一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 11
がんがんに冷えた寝室で、おれはそれがいいことか、もしくはいけないことなのか分からないまま、雪男を引き寄せた。
雪男が死ぬまで求めてやまなかった…いや、もしかすると今もずっと求めている源七郎という男がここにいたなら、きっと迷うことなくこうしただろう。
ちびの雪男が自分がいなくなった後どうなったか知ったなら、絶対こうしたに違いない。
源七郎でもないのに、愛おしくてたまらなくなっていた。
源七郎が今わの際に、思いの全てを打ち明けた雪男は、黙っておれを見つめている。
薄い桜色の二枚貝のような唇が半開きになって、声には出さなかったが「源七郎さま」と言ったような気がする。
触らずにはいられなかった。吐息も冷たいが、気にならなかった。安物のパイルのガウンの紐に手を掛けると、雪男を冷えた寝台に横たえた。
源七郎とセクス…(なんていうんだ?交合?)…したことあるかとは聞けなかったけど…。
くつろげたガウンの下からは、輝くばかりの雪花石膏の肌が零れた。新雪の降った翌日、朝日を浴びて輝く目に眩いばかりの雪白だ。しんなりとうつむいてはいるが、持ち物はささやかに紅色 を帯びている。おれみたいにグロテスクなものではなく、どこか作り物めいた滑らかななめし皮に似た質感だ。弾力のある冷たい肉の鞘に、ためらうことなく触れている自分に内心驚いていた。
でも…。
ちょっと弱気になってもいいでつか?
自分からこうやって行くのって、実は初めてなんだよな~。中学の時は先輩と、高校のときは後輩とこすりっこしたことはあるし(相互おなにーだな。)酒の席で酔っ払って、同性とディープキスをしたりすることはあっても、最後まで行き着いたことはなかった。
おれの童貞は、高1でバイト先の先輩に捧げてしまったが、相手は女性だったから、ここで何の違和感もないのも不思議だった。おれ、バイだったのか…?
指の先に、雪男の少ない和毛(にこげ)が絡む。
這いあがって、首筋を舐め上げたらふっ…と浅く息を詰めた。
「いいぞ。源七郎って呼んでも。ずっと、待っていたんだろう?源七郎の代わりに、ちゃんと愛してやるよ。」
おれの言葉を聞いた雪男は、両手で顔を覆った。細く漏れた嗚咽に、おれが掛けた言葉は決して間違いではなかったと知る。雪に落ちた山茶花の花弁のように、胸が桃色に尖っていた。口を付けたら、氷に唇が張り付いたみたいになって、ぺりっと唇の皮が剥がれたらどうしようと思ったが、そんなことはなかった。
ほんのりと染まった全身は、陽向でほんの少し温まった石程度には、暖かだった。その場でおれを見つめたまま固まってしまった雪男の中身は、あの雪原で自刃したちびの桃太郎なのだろう。
身体は大人だったが、心は性愛を知るほどには育っていない。
たったひとつの真実見抜く。見た目は子供、頭脳は大人…なのは、コナンだ。雪男とは、逆なんだよなあ…
「なあ…雪男。ほんとうの名前を教えろよ。」
ぷにぷにと、頬をつついてみた。
(`・ω・´)「真実はひとつ!」
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