……あぁ~ん……っ」

今度こそ蒼太の涙腺は崩壊して、木本は思いがけず年下の恋人の滂沱の涙に唖然としていた。
聞き分けの無い子供のように、泣きじゃくる蒼太が溶け出してきた本心を喚いた。

「だったら、病院になんて来なければ良かったんだ。あのまま見捨ててくれれば諦められたのに。木本さんは何が怖いの?世間体?年齢差があっちゃいけないの?相応がそんなに重要なの?じゃあ、どうして最初に優しくしたの?愛だって言ったのはみんな嘘だったの?ぼくは側にいちゃいけないの?迷惑なの?こ、こんなに好きなのにっ、ぼくの気持ちは、何もっ、充さんに届いてなかったのっ……!」
「蒼太」

えぐえぐと引きつるように泣き濡れる恋人に手を差し伸べて、木本は蒼太を懐にきゅと強く抱き込んだ。

「しょうがねぇな。惚れてるからこそ、こんなおじさんから自由にしてやろうと思ったのに……。本当に、俺でいいんだな?後悔したって、知らねぇぞ」

腕の中の潤んだ瞳を上げて、愛してくれと子猫が啼いた。






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