小説・蜻蛉(とんぼ)の記・11
自害を恐れ、貴久の周囲からは全ての刃物が取り上げられた。
屋敷内にあるのは、先代藩主が徳川家康公より拝領した一振りだけだった。
寝間より離れた書院に置かれ、それ以上は何も起こるまいと安心していた。
大輔は、毎夜、貴久の寝室の外にいる。
無論、貴久も家中のものも知らなかった。
ただ、一番辛いときに共に居たいと思った。
蒲団に入るより、規則的な寝息が聞こえると、安心できた。
・・・遠くで衣擦れの音がする・・・
腕を動かしたのだろうか・・・?
大輔は、聞き耳を立てた。
ぎこちない音・・・何をしておいでになる・・・?
そっと障子を滑らせ、室内を伺った。
夜具からやや半身を起こして、向こう向きに荒い息が聞こえる。
「・・・何を・・・?」
月の光に照らされて、夜具から半身、腕だけでいざる貴久の手には、手入れの行き届いた小さな鋏(はさみ)が握られていた。
片手で身体を支え、一方の手で力なく喉を突こうとする。
「貴久さまっ!?」
「あっ!」
「何をなさいます!?」
揉み合って、鋏が手から零れ落ちた。
「頼む、大輔・・・頼む。見逃してくれ。」
「母上の元へ参らせてくれ。」
屋敷内にあるのは、先代藩主が徳川家康公より拝領した一振りだけだった。
寝間より離れた書院に置かれ、それ以上は何も起こるまいと安心していた。
大輔は、毎夜、貴久の寝室の外にいる。
無論、貴久も家中のものも知らなかった。
ただ、一番辛いときに共に居たいと思った。
蒲団に入るより、規則的な寝息が聞こえると、安心できた。
・・・遠くで衣擦れの音がする・・・
腕を動かしたのだろうか・・・?
大輔は、聞き耳を立てた。
ぎこちない音・・・何をしておいでになる・・・?
そっと障子を滑らせ、室内を伺った。
夜具からやや半身を起こして、向こう向きに荒い息が聞こえる。
「・・・何を・・・?」
月の光に照らされて、夜具から半身、腕だけでいざる貴久の手には、手入れの行き届いた小さな鋏(はさみ)が握られていた。
片手で身体を支え、一方の手で力なく喉を突こうとする。
「貴久さまっ!?」
「あっ!」
「何をなさいます!?」
揉み合って、鋏が手から零れ落ちた。
「頼む、大輔・・・頼む。見逃してくれ。」
「母上の元へ参らせてくれ。」
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