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露草の記・参(草陰の露)12 

「朝露に 咲きすさびたる 鴨頭草(つきくさ)の 日暮るるなへに 消(け)ぬべく思ほゆ」

鴨頭草(つきくさ)とは、月草とも書く露草のことである。
月草で染めた着物は、水で色が落ち易いことから、心変わりをたとえたりもする。
この世のはかない命を表すのに、詠み込まれている歌もあったなと兼良は思い出していた。

「義元殿。思うまいとしても、自然に思われる相手とは?恋しい相手は、私が良く知る近しい者かな?」

兼良の手からそっとしおりを取り上げ、義元は務めて顔色も変えず、意味ありげに含んで笑った。

(さあ……。いつの世も、恋は忍ぶものと決まっておりますから……。室町の時代より、想いは秘すれば花でございますよ。)

「欲の無いことだな。」

<意訳>

朝露(あさつゆ)をうけて咲いていた月草(つきくさ)が、日が暮れるにつれてしぼんでゆくように、あなたを待っているわたしの心も消え入りそうになります。

*****

緩やかに戦のない日々は、過ぎてゆく。
だが、武人は暇もありすぎると持て余すようだ。

ありていに言えばたった今、義元は少しばかり困っていた。

元々、義父の兼良は、軍神と呼ばれる無双の者でありながら、双馬藩一の洒落者で知られる。
細身の長身は、戦場で敵が見惚れるというほど目立ち、陣羽織も遠目に映える赤に金である。それらの装束を、そっくりくれてやろうと長持ちに何杯も持参して、義元は着せ替え人形のようになっていた。畳の上には、鮮やかな絹の海が広がっていた。

「さあ。これは、どうじゃ?これを上に羽織っての。」

(……父上にはお似合いかと存じまするが……義元には、このような華やかな物は似合いませぬ……。)

そういって固辞する姿も愛おしく、義父は初めて持った子供に夢中になっていた。
兼良はやっと揃った総髪を結い上げるのさえ、侍女に任せず櫛を取り上げ、侍女たちを苦笑させていた。

「ああ、やはり義元には、今一寸高い位置で結った方が良い。」

「何をしておいでですか、叔父上。ほら、おギギが困っておりますよ。」

居室を覗きに来た秀幸が見かねて、思わずそう言ったが、真顔で嫌なのかと問われたら、頷くわけにはいかず義元は頭を振った。

「そら。義元は嫌ではないと言って居る。」

「……叔父上。やれやれ、これはおギギも苦労するのう。」

*****

あれこれと、寸法の合わぬ華美な衣装を山ほど貰って、薄物をふわりと羽織った姿は、まるで内掛けの柄を選ぶ奥向きの女中のようで、どうみても武将というには程遠いものになっている。
元々、女性としても忍びこむ陽忍の鍛練を続けて来た義元に、違和感のあるはずがなかった。

「その竜胆の柄も良い。どれもこれも皆、義元には誂えのように似合うのう。」

賑やかにしているところへ、老臣秋津が来客の知らせにやって来た。

「秀幸さま。佐々井家の照姫さまがご到着になりました。」

「そうか、姫が参ったか。」

ぱっと秀幸の顔が明るくなる。
佐々井家の照姫というのは、秀幸の許嫁であった。
秀幸の縁談は幼い頃に既に決まっていたが、婚儀は双馬騒動によって延期となっていた。
藩主の病への遠慮も有り、佐々井家では見舞いと元服の祝いの持参と称して、秀幸に会いたがる照姫を名代として寄越したらしい。

(若さまに、許嫁がいらしたのですか……?)

「うん。叔母上の娘御で可愛らしい姫なのじゃ。行こう、おギギにも会わせてつかわす。」

(はい。)

秀幸は、義元の手を曳いた。喉に怪我を負って以来、そうしている。
誰かが傍に居る時はきちんと名を呼ぶが、二人きりで言葉を交わすときは、今も「おギギ」と「わかさま」と呼び合っていた。





嫡男ということは、正室を迎え跡継ぎを作り、双馬藩を存続させるのが、一大義務なのです。
当然、うんと若いころからお相手が決まっていたりします。

(〃゚∇゚〃)  秀幸 「おギギにも紹介するね~、かわいい子なんだよ。」

(´・ω・`) おギギ (……わかってるけど……やっぱりいたんだ、許嫁……。)

報われませぬなぁ……(ノд-。)←書いといて。

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