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隼と周二 番外編 SとⅯのほぐれぬ螺旋 5 

いい子だなと、言ってしまってから、その言い方がまるで木本の写しなのだと気がついて、堰を切るように感情が込み上げてしまった。
深く顔を覆ってしまった生徒会長に、かける言葉をなくして隼はおろおろしている。
「あの、会長?ぼく。何か変なこと……ごめんなさい。余計なこと言ってしまった?」
「沢木……沢木……隼。頼むから、少しだけこうしていて」
そっと、ドアの隙間に気配を感じて目線を送ったら、周二が肯いた。
いつか、周二を胸に抱えてまるで聖母マリアのピエタのように見えた隼は、自尊心が粉々になった脆い心の少年をかき抱いた。

何が正しいのか、いけないのかわからなくなって、すっかり自信を喪失していたが、少しだけきっかけをつかんだ気がする。
「ま……だ、間に合うかな」
黒い癖の無い髪の毛に、そっと手を伸ばして撫でた。
「何もしないでいるよりは、きっと伝えたほうがいいです。例え叶わなくても」
隼の胸から眼差しをあげたとき、樋渡蒼太は全校生徒が羨望の目を向ける、きりりとした孤高の生徒会長の顔になっていた。
「ありがとう、沢木。不毛に迷宮のラビリンスで考え込んでいるばかりじゃなくて、ぶつかってみるよ。君が伝えたいのは、自分で納得ゆくまで相手と向き合えってことだね。君は書記としても、友人としても有能だね。木庭が羨ましいよ」
部屋から出るとき、周二に気がついて最後の一言はそっちに向けたようだ。
「君のねんねは、木本さんの言うとおりただの「ねんね」じゃないね。なんだろう、傍にいるだけで闇の中で一条の光明が射した感じかな。凍っていた胸に、暖かい灯がともった気がする」
ふっと破顔して周二が、めんどくせぇ、もっと分かりやすい日本語使えよ、と言う。
「ったりめーだろ。隼は、この木庭周二の情婦(ばした)だぜ」
見送る背中に、これまでのように自信に溢れた覇気が戻ったような気がする。
「隼」
「あ、周二くん。迎えに来てくれたの?もう少しだけ待っててね、文化祭の決算書、提出期限があるから片付けます」
「そんなのいいから、こっちに来いよ」
「だめです~。お仕事はきちんとしなくちゃいけません」 

まじめな顔でファイルに向かい、隼は計算機でカタカタと打っていたが、周二はその横にわざとらしく座った。
さわさわと、あちこちに指が伸びる。
「だめっ。お仕事中です」
「隼に、生徒会長の匂いが付いてるのが、やなんだよ」
「え?だって、周二くん、さっき肯いたよ?あれは、慰めてあげての合図でしょう?」
制服の胸に鼻をうずめて、いたずらな指がその下を探った。
薄い桃色のささやかな突起が、ぺったんこだったのをぐりぐりと押すと、ほんの少しぷくりとなって周二にかまわれたいと紅色のほのかな色を付ける。
片方の胸の尖りを強く吸ってやりながら、片方をつまみ上げ指の腹でこすった。
「隼、ここも、好き?」
「す……あっ、ぱ……ぱんつは、卒業まで脱がしちゃいけませんよ~」
「ぱお~っ(´・ω・`)」 通訳:「純愛ですから~」
「そのつもりだったけど、腹立ってきた。今すぐ、隼のぴんくのぞうさんにマーキングするっ!」
「きゃあ」
その後も隼は、生徒会長、樋渡蒼太のことが気になって仕方が無い風だった。
「周二くん。あのね、気のせいだったらいいんだけど、会長ね、熱っぽかった気がするの。咳も時々していたし」
「まあ、あの勢いで木本に連絡入れるだろうから、面倒見るだろう。それより……なぁ、隼」
夕日の入る元、視聴覚室で周二は隼を膝に乗せた。
「黙ってれば、ぜってぇくそ親父には分からないって。だからさ、ちょっとだけ「ご挨拶」な?」
「だめです。純愛だもん」
制服のズボンを奪われた隼が、腕の中で緩く抗った。
「あれ。おまえ、前に木本に貰ったレースのひもパン、はいてんの?」
「だって、このぱんつ周二くんが可愛いって言ったから。キンタマーニじゃなくなっても、好きかなって思って」
キンタマーニの意味は相変わらず分からなかったが、周二は大きく肯いた。
「好きだぜ。めっちゃ可愛いし、超似合う~。というか、もう毎日ずっとそれでいろ」
「一枚しかないもの。毎日は無理だよ」
「じゃあさ。これから買いに行こう。今すぐにっ!ぱんつくらいなら、小遣いでいっぱい買えるだろ」
「だって文化祭の決算書、提出期限あるんだよっ」
「俺の辛抱にも、限度があるんだよっ」
「でもっ」
「デモは、隣の国に任せておけって」
結局、隼は周二と買い物に出かけ、蒼太の熱の話は何処かに行ってしまった。

その頃。

少しふらついた蒼太は、おかしいな、足元がふわふわする、と思いつつ何とか自宅に帰ってきていた。
自宅といっても、現職大臣を務める親元を離れての一人暮らしで、通いの家政婦が週に三回食事を作りに来る高級マンション暮らしだ。
潔癖症の蒼太は、家事もほとんどすべて自分でこなす。
帰宅したらまず、洗濯機を回し掃除機をかけた。
「あれ……何だか、ぼうっとする」
制服を脱いで、シャツを洗濯機に放り込みベランダに出ようとして、目が回った。

不意に背筋をぞわと悪寒が走り、まずいと思って体温計を使うと39度2分もある。
急いで、市販の風邪薬を飲もうとしたが、見当たらない。
がたがたと、急速に上がる熱の震えに襲われ、歯の根が合わずかちかちと走った。
外国暮らしが長かった蒼太は、これまで周囲がそうしてきたように、熱を一気に下げるために水シャワーで冷やすことにした。
部屋を暖め、薬を準備してこそ効果もあっただろうが、日ごろの健康を過信していた。
この一週間というもの、蒼太は木本とのことであれこれ思い悩んで、まともに食事すら取っていなかった。
通いの家政婦の作る食事も、申し訳ないと思いながらトイレに流し、ゼリードリンクだけで済ましていた。
シャワーを浴びガウンをひっかけて居間に入った瞬間、蒼太の弱った身体は思わぬ高熱に対処できず倒れた。
ベランダは開け放たれて、涼しくなった秋風に、蒼太はこのまま何時間も晒されることになる。






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