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青い小さな人魚 (漆喰の王国) 4 

きらりと人魚の瞳は輝き、スルタンの耳元に小さな声で海の秘密を教えた。
スルタンの哀しみに満ちた表情がやがて喜色を浮かべ、小さな青い人魚を抱きしめた。愛する者を失ったスルタンと囚われの小さな青い人魚は互いの空虚を埋めあった。
最後のパズルの一片をはめ合うように。

「あ……ああ……っ……。逆巻く波が、わたしを攫って(さらって)ゆく。ああっ……、このまま……放さないで。スルタン、マハンメド……。」

「……くっ!全てを呑み込まれる気がする……っ。なんという、身体だ。」

マハンメドの怒張を初めて受け入る狹いそこは、多くの愛妾を持つスルタンにも想像もつかない奇跡の場所だった。指先で触れたら内側に引き込むように細かな鱗が逆向きに生えているらしく、肉筒を挿しこんだら最期、うねるようにスルタンの分身にまとわりついてくる。引くこともかなわず、ひたすら締め付けてくる。
小魚を捕食する海辺の軟体動物の触手のように、まとわりつく人魚に、スルタンは長い時間、器官の先端から海の底へと誘われるように溺れた。

絡みつく潤みは、熱く濡れて器用な指のようにスルタンを呑み込み放そうとしない。
途中、水を欲しがった人魚の為に、結合したまま移動し、水槽の中でも何度も愛し合った。白々と夜が明けるまで何時間そうしていたか、スルタンにも人魚にもわからなかった。

******

戦続きの日々に、辟易していたスルタンは、今や囚われの青い小さな人魚に夢中だった。正妃を失って以来、抜け殻のようになり、一途に誰かを愛する事も忘れていた。
胸に空いた何かを埋めるように、スルタンは人魚の冷たい身体を狂おしく抱いた。器官をやわやわと締め付ける軟体動物のようなぬめる最奥の感触に、いつしか離れがたく思うほど溺れていた。

「さあ、おいで。」

「あぁっ……スルタン、マハンメド……。い、いけません……。わたしの精は、お身体に障ってしまいます。人には毒……なのです。」

「構わぬと言っただろう。もう、人の世に未練などない。」

「でも……。」

人魚の吐息はどこまでも甘く、傷附いたスルタンの心の内側をひたひたと満たして行く。
恥らってつつましく勃ちあがる、人魚の芯をスルタンは優しく弄ってやった。毒だと言われても紅色の芯から溢れる甘い露を余すことなく飲み干し、旺盛なスルタンの精は人魚が全身で受けとめて蕩けた。

太守が後宮を見向きもしなくなったのには理由がある。
後宮の美姫達は、妃が捕虜となった話を聞いたとき、表向きは嘆き憂いてみせたが、その実は、空いた正妃の場所へ我先に座ろうとするものばかりだった。
全身に金の粉を振りまき、美しいヴェールを身に着けて、それぞれがスルタンを籠絡するための手管を練った。
側女達の誰もが、いなくなった妃と同じ髪形に結い上げ、同じ白い薔薇の香料を使っていた。すれ違いざまに鼻腔をくすぐられたスルタンが、いなくなった妃を思い出し悲しくなることなど考えもしなかった。女たちは姿かたちを似せて、自分を無くしてまでスルタンの妃になりたがった。

スルタンは海に沈んだ正妃と同じ姿に着飾った、後宮の女たちを見るのが苦痛だった。
だが、スルタンがただ一人の忠臣と認める宰相も、世継ぎの無いスルタンに、国のために新しい正妃をと、日ごと違う美姫を伴ってはスルタンに薦めた。
辟易しながらも、スルタンは宰相の話だけは聞いた。

「太守よ。跡継ぎがいなければ、この国の高潔なお血筋は途絶えてしまいます。どうぞ、魚の尾を持ったあの珍しい生き物に入れ込むのはおやめください。」

「また、その話か。入れこんでいるのではない。今や、あれはわたしのただ一つの心の慰めなのだ。」

「それでは、太守。世継ぎを儲けてください。さすれば今後は、誰もあなたの所業に口出しはしないでしょう。」

「なるほど。その方のいう事にも一理ある。隠居するという事だな。」

事実、跡継ぎの居ない国主には、傀儡のように何の権限も与えられないと国法で決まっていた。後継者を持って初めて太守となり、国の統治者として認められる。

「許せ、ヤークート。自由を得るにはほかに方法がない。」

「はい。」

心ならずもしばらく人魚の元を離れたスルタンは、後宮の側女と肌を合わせ、潤んだ紅い壁に夜ごと世継ぎをもうけるために吐精した。
想いだけは常に、青い小さな人魚の傍に有った。




自由にならないスルタンと人魚の二人です。

(´・ω・`) 「スルタン……待ってる。」

(`・ω・´)「しばしの辛抱だ。」



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