真夜中に降る雪・13
BL KANCHORO・冬企画参加作品
【真夜中に降る雪・13】
この時を経ても愛おしい者を、自分は手に入れてはいけないのだと、自制しようと思った。
*********************************
今も春美は、部室に1人置いて行かれた過去の世界に住んでいるのだ。
慕う後輩を残酷に翻弄する、聡一の居る過去に。
高校を卒業し、大学に入学し、自分の後を追っていると気がついてから、いつか話をしようと思っていた。
大人になった今は過去の惨酷な遊びを、若気のいたりだったと謝って、子どもだったから・・・と今日こそ、一笑に伏してしまうつもりだった。
今となっては、滞った春美の時間を動かしてやるのが自分のすべき事だと思う。
聡一の頬にも、流れるものがあった。
7年分の深い悔恨が、胸に迫る・・・
誰かをこれほど長く傷つけているなどと、思いやることすらしなかった。
「聞いて、春。」
「・・・俺はずっと、忘れた事なんてなかったよ。」
聡一は春美の小さな顔を両手で挟むと、そっと優しく口付けた。
見開いた光る目に、自分が映る。
「好きだったよ、俺は。春のこと、いっぱい虐めたし、泣かせてしまったけど、本当に好きだったんだ・・・」
「うそ・・だぁ・・・」
「キスしたかった。触りたかった。抱き締めてずっと長いこと、一緒にいたかった。だけど、俺にはそれが許されなかった。」
「せんぱ・・・ぃ。」
「だから、酷いことをした。焼き鏝を押し付けるように、春が俺のこと忘れないように。いつも、俺のこと思い出すように。」
「昔の俺は大嘘つきだったんだ。好きな子を虐めるガキだったんだ。」
ほろほろと、春美は泣いた。
今、前にいる聡一は、下草もまばらな春美の幼い茎をなぶって吐精を笑った、酷薄な先輩ではなかった。
そう思うのに、涙ばかり込み上げてきて自分でも不思議に思う。
「春。うつむかないで、こっちを向いて。」
「せんぱ・・・ぃ。やです・・・や。」
いつかと同じように言われて春美は、自分のとまらない涙の理由が分かった気がした。
日の差す部室で、震える唇が聡一を呼ぶ。
信じられないような酷い扱いを受けても、先輩が好きだった。
白いボールを投げる姿に、胸が震えた・・・
だから、おいでといわれれば誘いを拒めなかった。
凍りつくような思いで、扉を開けた。
「側に・・・いて。」
行かないでと、過去の春美が嗚咽する。
側にいて。
キスして先輩・・・と、無音の唇が動いた。
「春・・・?どうした?大丈夫なのか?」
呆然とした聡一の腕の中の春は、顔を覆って泣き伏していた。
のろのろと下着を拾い、身に付け笑われながら零した自分の白い精を拭く・・・
心臓が悲しみで張り裂けそうだ。
かわいそうな、かわいそうな春美。
どんなに好きでも愛されなかった惨めな春美。
春美の緊張しきった身体から、ふっと力が抜け崩れ落ちた。
「春っ!?」
極限の緊張が、春美の張り詰めた糸をぷつりと切った。
***********************************
BL・KANCHOROU冬企画参加作品です。
緊張の糸がぷつりと切れて、春くんは倒れてしまいました。
初恋は叶わないもの・・・決して叶えてはいけないと強い倫理観に支配されている春くんです。
BLなのに、ファンタジーなのに・・・
【おまけ】
春美:|ω・`) 「いいとこだったのに~、此花のあんぽんたん~・・・」
聡一:(`・ω・´) 「がんばろう、春!時間はまだある!」
孝幸:゚・。(。/□\。)。「早く、帰って来い、春~!」
拍手もポチもありがとうございます。
ランキングに参加していますので、よろしくお願いします。
- 関連記事
-
- 流れ星に愛をこめて・4 (2011/01/08)
- 流れ星に愛をこめて・3 (2011/01/07)
- 流れ星に愛をこめて・2 (2011/01/06)
- 流れ星に愛をこめて・1 (2011/01/05)
- 真夜中に降る雪・番外編「はじめての春」 (2011/01/04)
- 真夜中に降る雪・15(最終話) (2011/01/02)
- 真夜中に降る雪・14 (2011/01/01)
- 真夜中に降る雪・13 (2010/12/31)
- 真夜中に降る雪・12 (2010/12/30)
- 真夜中に降る雪・11 (2010/12/29)
- 真夜中に降る雪・10 (2010/12/28)
- 真夜中に降る雪・9 (2010/12/27)
- 真夜中に降る雪・8 (2010/12/26)
- 聖なる二人の星月夜・後編 (2010/12/25)
- 真夜中に降る雪・7 (2010/12/25)