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青い小さな人魚 (漆喰の王国) 6 

国を統べる太守には、政治や経済を補佐する有能な宰相が付いていた。
全てに秀でて頭の切れる明晰な男で、常に太守を影で支える怜悧な姿に、「スルタンの知恵刀」と人々は二つ名を付けた。人生の全てをスルタンに捧げ、幼い頃からすぐ傍で尽くしてきた。

だが今は、宰相の見つめる先に、これまでの太守の姿はない。
苛立つ宰相の目に、異形の者と閨で乳繰り合う、見る影もなくなったつまらぬ男が写った。

「スルタン・マハンメド。魔性の人魚に籠絡されてどうなさいます。このままだと、王国が滅びてしまうのです。しっかりなさってください。」

「妃も居ない今、わたしの心を理解するのはあの青い小さな人魚だけだ。国など、宰相が好きにすればいい。」

何度か諫言したが、スルタンは一向に取り合わなかった。
もし自分がいなくなったらスルタンはどうするだろうと、以前から宰相は考えていた。スルタンを敬愛していればこそ力を貸していたが、人魚が傍に侍るようになり思惑は違って来た。宰相にはスルタンが異形の魔魚に入れこむのが不思議でならなかった。

「どうすればいい……?。もう、あの方にすべてを任すことはできない。このままだと、世継ぎさえ望めぬ。いっそ、わたしが……。」

*****

宰相はマハンメドが幼少の頃から、片時も離れず傍に仕え、帝王学を授ける教育係として支えてきた。
やがて宰相はマハンメドの利発さを知るにつけ、大いなる野望を抱き、手段を選ばず三番目の王位継承者をスルタンの座につけてやろうと企みを持った。
誰よりも太守にふさわしいのは、自分が教育しているまだあどけなさの残る太守だと思っていた。マハンメドを即位させて、後見しながら実権を握ろうと、密かに策を弄していた。

誰にも知られてはならないことだが、マハンメドに入れこんで、宰相は邪魔者は全て排除した。まるで禁忌に触れた神話の実父のように、宰相はマハンメドを偏愛していた。

手始めに身体の弱い長兄を後宮に引き込み、宰相の息のかかった宦官共が習慣性の強い毒物で、薬漬けにした。
麻薬を求めて獣のように呻く、一番上の兄を「仕方なく」「国の為に」牢獄のような小部屋へと押し込めた。「今は、錯乱しておいでなのです。きっと、元の優しい兄上様に戻られますよ。お嘆きなさいますな。」と、涙を浮かべて悲しむマハンメドを励ました。

「マハンメドさまが、こんなに心配しておいでなのですから、兄上様はきっと、お元気になられます。」

「うん……。早く、元の兄上に戻られるよう、わたしは神殿で祈ってくる。」

だが兄は本復せず、悪夢と幻覚に苛まれ続け、とうとう二十歳前に自ら命を絶った。
マハンメドは宰相の胸で、兄を慕って名を呼び一晩中泣き明かした。
宰相は唯一無二の掌中の珠を慈しみながら、幼い太守を思い通り育てる喜びに震えた。

血気盛んな次兄の場合は、方法を変えた。
頑健な次兄には麻薬が効くとは思えなかったからだ。
スパルタンとの戦の時に、次兄の率いる大隊が敵陣の中央にうっかりと躍り出るように、細心の注意を払って地図に抜け道を書き入れる策を弄した。力しかとりえのない次兄は、利発な弟を目の敵にし、少しでも弟よりも武功を上げることに燃えていた。
その頃には、誰よりも勇猛果敢なマハンメドが、家臣の制止を振り切り次兄を救出に行ったが、宰相の計算通り手遅れだったのは言うまでもない。
次兄の亡骸を抱えて泣き伏すマハンメドに、「しっかりなさい。あなたはこれから兄上たちの分も、立派なスルタンにならなければいけないのです。スルタン、マハンメド。」と、背中を撫ぜてやりながら檄を飛ばした。

「宰相……わたしは、そんなものにならなくてもいい。兄上のお命さえあったなら、きっと力に成れたのに……。兄上……わたしがもっと、早く駈けつけられたなら……良かったのに。お許しください……マハンメドは間に合いませんでした。兄上……。」

「宰相……。どうすればいい?兄上達がいなくなってしまった、わたしは一人になってしまった……。」

腕の中で幼児のように泣く若きマハンメドの涙を、宰相は優しく吸ってやった。自分が指針を示してやらねば、この若い王はこんなにも脆いと心が震えた。

「わたくしが居りますよ。マハンメドさま。あなたは誰もが焦がれる東の大国の太陽になるのです。まずは、兄上の仇をお撃ちなさい。兄上の魂が神の御許で安らかに眠れるように……。」

「うん……。」

新しい太守は、この国をいつか地の果てまでも大きくするだろうと、宰相は三番目の王位継承者マハンメドに夢を託し慈しんだ。世界の果てを共に見渡し、神々と同じ名を持ち一心に民の尊敬を受ける太陽王の伝説をつくる、そんな大いなる夢を見た。
スルタン・マハンメドは、地を這う炎となって近隣諸国を呑み込み、天下に轟く伝説の太守となる……はずだった。




( *`ω´) おのれ、小魚め~。

(ノ´▽`)ノヽ(´▽`ヽ)←きゃっきゃっうふふなマハンメドとヤークート。

昨日分でヤークートの名前を付ける前に、マハンメドがヤークートと呼びかけてしまいました。
読み返して違和感のあるのに気付いたのは、かなり後でした。
うっかりこのちん……(´・ω・`)あんぽんたん。

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2 Comments

此花咲耶  

けいったんさま

> 宰相と マハメドの関係を知るにつれ あの春日局と竹千代を思い出すわ~
> ただ春日局は、徳永家光を裏切りはしなかったけどね!

あ、本当だ……。言われてみるとそんな関係です。
自分の大切な若さまだけしか見えていなかったんですね。
宰相もこうなってくると哀れなものです。(´・ω・`) ←作者~
>
> 宰相の企みのままに 事は運ぶのかな?
>
うふふ。(*⌒▽⌒*)♪どうなりますやら~。

> マハメド!ヤークートと 乳繰り合ってる場合じゃないって~~
> ♡~レゝ⊃も(●´ω`人´ω`●)レゝっUょ~♡...byebye☆

(〃゚∇゚〃) えへへ……←スルタンの威厳はどこへやら……

(*/д\*) きゃあ~。

後、二話くらいで終わる予定です。よろしくお願いします。(*⌒▽⌒*)♪

2012/03/11 (Sun) 01:55 | REPLY |   

けいったん  

宰相と マハメドの関係を知るにつれ あの春日局と竹千代を思い出すわ~
ただ春日局は、徳永家光を裏切りはしなかったけどね!

宰相の企みのままに 事は運ぶのかな?

マハメド!ヤークートと 乳繰り合ってる場合じゃないって~~
♡~レゝ⊃も(●´ω`人´ω`●)レゝっUょ~♡...byebye☆

2012/03/11 (Sun) 01:16 | REPLY |   

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