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隼と周二 番外編 SとⅯのほぐれぬ螺旋 1 

昼下がりの明るいファミリーレストランで、チーズハンバーグ定食を待っているのは、一分の隙もないと言われている稀代の生徒会長「樋渡蒼太(ひわたりそうた)」とその年上の恋人、本名「木本充(きもとみつる)」だった。(ちなみに木本の源氏名は、真人(まこと)と言います)
蒼太はともかくとして、どうみても堅気ではない木本にはこの場所はどこか不釣合いで、気の毒になるほどだった。
贔屓目に見ても、昼の世界には似合わない男は、まだ少し早いが誕生日プレゼントを手渡すからという理由で蒼太を呼び出した。
「木本さん。イメージとは少し違うけど、こんなところにもたまには来るの?」
小首をかしげて質問する蒼太に、どのタイミングで別れを切り出したものかと思いながら、木本は「いや」と軽く首を振った。
「こうして外で会うの、初めてですね。ぼく、ちょっと嬉しいです。あの、なんだか新鮮な気がします」

頬を染めて蒼太は普段よりも饒舌に語り、その分はしゃいでいるのだろうと木本にはわかる。
顔には出さないが、どこか人に馴れない子猫を思い起こさせる一回りも年下の恋人が、本当は可愛くてどうしようもない木本だった。
癖のない黒い髪は、細い猫っ毛で柔らかく小さな顔を包んでいた。
自分が守役を務める、木庭組4代目周二の恋人、沢木隼のような少女の面差しではないが落ち着き払った生徒会長の顔とは別に、木本の前ではくるくると可愛らしく年相応に表情を変えた。
その顔は本人も気づいていないが、木本にだけ向けられる幼さの残る顔だった。
「この前ね。文化祭のとき、大勢の人が並んでいたのに、沢木がどこかに行っちゃって大騒ぎになったことあったでしょう?あの時、木本さんの一言でみんな黙っちゃって、すごく助かりました。ありがとうございました」
蒼太の言っているのは、文化祭での話だった。
お姫さまの格好をした沢木隼とツーショットの写真を撮り、朗読CDを販売する長蛇の列ができていたとき、なぜか休憩時間から隼が行方不明になってしまった。
最後尾はすでに二時間待ちという、信じられない盛況ぶりだったが待たされるほうは堪らない。
直ぐに他の女の子が大勢お姫さまの格好をして現れるように手配をしたが、何しろ女の子は支度に時間がかかった。
群集が大騒ぎし始めたとき、木本はあっさりとまさに鶴の一声でその場を鎮めてしまったのだ。

「あの時ね、かっこよかったです。ぼく、やっぱり木本さんってすごいって思いました」
「そうか、すごいのはそこだけか」
食事を運んできたウエイトレスがそばに来たときを見計らって、わざと話を向けてやった。
「あの……あの……木本さんはあっちもすごいけど……あっ」
その横にすっとトレイを置かれて、やっと直ぐそばに人目があるのに気づき、蒼太は紅潮し固まった。
そんな蒼太を見ると、やっぱり潮時だなと木本は息をついた。

今日、木本は蒼太と別れるために、ここへ来たのだ。
その場を取り繕うように、少しあわてて蒼太がいう。
「あのっ。熱いうちに食べましょう。ここのハンバーグ安いけど、値段の割にはちゃんと国産牛使ってて、おいしいんです」
手馴れたしぐさで、ナイフとフォークを使う。
生まれ育ちがいいのと、海外暮らしが長かったせいだろうか、有名レストランが似合いそうな上品なたたずまいだった。
塾のない日、制服を脱ぎ捨て木本に抱かれて淫乱になる蒼太の、誰も知らない顔を知ってる木本は正真正銘の真性サディストで、なぜこんな子供を相手にしているのだと木本を知っている人間はみな首を傾げるだろう。
開花したアナルローズを斜に眺めて、鞭を振るうサディストの木本と、蒼太のそばにいる優しげな木本はとても同一人物には見えない。

文化祭当日、晴れやかな顔で屈託なく木本に手を振り、笑みを浮かべた蒼太を自由にしてやると決めた。
可愛くて堪らない蒼太の、生徒会長としての顔を見てしまった木本は、蒼太には明るい陽の中を歩くのが似合いだと思った。
「自由にしてやらなきゃなあと、思ってさ。そろそろ、あいつも進路とか考える頃だろ」
季節はいつの間にか、晩秋となりアキアカネが飛ぶようになっている。
「でも、あいつ。兄貴のこと大好きじゃないですか。きっと離れませんよ」
「そんなときゃ、こっちから振ってやるのが、大人ってもんだろ」
木本はほっとため息をつき、いつもと違う顔を見せていた樋渡蒼太の顔を思い浮かべた。

『これも、愛?木本さん……?』

何故かいつも縋りつくような目で、愛を確認する年下の恋人だった。
狂おしい秋に、引導をわたし自由にしてやろうと思った。
恋に不慣れな蒼太が、沢木隼に対する「おいた」が過ぎて、仕置き代わりに無理矢理抱いたのが始まりだった。
真性サディストの自分に必死で縋る蒼太を、本心から可愛いと思っていた。
そして、文化祭に来てくれと年下の恋人にねだられて出かけた木本は、はっきりと気付いてしまったのだ。
「蒼太と俺じゃ、生きる世界が違うんだよ。分かっているなら自由にしてやるのが大人ってものだろう?」
文化祭の帰り道、松本にそう告げて別れることにしたのだ。
だが松本の言うとおり、なまじっかなことでは蒼太は別れるとは言わないだろう。

だから、策を弄して嫌われることにした。
蒼太のために。






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