小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・81
「お父さんは家から出て行けって言うし、お母さんは泣くし、お兄ちゃんは恥知らずな弟はいらないって・・・だから、わたし・・・わたし・・・成瀬さんに・・・。」
おじさんは、ぽろぽろと涙が零れたユリアちゃんを抱き寄せて、うんと優しくよしよしと頭を撫でた。
ぼくは知らなかったんだけど、おじさんはブログをやっていたらしい。
ユリアちゃんはずっと前からメールで、性同一性障害の自分のことを色々、相談していたみたいだった。
「でも、きっと心配してると思うよ・・・だって、ユリアちゃんの本当のお父さんとお母さんでしょう?」
「みぃ、人それぞれだよ。だから、その話はそこでお終いね。」
成瀬のおじさんの声が、ちょっと厳しくなったので、ぼくはそれ以上言うのをやめた。
ユリアちゃんの深い悲しみは、この間までのぼくの悲しみだった。
誰にも分かってもらえない、心の中のオンナノコの存在に、苦しんでいるのはぼくだけじゃなかったんだね。
高校生になってから、もう解禁といって成瀬のおじさんは、色々な話をしてくれるようになった。
パパと一緒に、ゲイバー「スワン」のママにも会ったけど、どんな場所にも色々な人が居て色々な考えを持っていて、一生けんめい生きているって分かった。
今は、ぼくのような(きっとユリアちゃんも)タイプは、性同一性障害と言う病気だって認められれば、本当のなりたい自分になれる選択肢がある。
病気って言われるのはいやだし、認めるのも少し悲しいけど。
今は水商売以外の道も開けているけど、スワンのママの若い頃にはそんな選択肢はなかったのだそうだ。
昔は、あたしみたいなのはね、新宿二丁目と言う場所で、ひっそり咲く隠花植物と呼ばれたのよと、ママさんは言った。
身長が180センチもあり、靴も28センチ、身体は骨が太く胸板も厚くて、周囲の誰よりも男らしかった。
それでも中身は女なのよ。生きていくにはここしかなかったのと笑うスワンのママさんは、大勢の仲間を死なせてしまったといった。
死なせてしまったなんて、とても平気で口に出来る言葉じゃない。
「それは、何故?」
聞かずにはいられなかった。
「そうね、若い間は良いの。でもね・・・年を取る事を考えるとね、いてもたっても居られなくなるのよ。」
そんな話を聞くとき、ぼくは想像できなくて、胸が痛くてどうしていいか分からなくなる。
「あたしもね、綺麗なうちに早く死んでしまいたいと思ったこと、何度も有るわ。」
「誰でもいいから、泣いてくれる人の居るうちに死にたいって思うわね。たった一人、生きて行くよりは誰かの思い出になりたいのね。」
マイノリティは、10人居れば、その大部分が自殺を考えるんだと、おじさんが言った。
それは驚くことに、きちんとデータが取られていて、実に歌舞伎町で働くニューハーフの74パーセントが死を考えたことがあるという。
「夜の華やかな世界で咲いて、嬌声を上げていてもね、朝になったらしぼんじゃうんだよ、生きる気持も一緒にね。」
「生きていれば何とかなると思いたいけど、時々はそうね、きれいごとでしかないの。」
成瀬のおじさんも、そんなことを考えたのと、聞いてみた。
おじさんは、とても強い人だと思っていたから。
「みぃ。俺が死にたかったのは、祥子を亡くしたときだけだよ。」
ママの事を話すとき、おじさんはとても優しい顔になる。
おじさんは、ママのことが本当に大好きだったのだ。
「みぃを遺してくれたから、死なずにすんだようなものだな。何しろ、祥子にそっくりだった。」
華やかな嬌声と、ミラーボールの回るショウの世界の裏側で、心ない言葉に傷ついて泣く人はいっぱいいた。
普通の仕事に就きたくても、履歴書を書くともうだめで、大抵が不採用になる。
身体と中身の不一致は例外なく深刻だった。
お金さえたくさんあれば、昔も手術が出来たらしいけどみんな「もぐり」で命懸けだったって。
手術が失敗して、言葉は悪いけど不具者や片輪になったものも大勢いた。
酔った客の言葉に笑っていても、みんな深く傷ついて笑顔の裏で血を流していた。
余りに深い傷だと治りきらずに、死にたくなってしまうんだ、きっと・・・
「みぃは、綺麗なだけで幸せよ。ママにうんと感謝なさいね。」
「化け物なんていわれて笑われて、嬉しいわけないでしょ?みんな中身は、人間なのよ。」
水商売で貰うお金は、我慢料なのよとスワンのママが笑った。
ニューハーフの人の事を、別名「ほがらかさん」と、いうのです。
