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露草の記・参(草陰の露)9 

於義丸の緊張が、何処か解けている様な気がするのは、もう追手に怯えずとも良くなったからかもしれない。
藩主と兼良は、かねてより考えていた元服の話を、改めて口にした。初陣を済ませたとはいえ、実際は於義丸が影として出陣していたし、秀幸は仮元服のままだった。

「於義丸、古巣と話が付いて良かったのう。これで次の吉日には晴れて、家中に安名義元の名を披露できる。盛大に元服の儀を執り行うからの。」

「そうとも。名実ともに双馬藩家臣となり、この兼良の息子になるのじゃ。既に義兄上からもお許しをもらった。」

(……はい。)

困ったような、はにかんだ笑顔になった。有り難い申し出だったが、内心途方に暮れていた。

藩主と兼良は、秀幸の恩人である於義丸に報いたいと、二人でいろいろ思案していた。
いずれ藩主となる秀幸の兄弟には出来ないが、いっそ妻女のない兼良が養子にしてはどうかと藩主が言い始めた。於義丸を双馬藩につなぎ止める楔になると、秀幸も諸手を上げて賛成した。

徳川の代になると忍びの殆どは闇に埋もれ、表には出てこないが、忍者は元々侍の末端の存在である。だから、武家の養子になるにも、出自は差支えはないだろうと言う話になった。
しかし実際の所、於義丸の一族は、本多に召し抱えられたと言いながら、普段は修練を兼ねて殆どが農業に従事している半士半農暮らしだった。そのまま頬かむりをすれば、すぐに任務に就けるように野良着で過ごして来た於義丸は、五万石双馬藩主の義弟との養子縁組は、余りに大それた話のような気がしていた。

於義丸は何度も分不相応、身分違いと反意し、辞退したものの、話はあっさりとまとまってしまい、命がけで安名の惣領を守った忠義者として、秀幸の側にいることになった。
自分に普通の武家暮らしが務まるだろうかと、不安に思う於義丸の本心も知らず、所領と於義丸の命安堵を手に入れた叔父と甥は共に明るかった。

*****

双馬藩主の名は、安名元秀と言う。
その名を、嫡男秀幸と於義丸二人に分けた。

「於義丸。そちの新しい名前には、忠義の義の字とわしの一文字を、しかと入れたぞ。」

藩主に披露された於義丸の新しい名は、「安名義元」といった
晴れがましく恭しく、義元は今日より安名義元と名を変えて冠を頂いた。

嫡男と揃って元服を迎えたその姿は、絵から抜け出たようで、見事な美しい少年武者である。
装束はすべて派手好きの兼良が、加賀から職人を呼び誂えさせた。
秀幸は藩名産の蘇芳染めの地赤に銀箔の菱を置き、金糸で双馬藩の家紋、丸に違い羽根を縫い取った。
義元は紺地に同じく銀箔の青海波、波間に銀糸の縫い取りである。
於義丸改め、義元の家紋は、兼良と共に新しく分家して、一代限りの丸に露草ということになった。




な……名前がややこしくなってしまって、すまぬ~(´・ω・`)

めでたく二人そろって元服の儀と相成りました。
(ノ´▽`)ノヽ(´▽`ヽ)←兼良とぱぱ。

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