小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・76
「もしもし、成瀬のおじさん?・・・あのね、今日ね。」
「あぁ、みぃ。どうした?誰かに襲われたか?」
何で分かったの?・・・じゃなくて。
「違うよ。あのね、プールで溺れたの。」
電話の向こうで、軽くあははと笑い声がした。
「みぃは、泳げないのか?そっか、チビの頃、プールに連れて行ってやったことなかったからなぁ。」
で?話はプールのことじゃないんだろ?
電話してきたと言うことは、何か問題でもあったのか?と、おじさんはいつも凄く察しがいいので、ぼくは驚いてしまう。
パパには恥ずかしくていえないので、おじさんに同級生の四之宮君にキスされちゃった、どうしようって相談した。
「うわ~・・・みぃ、キスされちゃったのか。そりゃ、パパには言えないな。で、みぃは、今も大人のキスを覚えてるか?」
「えっと。えっちのお仕事の?」
「そう。」
「・・・うん、何となくだけど。おじさんが教えてくれたんだよね。」
電話の向こうで、いいか?パパには絶対に言うなよと、おじさんが悪戯っぽく笑う。
あの石頭に殺されたくないから、だって。
「中学生だったら、キスしたってどうせほっぺにちゅっだろ?」
「ううん、あのね、四之宮君はお口にちゅってした。」
電話をしながら、四之宮君を思い出して、ほっぺたが赤くなって胸がどきどきする。
電話の向こうで、大げさにおじさんが驚いて見せた。
「おお、生意気だなあ、そいつ。今時の中学生は可愛げないのな。」
ぼくは一生けんめい、四之宮君が小学校のときから庇ってくれた話をした。
いじめられて悲しかったときも、クラスで独り浮いていた時も、腹痛を起こすたびに、保健室に連れて行ってくれた。
無口だけれど頼もしい、大きな背中の柔道部の男の子。
「そうか、いいやつなのか。で、みぃはその子の事好きなのか?」
好きなのかと聞かれて、ぼくは困ってしまった。
好き・・・?
嫌いじゃないけど、好きかって聞かれるとどうなんだろう・・・?
小さなときからぼくを大事にしてくれた、お兄ちゃん達と同じ感じかなぁ・・・
だったら、大好きとおじさんに告げたら、そうかと笑ってた。
みぃは、いつも周囲のみんなに大事にしてもらって果報者だって。
「でも、その四之宮って子に恋愛感情はないんだな?」
「うん。」
「だったら、この先お友達でいてねって、ちゃんと伝えられるか?」
「うん。ちゃんと言う。お友達でいて欲しいから。」
素直に今の気持を伝えるんだよと、おじさんは言って電話を切った。
大切な友達。
大好きな友達。
失くしたくない、特別な友達。
四之宮君は、かけがえのない友達。
好きな子はちゃんといたけど、まだ恋と呼べるものじゃない気がしていた。
身体が小さくて発育不全だと、心もそうなのだろうか。
ちゃんとした恋って、一体どういうのを言うのだろう。
答えが欲しかった。
どの子も、みんな悩んで大きくなります。
ちゃんとした大人になるために、みんないっぱい悩みます。
お読みいただきありがとうございます。
全部最初から、読んでくださった方がいらっしゃるみたいです。お時間と労力ありがとうございます。
感涙です。あなたのためにがんばります。 此花
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