露草の記・参(草陰の露)5
凍り付いて笑みさえ浮かべぬ情の強(こわ)い少年に、何をされても耐えよ、忍びは人ではない、風の言うまま揺れる草なのだと、養父は何度も諭したが、露草に変わりはなかった。
頭では分かっているつもりでも、身体が裏切り思うようにならなかった。本多がどれほど優しく手をかけても、頬を濡らし息を詰めているばかりだった。自分でももどかしく、申し訳ございませぬと頭を下げた。
後孔に丁子油を垂らし、何とか身体を入れても息を止めてしまう。そればかりか、無理に開くと声も立てずにくたりと気を失った。
「諦めた方が良いのではないか?他に使う道もあろう。此度はその方の見る目が甘かったという事じゃな。」
「は……。」
本多にそう言われ激昂した養父は、銀杏の大木に露草を吊るして、意識がなくなるまで力任せに打った。
露草は痛みも感じないように、くるくると蓑虫のように回るばかりで、ぽっかりと空ろになった、瞳は何も映していなかった。
「これまでか……。」
養父が悔しげに漏らした。
露草は、養父が幾度も見てきた、己を捨てきれなかった「陽忍」の、精神が壊れる寸前の様子を呈していた。
「……ここまで散々、手をかけたものをっ。」
「おのれっ、役たたずめがっ。目が覚めるまで、うぬはそこに居よ!」
苦々しげに吐き捨てる養父の苛立つ心中は、足蹴にしても、どれほど打っても、収まることはなかった。縄目を受けた露草は柿の木を背にして、三日三晩捨て置かれた。
*****
やがて、見かねた本多が声を掛けた。
「もう良い。縄を解いてやれ。他の者を当てればいいだけの話ではないか。」
「は……しかし……。何の為にこれまで育てて来たかと思えば、情けなく……。」
本多は、散々に打たれた露草を抱きとった
「さあ、しっかりせよ。露草、大丈夫か?水を飲ませてやろうな。」
「……あい。も、申し訳もございませぬ。」
「良い。こういう事には向き不向きがある。露草にも、いずれ影として存分に働く日も来よう。おお、そうじゃ……。そちに、良きものをやろう。」
本多は思い出して懐を探り、がさがさと包みを取り出した。
兄と露丸の、金平糖の話を本多は知らぬ。
たまたま懐に有ったのを、ぽんと一つ、呆けた口許に放り込んでやった。
「……あ。」
「こんぺいとう……?」
「知っておったか?」
砂糖菓子の甘さに、しばらく驚いたように黙ってしまった露丸が、ひたと目を据えて「玄太にぃ……お役目じゃ。」と呟いた。
心の底に沈んでいた玄太との約束が、ゆらりと浮かび上がってきた。
(o・_・)ノ”( ゚д゚ ) 露草「玄太にぃ……。」
露草は金平糖をきっかけに、陽忍になれるのでしょうか……。ヽ(゚∀゚)ノ←
本日もお読みいただきありがとうございます。
ランキングに参加しております。どうぞよろしくお願いします。此花咲耶
頭では分かっているつもりでも、身体が裏切り思うようにならなかった。本多がどれほど優しく手をかけても、頬を濡らし息を詰めているばかりだった。自分でももどかしく、申し訳ございませぬと頭を下げた。
後孔に丁子油を垂らし、何とか身体を入れても息を止めてしまう。そればかりか、無理に開くと声も立てずにくたりと気を失った。
「諦めた方が良いのではないか?他に使う道もあろう。此度はその方の見る目が甘かったという事じゃな。」
「は……。」
本多にそう言われ激昂した養父は、銀杏の大木に露草を吊るして、意識がなくなるまで力任せに打った。
露草は痛みも感じないように、くるくると蓑虫のように回るばかりで、ぽっかりと空ろになった、瞳は何も映していなかった。
「これまでか……。」
養父が悔しげに漏らした。
露草は、養父が幾度も見てきた、己を捨てきれなかった「陽忍」の、精神が壊れる寸前の様子を呈していた。
「……ここまで散々、手をかけたものをっ。」
「おのれっ、役たたずめがっ。目が覚めるまで、うぬはそこに居よ!」
苦々しげに吐き捨てる養父の苛立つ心中は、足蹴にしても、どれほど打っても、収まることはなかった。縄目を受けた露草は柿の木を背にして、三日三晩捨て置かれた。
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やがて、見かねた本多が声を掛けた。
「もう良い。縄を解いてやれ。他の者を当てればいいだけの話ではないか。」
「は……しかし……。何の為にこれまで育てて来たかと思えば、情けなく……。」
本多は、散々に打たれた露草を抱きとった
「さあ、しっかりせよ。露草、大丈夫か?水を飲ませてやろうな。」
「……あい。も、申し訳もございませぬ。」
「良い。こういう事には向き不向きがある。露草にも、いずれ影として存分に働く日も来よう。おお、そうじゃ……。そちに、良きものをやろう。」
本多は思い出して懐を探り、がさがさと包みを取り出した。
兄と露丸の、金平糖の話を本多は知らぬ。
たまたま懐に有ったのを、ぽんと一つ、呆けた口許に放り込んでやった。
「……あ。」
「こんぺいとう……?」
「知っておったか?」
砂糖菓子の甘さに、しばらく驚いたように黙ってしまった露丸が、ひたと目を据えて「玄太にぃ……お役目じゃ。」と呟いた。
心の底に沈んでいた玄太との約束が、ゆらりと浮かび上がってきた。
(o・_・)ノ”( ゚д゚ ) 露草「玄太にぃ……。」
露草は金平糖をきっかけに、陽忍になれるのでしょうか……。ヽ(゚∀゚)ノ←
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