小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・78
中学一年のときに、ぼくにも(身体は男の子だから当たり前なんだけど)変声期が来た。
朝、起きたら風邪でもないのに、声がかすれてて出にくかった。
毎日、どんな低い声になるかと思って恐恐としていたけれど何とかアルト位で止まってほっとした。
どうかこのまま、ボーイソプラノでいられますようにと、学校の帰りに毎日寄ってお願いした神社の神様が根負けしたのかもしれなかった。
だって野太い声になってしまうと、ぼくがぼくじゃなくなる気がするから・・・。
声変わりを除けば、中学校での生活は人生の中で一番穏やかだった気がする。
良くも悪くも、周囲に認められて、ぼくは「オンナノコミタイな松原海広」という存在で三年間を過ごした。
文化祭や体育祭では、周囲に言われるままオンナノコの恰好をして喝采を浴びたりもした。
恥ずかしくなんてなかった。
だって、ぼくは元々オンナノコなんだもの。
舞台に上がるまで、その辺に居ても気付かれないどころか、他校の男子にナンパされて、心配した四之宮君は専属のボディガードになっていた。
さすがに、パパはぼくのメイドさんの恰好を見て父兄席で複雑に苦笑していたけれど・・・。
他の人から、女の子の恰好が似合うって言われたのは嬉しかった。
問題の体育も、水泳時間は自習か女子の授業の実技参加で単位がもらえることになり、養護の先生と二人ガッツポーズをした。
小学校と中学校の保健室の先生がいたから、ぼくはいつの間にか神経性の胃痛からも卒業することが出来た。
松原海広は、この先もずっと、先生方への感謝を忘れません・・・と、いつか本当にきちんと伝えたいと思う。
いっぱい助けてもらいました。
桜が咲き、そして散り、幾度か季節がめぐってぼくは高校生活を送っていた。
相変わらず、男の子にしては身長は低かったし、首も細かったけど、これは亡くなったママからの贈り物のような遺伝なのかもしれない。
普通の恰好でいても、オンナノコに間違われることは多かったし、周囲の人はそんなぼくにいつしか自然に馴れていたように思う。
可愛いものが好きで、茶色の髪のオンナノコミタイナ松原海広は、時々鏡の前でオンナノコになる。
まさか、表に出たりはしなかったけれど、通販で可愛い部屋着を買ったのが初めで、それから時々パパに内緒でお小遣いで色々買ってみた。
うさぎのリュックに、里奈ちゃんに貰ったブラジャーとパンツが入っていたけど、カチューシャと赤い口紅も追加されて入っていた。
化粧品は百円均一で、朱里兄ちゃんの彼女さんが色々揃えてくれたけど、さすがに使えなかった。
パパの前では、やっぱりまだ男の子を全部失くしてしまうのは悪い気がして・・・
大人になるまで、パパの前ではこのままでいようと思っていた。
可愛い格好をすると、パパはいつも困ったような悲しい顔をして笑うから。
ある日、みぃは晩生だからなと、洸兄ちゃんが言った。
「おくて・・・って何?」
「何も知らない子どもって意味だよ、ばぁか。」
「みぃくんは、子どもじゃないよ。」
彼女の居る朱里兄ちゃんは子どもだっていうけど、ぼくは大人のキスも知っているし、四之宮君とも、ちゃんと唇にキスしたんだよ。
パパには秘密の「言っちゃだめ」な箱に入っているけどね。
本当のことを知ったら、お兄ちゃん達も、きっとびっくりするだろうなぁ。
絶対、言わないけど。
「みぃは、今のままでいいんだよ。」
一番上のお兄ちゃん、洸兄ちゃんは、いつもそう言ってぼくの気持ちを、楽にしてくれた。
洸兄ちゃんは、大人になったぼくを想像できないと言う。
「今のままが、可愛いんだけどね。急いで大きくなるなよ、みぃ。」
ぺたぺたとまとわりつくぼくを、邪険に振り払ったりしないで、血のつながらないお兄ちゃん達はいつもうんと甘やかしてくれた。
いつもお読みいただきありがとうございます。最近になって初めてJ庭と言うのを知りました。
色々なものがありますね。きっと目くるめく世界なんだろうなぁ・・・
田舎者は行けませんが、きらきらの世界だろうと思います。素敵。 此花
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