真夜中に降る雪・15(最終話)
BL KANCHORO・冬企画参加作品
【真夜中に降る雪・15】
後部座席で振り向いた小さな春の顔が、遠くなってゆく。
笑っていた。
去ってゆく春は、ばいばいと聡一に向かって子どものように手を振り、幸せそうに笑っていた。
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春が自宅に帰ってきたのはまだ7時にもならない早朝だった。
打ちっぱなしのコンクリートの無機質なエントランスに、春美の知る陽だまりが立っていた。
「お帰り、里中。」
「孝幸・・・。」
きっと、長い間そこで春美を待っていたのだろう。
動きすらぎこちなく、寒気で強張った笑顔を向けた。
「寒かったろう。」
「寒いのは、孝幸だろう?早く、部屋に入ろう・・・?」
ふと伸ばして触れたその冷えた指先に、どれだけ長い間外にいたのかと、胸が騒いだ。
「あ・・・の。孝幸・・・?君、まさか昨日あれから、ずっとここに・・・?」
「まさか、着替えているだろう。・・・里中が泣いているんじゃないかと思って。芳賀さんを眺める君はいつもすごく、辛そうだったから。」
「知ってたの?」
「薄々はね。だって出会ったときだって、君の蒼白の顔色と来たらなかったよ。」
「そうだったね。」
やはり、この男には適わない・・・
「聞きたいことが有ったら聞いて。ちゃんと答えるから。」
「聞きたいことなんて、ないよ。俺は里中が帰ってきただけで、嬉しくて泣きそうなんだから。」
真っ直ぐに同僚を見つめる春美は、ふわりと包み込むような笑顔の孝幸の双眸に、不意に湧きあがったものを認めた。
これまで春美を見守るだけだった孝幸が、安堵したのか無防備に本心を告げていた。
「・・・一つだけ、聞いてもいいか?里中は今も芳賀さんが好きか?忘れられないのか?」
「孝幸?一つじゃなくて、二つになってるよ。」
からかうように明るく、腕の中で孝幸を見上げた春美を、真摯な眼差しが捕らえる。
「俺じゃ駄目か?あの人に比べたら、そりゃ俺じゃ雲泥だろうけど。」
酔いに任せて、衆人の前で好きだと叫んで以来、おくびにも出さない孝幸の気持ちを春美は知っていた。
知っていてやり過ごし、自分のことしか考えていなかった傲慢な自分。
目の前でドアを閉めたのは、先輩ばかりではなかった。
「ごめんね、孝幸。ありがとう、ぼくね、きちんと先輩に失恋してきたよ。」
「だから、あっ・・・」
毛足の長い孝幸のマフラーに春美の上げた声が吸われてゆく。
孝幸が抱き寄せるまま、春美は腕の中にいた。
そっと孝幸の背に腕を回した。
「里中・・・、里中・・・。」
「うん。孝幸、寒いのにずっと待たせてごめんね。」
大きな身体の孝幸が覆い被さるように、春美を包み込む。
温かい・・・と思った。
「・・・ずっと、孝幸が傍にいてくれたね。」
孝幸の触れた場所から、熱がじわりと広がってゆく気がする。
聡一は春美を、自分に降り積む雪だと言った。
自分が真夜中に降る雪なら、孝幸はそこに咲く雪割り草だ。
冷たい春美の凍えきった心に、ほんのりと大地の息吹く温かみがともる。
勇気を出して先輩についていった時さえ、孝幸はマフラーに思いを込めて巻いてくれた。
一つの魂を求め引き合うように、創造主は地上に三種類の人類を作った。
男に惹かれる男、女に惹かれる女、異性に惹かれる男女。
引き離された半身を恋うるように互いを求め合い、時間をかけてやっと片割れを手に入れた二人は、欠けた相手を探り貪るように埋めあった。
一つ息を吸う。
一つ息を吐く。
二人で一つに解け合う神聖な儀式。
春美を固く抱き締めたまま、孝幸は長い間声もなくじっとしていた。
長い彷徨の末にやっと手に入れた愛おしい者を、手を離せばまた失うと恐れているようだった。
肩に頭を埋めたまま、孝幸の低い嗚咽が響く。
「孝幸・・・?」
「ねぇ、もうぼくはどこへも、行かないよ・・・?孝幸?」
冷えた部屋の空気が温もるまで待てず、白い息を吐きながら互いの熱を求めた。
滑らかな下腹部を這うどこまでも優しい孝幸の無骨な手が、柔らかな春美のまだ高まっていない細い茎に触れる。
ほんの少し身じろげば、気遣う優しい視線が降り注ぎ、春美の白い肌が紅に染まる。
「隠さないで・・・春美・・・、どこも見せて。」
「どこもかも、みんな・・・俺のものだと言って・・・」
深窓の姫君を扱うように、大切にいたわり慈しむ唇を感じた。
細心の注意を払った孝幸の分身が、そっと慎重に春美にうがたれて行く。
春美の零す甘い吐息に、孝幸が息を詰めた。
虐げられ続けた精神の虚空がやっと開放され、隅々まで満たされてゆく。
共に高めあう恋人同士の、美しいセクスの形。
白く覆われた雪を、温かいと感じた日。
春美はかけがえのない、自分の半身を手に入れた。
抱き締められながら、春美はふる・・・と慄き、石膏の肌に白い精を零した。
幸せに震え、目眩がする。
傍らに居る半身の胸に、耳を近づけ鼓動を聞いた。
「春美・・・俺の、春。」
「孝幸。」
その夜再び、地上は舞い降りる真白な雪花に覆われた・・・
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BL・KANCHOROU冬企画参加作品です。
最終話にあたり、Invisible Loveねねさまの作品「あなたにあいたかった」をお借りいたしました。
BL KANCHOROさま二次企画参加作品となります。版権は全てねねさまに属しますのでご注意ください。
やっと一番大切なかけがえの無い相手の元に帰ってきた、主人公です。
一番大切な場面をどう書こうかと色々考えていたところへ、このイラストにめぐり合いました。
雪の中の大切な場面です。
美麗イラストの足を引っ張らないか心配でしたが、快くお貸しいただけて安堵いたしました。
ありがとうございました。
このお話は此花のキリ番にリクエストいただきました。
主人公のお名前と少しの設定をいただきました。大幅に設定も変更しましたし、したい放題で楽しく書きました。
深く人を愛すること、許すこと、かけがえの無い存在をテーマに書きました。
作者が未熟なせいもあり、納得行かない場所も多々ありますが、一番幸せな形を見つけられたと思います。
リクエストをいただいた小春さまに、これからたくさんの幸せが降り積もりますように。
少しお休みしたら、もう一本ねねさまのイラストをお借りして、出会いの頃のお話をssで上げたいと思っています。 此花
【おまけ】
聡一: おい。此花史上最大の、濃厚エチ場面ってのはどうなったんだ?俺、春に何もしてないぞ。
孝幸:仕方ないだろう、本人の中では史上最高だって思ってるんだから。
春美:だって・・・えっちだったじゃん・・・二人といっぱいキスしたじゃん・・・ |ω・`)
聡一・孝幸: 春・・・奥手すぎだろう・・・。
でも、これでも本人は、無い知識振り絞って必死こいてがんばったんだぞ~・・・
この次、がんばります。(`・ω・´)
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