優しい人達が多いです。 此花
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おじさんは、ぽろぽろと涙が零れたユリアちゃんを抱き寄せて、うんと優しくよしよしと頭を撫でた。
ぼくは知らなかったんだけど、おじさんはブログをやっていたらしい。
ユリアちゃんはずっと前からメールで、性同一性障害の自分のことを色々、相談していたみたいだった。
「でも、きっと心配してると思うよ・・・だって、ユリアちゃんの本当のお父さんとお母さんでしょう?」
「みぃ、人それぞれだよ。だから、その話はそこでお終いね。」
成瀬のおじさんの声が、ちょっと厳しくなったので、ぼくはそれ以上言うのをやめた。
ユリアちゃんの深い悲しみは、この間までのぼくの悲しみだった。
誰にも分かってもらえない、心の中のオンナノコの存在に、苦しんでいるのはぼくだけじゃなかったんだね。
高校生になってから、もう解禁といって成瀬のおじさんは、色々な話をしてくれるようになった。
パパと一緒に、ゲイバー「スワン」のママにも会ったけど、どんな場所にも色々な人が居て色々な考えを持っていて、一生けんめい生きているって分かった。
今は、ぼくのような(きっとユリアちゃんも)タイプは、性同一性障害と言う病気だって認められれば、本当のなりたい自分になれる選択肢がある。
病気って言われるのはいやだし、認めるのも少し悲しいけど。
今は水商売以外の道も開けているけど、スワンのママの若い頃にはそんな選択肢はなかったのだそうだ。
昔は、あたしみたいなのはね、新宿二丁目と言う場所で、ひっそり咲く隠花植物と呼ばれたのよと、ママさんは言った。
身長が180センチもあり、靴も28センチ、身体は骨が太く胸板も厚くて、周囲の誰よりも男らしかった。
それでも中身は女なのよ。生きていくにはここしかなかったのと笑うスワンのママさんは、大勢の仲間を死なせてしまったといった。
死なせてしまったなんて、とても平気で口に出来る言葉じゃない。
「それは、何故?」
聞かずにはいられなかった。
「そうね、若い間は良いの。でもね・・・年を取る事を考えるとね、いてもたっても居られなくなるのよ。」
そんな話を聞くとき、ぼくは想像できなくて、胸が痛くてどうしていいか分からなくなる。
「あたしもね、綺麗なうちに早く死んでしまいたいと思ったこと、何度も有るわ。」
「誰でもいいから、泣いてくれる人の居るうちに死にたいって思うわね。たった一人、生きて行くよりは誰かの思い出になりたいのね。」
マイノリティは、10人居れば、その大部分が自殺を考えるんだと、おじさんが言った。
それは驚くことに、きちんとデータが取られていて、実に歌舞伎町で働くニューハーフの74パーセントが死を考えたことがあるという。
「夜の華やかな世界で咲いて、嬌声を上げていてもね、朝になったらしぼんじゃうんだよ、生きる気持も一緒にね。」
「生きていれば何とかなると思いたいけど、時々はそうね、きれいごとでしかないの。」
成瀬のおじさんも、そんなことを考えたのと、聞いてみた。
おじさんは、とても強い人だと思っていたから。
「みぃ。俺が死にたかったのは、祥子を亡くしたときだけだよ。」
ママの事を話すとき、おじさんはとても優しい顔になる。
おじさんは、ママのことが本当に大好きだったのだ。
「みぃを遺してくれたから、死なずにすんだようなものだな。何しろ、祥子にそっくりだった。」
華やかな嬌声と、ミラーボールの回るショウの世界の裏側で、心ない言葉に傷ついて泣く人はいっぱいいた。
普通の仕事に就きたくても、履歴書を書くともうだめで、大抵が不採用になる。
身体と中身の不一致は例外なく深刻だった。
お金さえたくさんあれば、昔も手術が出来たらしいけどみんな「もぐり」で命懸けだったって。
手術が失敗して、言葉は悪いけど不具者や片輪になったものも大勢いた。
酔った客の言葉に笑っていても、みんな深く傷ついて笑顔の裏で血を流していた。
余りに深い傷だと治りきらずに、死にたくなってしまうんだ、きっと・・・
「みぃは、綺麗なだけで幸せよ。ママにうんと感謝なさいね。」
「化け物なんていわれて笑われて、嬉しいわけないでしょ?みんな中身は、人間なのよ。」
水商売で貰うお金は、我慢料なのよとスワンのママが笑った。
ニューハーフの人の事を、別名「ほがらかさん」と、いうのです。
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