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露草の記・参(草陰の露)6 

この日を境に、何故か大人たちが踏みしだいてきた露丸がふわりとほぐれて、養父が待ち望んだ「艶」を浮かべるようになる。
その夜、露草は自分から養父のもとに出向き、本多さまのお閨に行きたいのです、と口にした。

「父者。今度こそきちんとお役目に励むゆえ、もう一度本多さまにお願いしてくだされ。これ、この通り。」

露草は殊勝に手をついた。

「露草。お願いするのは良いが、もう二度と出来ぬとは言えぬぞ。」

「あい。必ずお役にたってご覧にいれまする。父者に、二度と恥はかかせませぬ。」

どういう風の吹き回しじゃと思いながらも、養父は本多の元へ今一度、露草をお試しくださいますようにと告げに走った。

「露草が本多さまをお慕いしておると申します。もう一度、あやつめに声を掛けてやってくださいませぬか。」

「……無理はさせずとも良い。元々、露草には酷な話であった。」

「いえ。此度は露草が自ら、どうしてもお館さまの元に参りたいと、申しましたので。」

「ふむ……左様か?」

訝しげに思いながらも、本多は露草を呼び寄せた。
覚悟を決めて、きちんと女にこしらえた陽忍の姿に唖然とする。匂うように臈長けて美しい女性が、本多の顔を見るなり爛漫の花となった。

「本多さま。」

「これは……まことに露草か?花のようじゃ……。」

「あい。つゆにございます。今年は春が遅く花の咲くのが遅くなりました。」

「そうか。遅咲きの花も良き眺めじゃ。」

「本多さま。今宵、つゆがお気に入りましたら、夕べのように金平糖をくださりませ。」

「露草は、砂糖菓子が好きか?」

「あい。これからはお役目を果たした後は、金平糖を頂戴いたしとうございます。」

「その位は容易いが……。出来るか?まだ幼いおまえには、酷な仕事ぞ。」

「できまする。遠くにいる大好きな義兄上と、指を切って約束をしたのです。お役目を果たせたら、きっとまた会える日も来よう……と。」

「そうか。露草は兄を慕うておったのじゃな。」

「あい。……天涯孤独のこの身を、義兄さまだけが愛しんで大切にしてくれたのです。最後に……別れ際に御役目に励めと言い置きました。お役目が上手くいったら本多さまに、金平糖を……貰えと……。さすれば、きっと兄と距離は近くなるだろうと。」

「そうか、そうか。」

腕を伸ばし、今は薄く涙が浮かんだのを袂でこする露草を、優しく胸に引き寄せた。

「健気な露草じゃ。本日これより草の名を捨て、我小姓、露丸と名乗るがよい。」

「あい。本多さま。勿体無い仰せにございます。心して努めまする。」

*****

縄目を受け散々に打たれたのを本多が哀れと思い、気まぐれに金平糖をたった一つ与えたのが始まりだった。
その夜、露草は露丸と名を変え、本多に向かって自ら細い足を開いて誘った。
初めての吐精に慄き、本多の胸に縋って泣いたが、確かに様子は変わっていた。

それから僅かの間に、本多は、早熟な「陽忍」の天賦、妖艶とも言える仕草と科に驚嘆することになる。
ほどなくして、伊賀の露丸は、名にし負う陽忍となった。





うう~……

がんばっていたのだけど、挿絵が間に合いませんでした……(´・ω・`)
残念~、明日は出来るかな~。

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